第2話土の中は暗く冷たい

 アイエエエエ!? 植物?! 何で、草花!?


 あ、アレか。マンドラゴラとかの人面植物か!

 もしくは、妖精が宿る草花?

 それとも、指輪を捨てに行く物語の、人面樹のようなもの?


 アレは樹か、まぁ、種子から発芽したてだから、まだ草花なのか、樹木なのか、はたまた竹なのかは分からないけども。

 実をつけるのが木で、花をつけるのが野菜だとか。なので、厳密に言うと、スイカや苺は野菜に属するらしいし。竹も草に分類されるんだとか。そんなトリビアがあったような。


 冷たいのは周りに積もった雪が、太陽からの陽射しで溶けた為のようだ。水は地面を伝いつつ、地中へと浸透する。

 その冷たい水を吸っていたから、乾燥じみた感覚を覚えていたのだろう。


 他人事のように思っているのは、客観的な思考で現状を見なければ、個人的な感覚ではこの状態を説明出来ないから。

 生前何かと読んでいた、異世界に行こうという小説サイトでは、魔物やらダンジョン・マスターとかに転生すると言うのがテンプレだったっけ。

 同じ生き物とはいえ、人型ですらないのに転生する日が来ようとは……。


 ちなみに、未だに視覚情報は無い。が、根っこや発芽した部分から流れてくる情報を、自分なりに解析した結果、どうやら暖かいのは陽射しのせいで、冷たいのはおそらく、周りが雪だからなのだろう。雪解け水によって地面は冷え、根っこも冷えているから。

 陽射しが当たる部分は暖かいものの、空気は冷たいままなので、気温は低いとも連想できる。

 おそらく、季節はこれから春となり、今は昼だな。

 まぁ、朝の可能性もあるが、些細な事だ。

 どれくらい積もっていたのかは知らないが、雪解けに掛かる、太陽光の照射時間を考えるに、朝という事は無いだろう。

 つまり、俺は今、ふきのとうに近い状態で、発芽してしまったと思われる。


 これは季節外れ感が否めない。凍死コースまっしぐらだ。

 まぁ、植物は生命力が強いので、時間経過と共に成長が著しく妨げられる程度だろう。

 凍死の確率は低いにしても、死なない程度には育つはず。


 次第に太陽光の熱が、俺の体をジンワリと暖めてくれる。

 光合成によって発生するデンプン質や糖質が、体を駆け巡る水分の凍結を抑える。だから、植物は寒さに強い。

 しかし、寒さに強いとはいえ、湿気が多すぎればカビにやられ、乾燥すれば山火事で焼かれる。

 と言うか、植物全般が火に弱い。落雷とかに注意しなくてはならない。

 ……動けないから無意味か。


 カビ以外にも、木々が生い茂っていると太陽光を満足に浴びれない。人の手によって余計な枝を切ってもらうと、木にとっても、足元の草花にとっても良いらしい。

 あと、虫に喰われると厄介だな。下手すると鳥やリスとかにもかじられるんだっけ?

 虫を狙う鳥は、勢い余って植物を傷つけたりもするらしいし。

 虫食いやカビにヤられると、トカゲの尻尾のように自切とか出来ないからなぁ。

 意図的に水分とかの供給を減らして、その部分だけを枯らすしかないか。


 光合成で酸素を出す傍ら、その裏側では普通に呼吸をしている。なので、プラマイゼロに近い。

 更には、光合成が出来る部分は決まっているので、二酸化炭素を吸収して酸素だけを排出する事は出来ない。

 つーか、光合成によって体が糖質やデンプン質だらけになったら、糖尿病っぽくなるし、よく分からない虫にも狙われやすくなる。

 まぁ、あくまでも人間の体を基準として考えているけど、生物なんて大小違うところもあれば、共通しているところも多いんだし?

 犬は人間と同じ病気になりやすい。虫がわいて体中が痒くなる、かいせんとか。人間とほとんど同じ骨格だけど、犬には鎖骨が無い。


 カビの他にもキノコ等の菌糸類も、水分や養分を奪い合う敵になるか。

 樹木ならキノコの苗床にされてしまう。椎茸とかの胞子を植え付け、将棋の駒で蓋をして、湿度を調整したりの世話をすれば、キノコ栽培が出来るらしいし。


 虫に喰われたり、キツツキ等の鳥に穴を空けられたりもするだろう。

 まぁ、冬虫夏草のように寄生したりする植物もあるし、鳥や蜂に受粉を手伝って貰う事だってある。

 そういえば、もし蜜蜂が全滅したら、大変な事になるとか聞いた事がある。

 リンゴやら苺の受粉が出来なくなるんだっけ?


