第3話五感はほとんど無い

 異世界に行こう、という小説サイトの独自解析は、今後の生存次第で使えるか使えないかが決まる。

 現実は小説よりも奇なり、と言うし。百文は一見にしかず、とも言う。


 そういえば、視覚はほとんどないも同然だが、味覚のようなモノはある。

 根っこから吸い上げる水分と、土壌に含まれていた養分を、なんとなく味わうような感覚で、体中へ循環させているんだ。


 触覚は、まだよく分からない。まぁ、無いとは思えないが、感じたくはない。だって、茎や葉を蟻等の虫が、這いずり回るような感覚だろうし。

 根拠としては風で揺れたり、雨に打たれたりするのだから、少しだけはあると思うのだ。


 ちょっと驚くべき事に、嗅覚がある。呼吸をしているのだから、空気以外を感知する事も可能なのだろう。

 例えば、煙や毒ガスに触れると呼吸が出来ない。微粒子が詰まったりして息苦しいだけでなく、それらを吸い込むと、そこから全体的に壊死していくだろう。咳き込む事が出来ないので、自力での除去が出来ない。

 また、毒ガスが溶け込んだ水分を、分解出来るような器官が無いので、一度駆け巡ると止めようがない。

 毒素を出せるのは、根っこ部分だけだろうし、土壌に出した自分の毒素で自滅する事は、ほとんどないと思う。自分以外の植物の根っこを枯らすくらいだから、攻撃にも毒ガスの中和にも使えない。

 出来るとしたら、土に浸透している水分の毒素を、少し中和する程度だろう。

 そういう事で、植物が除草剤に弱いのは、ある意味では仕方ないのだ。


 聴覚はあるっぽい。音楽を聴かせると、よく育つとか聞いた事があるし、学校の怪談で、音楽室のピアノを弾いていると、サボテンのような化物に襲われるので、気配を消す軟膏を全身に塗ってやり過ごす。そのような話もあるので、振動を察知出来ている。

 あるっぽいと言うのも、音階やら音程はいまだに分からないが、雪が溶けたりしたのか、風で崩れるような振動があった。

 音は振動によって空気中を伝播する。水中だと空気中よりも速くなる。

 ちょっと違うが、地震や波動も振動数が出る。固有振動数が合えば、ワイングラスも割れる。

 光の明暗が分かるのも、光の波動を振動として捉えているからだろう。でなければ、真っ暗のままだし、熱源の一つである太陽光も分からない。


 ここで一つの懸念材料がある。

 多少とはいえ五感があるという事は、痛覚もあるという事だ。

 動けない以上、ちぎられたりするので、痛みと向き合う必要性がある。

 葉っぱならまだ堪えられるが、茎が折れたり、ちぎれたりするのは、そう何度も味わいたくない。

 葉っぱ部分を人間でいうなら、髪の毛をむしられるか、生爪を剥がされるに等しい。

 茎部分は、骨折や切断だろう。喪失感が半端無い。

 しかも、これらは一生ついて回る不安材料でもある。

 花をつけた時点でむしられたら、怒りがこみ上げてきそうだ。もうちょいで受粉させ、種をばら蒔けるというのに。また最初からだったり、そこで死んでしまうかもしれないし。


 根っこごと引き抜かれたりしたら、痛みでショック死もありそうだ。

 瞬間的な激痛か、断続的な激痛なのかは分からないものの、根っこごと引き抜かれたあと、土を落とすように地面に叩きつけられたりもするだろう。

 薬草の材料とかなら、生きたまま磨り潰される。いや、生きたままというより、意識がまだ残っている状態か?

 どちらにしても堪ったものではない!


 ヤベェ……。考えるだにヤベェよ。

 拷問でももうちょっと手加減されるはずだが、植物は抵抗したりはしないし、訴えかける事も出来ないので、分かってもらえない。


 根っこが残ったら、根っこに意識が移るのか、分離したままで、恐怖と激痛を共有してしまうのか。

 ……あり得そうだからヤベェ。植物の精神を甘くみていた。


 普段から食べている野菜や果物からの視点だと、人間や動物は恐怖対象以外の何者でもないな。

 樹液や蜜に寄って来る虫や鳥も、傷口に塩を塗り込むような連中と見なせる。

 だが、植物はそのまま生い茂っているばかりでは、かえって悪循環を形成してしまう。

 木の枝葉を剪定しなければ、太陽光が当たらず、草花の発育を妨げる。勿論、その木の他の枝葉にも当たらないので、木自体の成長効率も悪くなる。


 木こり等の林業は、山や森の管理もしていると、テレビで聞いた事があった。枝打ちという、余計な枝を切り落とす事で、良い木材が出来るとか。

 まぁ、見も蓋もない言い方をしてしまえば、育てて収穫するという事でもあるのだが。


 俺が樹木なら、切り株として生き延びられる。かもしれない。切り株すら撤去されてしまえば、木材として家に生まれ変わるのだろう。

 それは、木材のままで生きる、という事に他ならない。

 白蟻に食いつくされ、雨水で腐ったり、火事で焼け落ちるまで、意識が残る。

 うん、木材もとい、建築物エンドは悲惨かも。

 家となるか、橋や家具となるか。ドアや舟かも知れないな。


 夢が広がると同時に、死に方色々だ。


 草花なら、染料としても生きるか。

 あれ? 染料は搾り取った残りカスと、色がついた液体に別れるはず。

 液体ではなく、残りカスに意識が移ったら、死んでしまうじゃないか。

 えー、そうなったら、幼女や美女の着る服にもならないではないか!

 野郎の褌とかはノーサンキューだが、女性モノの衣服には生まれ変わりたいゼ。

 まぁ、和風文化があるかすら知らんが、衣服とかの染料であろうと、最後は焼かれてしまう事に変わりはない。


 種子を撒いて、己自身の生存確率を上げなければ、全てが夢物語で終わる。

 変態妄想も無意味だな。服なら幼女にクンカクンカされたいし、家ならプライバシーもクソもなく、盗み聞きし放題だぜ。

 クソッ、何故植物には視覚情報が無いんだ!

 目玉がついた植物とか、ファンタジーにはあるだろうにっ!

 いや、生まれたてで、成長しきっていないんだから、まだ可能性はあるか?

 今後に期待しよう。そうしよう。


 そうそう、種子を撒くとなると、他の植物、いや、俺と同じような植物とも受粉する事になる。

 別個体と混じる事で、その植物に意識があるかどうかは別として、俺という意識がそのまま残るか、弱くなるかはするだろう。


 意識が弱くなると、いずれは消滅。残ったとしても、主に大半の意識を移している方を優先的にする。俺という自我は芽生えずに、植物然とした自我を宿す。

 要するに、時間が経つにつれ、意識は劣化すると思っている。

 保険をかけていても、いつの間にか期限切れで保険適用外とか、よくある話だし。

 主にスマホの部品交換だけど、二、三年で在庫が無くなり、買い換えるハメになる。

 新機種の部品在庫が優先で、旧い奴は処分されるのだから。限られた在庫置き場を圧迫しているので、こればかりはしょうがない。


 さて、どうやって生き延びようか……。

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