考察1-02.続・戦前戦後日本の被害者【祖母】

太平洋戦争。良い意味でも悪い意味でも、現代の日本を作り上げた大きな歴史的な戦争だ。

祖母はまだ東北住まいだったため、関東地方のような苦労はしていなかったらしい。食料は何とかなったし、まだ小さな子供だった末の弟も徴兵からは免れた。

ただ、「元々豊富だったもの」が「豊富では無くなる」と人間は大きなストレスがかかる。今まで無尽蔵にあった農作物は国に取り上げられ、芋の葉や熟す前の果物を無理矢理採って食べていた事は多くあったらしい。それは全員に強いられた「不遇」だったはずだが、それすらも祖母は姉弟と比べ、自分の待遇を恨み、憎悪の対象へと変えていった。

私が小学生の頃、やはり今と同じように「平和教育」が存在した。戦時中の人々の暮らしや、戦地へと赴いた人々の惨たらしさ。無残な死、無謀な戦い。そこから生まれる、今の平和の尊さ。

そんな事を何かの拍子で祖母に話した時、祖母は無表情のまま、こう言い放った。


「日本が負けたから、アメリカの言うことを聞かなければならなくなった。それだけだ。全て、国が負けたのが悪い。勝てばもっともっと、アメリカを虐げ、裕福な暮らしができていた」


これが、祖母の見た「太平洋戦争」の全てだ。推して知るべし、である。


戦後、祖母は見合いで結婚し、2~3年程度で娘(叔母)、息子(父)を授かる。

だが、その夫はどうやら、息子が生まれて3年程度で病死してしまっていたらしいのだ。つまり、私が一緒に暮らしていた祖父は「後夫」ということになる。

当時の祖母が住んでいた地方では、夫が死んだからといって、おいそれと実家に帰るものではなく、かといって夫の実家に身を寄せる事もできなかった。

それと同時に、別の理由も浮き上がってきた。

調べていくうちに、祖母自体も「授かり婚」である事がわかってきたのだ。

「ふしだらな女」として夫実家からは突き放され、かといって自分の実家には跡継ぎがいる。まだ嫁いでいない姉達もいる。当然の如く、煙たがられた。

行き場所が無くなった祖母は、弟に土下座して頼み込み、姉達の侮蔑した顔を横目に、ウサギ小屋で数年、暮らしたらしい。


納屋ではない。蔵でもない。正真正銘「ウサギ小屋」である。


当時、鶏やウサギが飼われていた小屋で、鶏やウサギと一緒に、母子3人は身を寄せて暮らした。何とか雨風が凌げ、寝床は藁を積み重ねたもの。服どころか、日々の3食すら満足に食べることができなかったらしい。

祖母は実家の農業を手伝い、何とか食い扶持を稼いでいた。子供達は何とか学校には通えたものの、中学校までが精一杯だったようだ。その後、すぐに同じく農業を手伝い、後夫である祖父と出会うまで、日々を暮らすだけで精一杯の日々を過ごしていた・・・。


この「祖母の人生」を調べ始めたのはちょうど10年近く前。私の人生が異様である事を知り、父の考え方や人生も異様である事を知り、祖母へと辿りついた。

そして、祖母もまた異様であった事は間違いない。ただ、それが一概に「祖母【だけ】のせい」とは、調べれば調べる程言えなくなってきていた。

そこには、濃密な日本独特の「風習」があり、「戦争」という大きな節目があり、全てが混じり合った結果として、祖母の人生のような「歪み」を生み出したのではないか。

祖母の嫉妬と憎悪、そして歪み。愛情の欠乏、全てを飲み込んでさらに堕ちていく負のスパイラル。

そのスパイラルは確実に、息子である父に、そして孫である私に、負の遺産として受け継がれている。


草葉の陰で、祖母は今、何を思っているのだろう。

そういえば、13年一緒に暮らした祖母から、一度も私の記憶に出てこない言葉が、1つだけある。


【しあわせ】


自分は幸せだと、彼女は確信する事は一度も無く、60半ばでこの世を去ったのかもしれない。

もちろん、国のせいだけでもない。祖母のせいだけでもない。祖母の実家、あるいは早逝した夫のせいだけでも、その実家のせいだけでもない。


時代の大波に飲み込まれ、泳ぎ切れなかった人間の不遇な末路。


私はそんな事を感じながら、祖母の人生調査を「一旦」打ち切った。

何故一旦かというと、また再開しなければならない事態に遭遇したからだ。


それは、祖父の自殺という、最悪の結末から巻き起こる、再調査だった。

これはまた、私の人生記録を書き進めた後、改めて考察を続けていこうと思う。

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