中国史や歴史ものが好きな人ならぜひ一読を

腕のいい料理人が、廃された帝に料理を供するために連れ出されて……仮想中国史とでもいうべきか、とても出来の良い一万文字に満たない短編時代小説。

まずタイトルが、詩的でありつつ内容をよく反映しており、たいへん惹かれる。

素直な文体は読みやすく、するすると先を読み進めてしまう。描写の力加減では、少々の物足りなさがなくはなかったが、Web小説ならこのくらいが適正かもしれない。個人的にはもう少し密度があった方が好みだが。

語られるエピソードは、中国史上に実在していてもおかしくないような、歴史の暗部めいたもの。実に「それっぽい」風に書けていると思われた(ただ本当の中国史だったら、料理人は生きては帰れなかっただろう……)。

短編は構成がキモだと思うが、冒頭から料理人の不安、先帝の実態、叛乱の経緯、そして最後の場面へ続く料理人の葛藤と、読者の興味を惹く要素が途切れることなく配されており、構成力やセンスを感じた。


ごちそうさまでした。

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