 先の話はこのくらいでいいか。


 俺が生えている場所がどこなのかで、これからの生存率が大きく変動する。

 森や林なら、わりと安定して成長出来るだろう。

 民家の近くや街道の近くなら、引っこ抜かれてオシマイだ。しかも、中途半端な成長状態で終わる。

 子供に遊び感覚で引っこ抜かれるのなら、まだ良い方だけど、根っこごと引き抜かれたら枯れるまで放置されるか。


 その場合、俺という存在が死に絶えるのか、残った根っこに意識が移るのかは分からない。

 科学的に除草剤で死ぬか、魔法による焼却処分なのかも分からない。

 刈られる程度なら、なんとかなる。踏みつけられても大丈夫だろう。なにせ雑草なんだから、生命力だけは強いはず。

 とはいえ、雑草なのは暫定的だけども。


 魔法というモノがあるかどうかはまだ知らないが、転生している以上、あるモノだと仮定しておこう。

 ゲーム内転生モノなら、スキルとかもあるはずだし。

 ちなみに、転生は輪廻転生という仏教の教えが元にある。この世に生まれ変わるのではなく、この世に再び戻る事なく、別の世界で生まれること。

 つまり、今生の世界に戻る事は、仏教の教えでは良しとしていないのだ。

 しかも、転生モノの場合、多くが前世の記憶持ちという状態。魂が摩耗すらしていないから、記憶の連続性があり、この場合俺の状態も含めて、憑依転生となる。

 転位、トリップモノなら、地球にも帰れるらしい。

 だが、転生や憑依は戻れない。ゲーム内転生も、そのゲームが地球産なら戻れない。だって既に地球の中だから。

 こうなって来ると、世界は入れ子なのか、並列なのかでSFモノにもなってしまう。サイエンス・ファンタジーの略だ。魔法あり、ロボットあり、異能力あり。

 ダンジョンモノも箱庭ゲームとして、魔法あり、スキルあり。ポイント次第でほぼ何でもありとなる。


 え、よく分からない?

 ミクロな視点では、俺の現在地。マクロな視点では、この世界がどういうモノなのか。と言うだけ。

 異世界なら、魔法やスキルで生存率を上げられる。

 成長と共に自由に動けるなら、生前にマンガで読んだ、色々な武術を試せる。

 植物のクセに剣を振るうとか、誰も想定してないはずだし。

 ただし、火炎魔法だと自滅するから、水や土の魔法を覚えるか。

 まぁ、どれも動けるか、魔法があるかどうか、となってくるが。


 転生モノだと集団転生もあり得る。無いとは思うが、結託されるとそれは数の暴力。しかも転生者という、この世界の人々よりも、強い連中が徒党を組む。

 そうなると、妖怪首置いてけ状態にもなりかねない。世界の命運を賭けた戦いなんて、俺は関わりたくない。でも、巻き込まれたら拒否権はなさそう。


 うーん……魔法ありきで考えると、共生関係の虫や鳥、他の植物を従えるなり、連合を組むなりをしなければ、負け確定で立場も弱くなる。

 おそらく、食料や建築材の調達要員になるだろう。

 兵站や後方支援という、重要な役割を担う一員。

 それが信頼や信用された上でならまだしも、恐怖を植え付けたり、監視付きならヤル気も失せる。

 交渉につく前に、立場を対等へと持っていけるよう、最低限のチカラぐらいは、得ておかないとならない。


 魔法無しでも、自衛出来る戦力と戦術がいる。

 この場合、純粋に種族としての文化や文明の差が、そのまま戦力になる。

 剣や炎を使う相手に、花粉を撒いて花粉症を引き起こさせるまで戦うのは、どう考えても無謀だ。


 はぁ、動けないままだと思考に思考を重ねてしまう。まだ何も知らないし、分からないままだというのに。

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