確定された死と不確定な生が鬩ぐ『楽園』が行き着く先とは

『DUM』と名付けられた閉鎖施設で暮らす、臓器提供という確定的な死を約束された『ヒュム』なる存在。

彼らには行き届いた生活だけでなく、教育までもが与えられ、『最大限の人権』が保証されています。

しかし『人権の保証』とは?
誰かの糧となるためだけに生きる意味とは?

ヒュム達を管理し教育するヒロイン・雪白ホムラの葛藤と苦悩が痛いほど伝わり、読み進めるごとに胸が苦しくなりました。

何故なら、ヒュム達は私達と同じように感情があり、一人一人違った個性があり、死を恐ろしいと感じるのだから。

綿密かつ緻密に描かれた世界観。
独特のルビで表現される残酷で美しい響き。
それらが一体となり、作り上げるこの『ユートピアに見せかけたディストピア』の味は、退廃的なまでに刺激的。

物語はまだ途中ですが、いよいよ世界は大きく動き始めようとしています。

その先に待つのは、望んだ変化か。望みのない変化か。
はたまた、望んだ不変か。望みのない不変か。

人として、いいえ生物として、『確約された死に向かって生きる意味』を深く考えさせられる、壮大な作品です。

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