とある転生剣の覚悟

 俺は一度死んで、気づいたら一振りの剣だった。


 そう、無機物転生ってやつだな。


 もう遠く朧になりつつ有るが確かに前世を人として生きた俺は、今となっては量産された一振りの決戦兵器つるぎ、名前は……まぁ良いだろう? 誰だって自分のことを番号で呼びたい奴なんざ居ない。

 ただまぁ、相棒は製造番号をもじってミシェルなんて呼ぶがな……。おまえそれハイカラかよ。いや相棒は金髪の外人だからハイカラだったわ。ちなみにゴリマッチョのオッサンだ。

 手に持たれて解るが、ゴリマッチョって安定感がハンパねぇの。安心して身を任せられるね。

 そう考えると生前物語に乗ってたような、細っそい腕の非力な美少女が剣を振るうとかマジありえん。そもそも持ち上がらねーだろと。これって剣あるあるだよな。


 そんな数打ちの俺なのだが、周りの同胞も皆自我を持ってるかってーとそうでもない。


 そう、本来なら管理用疑似魂Artificial Intelligenceが搭載された、凄えシステマティックに応答する冷たい機能のはずだったんだよ。


 ここまではっきりした意志を持っているってなると、前線を張る英雄エースが持つようなインテリジェンスウェポンになる。あいつらはやべえ、山は割るし海は割るし空も割る。振るったら取敢えず割るとか頭がおかしい。頼もしいがまず怖ェ。

 いくら遠縁の同胞つったって、お近づきにゃなりたくないな。何度かニアミスしたけど死ぬかと思ったわ。威圧感すげぇし、なんか病んでるんだもの。二重に怖いわ。


 まぁ……意志がある事自体は悪いこととは思っちゃいねぇよ? その御蔭で俺の相棒をより良く助けられてるんだからな。

 相棒は突然喋りだすような辺鄙な俺を、ちゃんと剣として使ってくれる良い奴だ。出来る限り精一杯死なねーように手をつくしている。


 とはいっても数打ちの1でしかねー俺だ。ユニークであってもオリジナルではない。

 何度も潜った死線のなか、至らぬ我が身に歯噛みすることのが圧倒的に多い。そういう意味では俺がワンオフだったら……よそう、ないものねだりってなもんだ。


 もう俺たちのような決戦兵器つるぎは、製造することすら出来ないんだから。


「……今日も頼むぜ」

『任せR相棒――』


 発音機能の損壊でくぐもる声に、しかし相棒は腰に帯びた俺をポンポンと叩く。これは願掛けみたいなもんで、一緒に生き残ろうって粋な計らいでも有る。

 ったく、俺はただの剣だっつーの。生きてねーんだっての。ったく有り難え話だ。


 ふと相棒が俺をしゃらりと抜き放つ。ろくに手入れも出来ていない俺は、なんとも情けねー事に刃が欠けて、悲しいことに罅まで入っていやがる。悔しいがとてもまともな剣とはいえないだろうな。


 そんな装備で大丈夫かって? 気合だよ気合。どうせ治すツテなんて無んだから。


 それに俺達じゃねーと『アレ』にゃ対抗できねーから、否が応でも前に立たなきゃならねーからな。



 ああ、見えるか? あの荒野の向こうの砂塵がよ。



 大量の小型ゴブリン共が目をひん剥いて此方に向かってくる。ゲヒゲヒと下品な笑い声をあげて気色の悪い奴らだ。中型オークも何体か居るな……今の俺でなんとかなるか? わからねーが、数えるのも鬱陶しい程だな。

 ……ああ、待て待て待て待て畜生が! あれは超大型ベヘモスじゃねーか、しかも3体もいやがる。


 はぁ。まったく、楽は出来ねぇなぁ……。


 視認した相棒も、頬を引きつらせて向かい来るそれを見ている。


『相――棒』

「なんだ?」

『こうう時なNて言うか知っいる?』

「なんだよ藪から棒に」


『”死ぬには良い日だ”ってんぜ?』


 それを聞いた相棒がキョトンと俺に目を落とし、獣のように笑う。


「そいつぁ良いな。今日は凄え天気もいいし、見ろよ小鳥も鳴いてやがる」

っ、小鳥ィ?! そっ、その凶悪面でっ、随分詩的でざいまブフぉゥ!! ッアヒヒヒ!!』

「て、テメェ笑うんじゃねえよ?!」

『じゃサンドイッチでもくって、ピクックにでも出かKNけなきゃな』

「そんときゃお前にゃ一切れだってくれてやらねぇ……」

『それは酷よ! 俺ってHMハム食いてえよ、あとマヨとタマゴ! ツナだ!!』

「お前……メシ食わねぇのによく分かるな」


『俺ァそこらの数打たぁけが違うんだぇ? だから安心なテリヤキ大好きチキン君?』


 そう言うと相棒が青筋を立てて震えだした。


「て、テメェ……どこの、誰が、ビビってるって?」

ー? 言わせないでバカッ♪』

「うわキメェ……ちょっと鳥肌が立ったぜ」

『へっ、奇遇だなァ! 俺も正直身体がきしだわ……』


 暫しの沈黙。後にどちらともなく笑いだした。


「ぷっ」

『くっ……』

『「アッハッハッッハ!」』


 そんな軽口の言い合いは、俺と相棒の日常だ。今日このときまでを過ごしてきた、確かな証だ。

 気づけば戦列を組む仲間達も、俺達を見て愉快そうに笑っていた。中には何してんだと睨むやつも居るが、其処に嫌な感じは無い。


 そうしてポツリポツリといつもの下らない世間話が始まる。


 調子に乗って明日結婚するだの、子供の誕生日なんだなんてほざいてるやつも居る。それに相手がいね~じゃねぇかとツッコミが入り、ゲラゲラと楽しそうに笑っている。


 そうそう、笑ってねーとな。気分が落ち込んじゃあ一発るにもムードがねえってなもんだ。


『さて……

「おう」


 向かい来る振動はすでに大地を揺らしている。だと言うのに、不思議と怖さは無かった。


「そろそろ来るぜ? 準備は良いかよ!」

『あたうよ! さあパーティーの始まRだァ!!』

「ハハッ、盛大に祝おうじゃねえか!」

『おとも!』


 あと数秒の後、俺達の最後は幕を開ける。

 きっと誰もが夜明けを見られぬだろう。


 それでも、俺達は叫ぶ。


 俺達は、此処に居るのだと。最後の足掻きを見せるために。








――――――――――――――

定義:無機物転生

概要:ある終末の一幕。彼も相棒も主人公ではないただのモブ。

その後:人類は滅亡しました。


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