冬の夜

らうぶ

忌み子

野良猫も建物の裏に潜むほど寒く暗い夜の中、少女は1人うずくまっていた。


薄い長袖シャツを着て寒さで震えながらも家のドアが開くのを待っている。


何時間経っても開かないドアの中からは、女の喘ぎ声が漏れていた。




****************





「佐伯」


後ろから僕を呼ぶ声がして振り返る。


どっ…


鈍い音と共に突き刺すような痛みが襲ってくる。

姿勢を崩してその場に倒れ込んでしまった僕を、下品に笑う声の主は三端。


「お前ホント鈍いのな!」


どうやら何か重いものを入れた鞄を投げられたようだ。


笑い続けている三端に苦い感情が沸いてくるが、言い返す勇気もなくただ下を向く。


「あれぇ?何も言い返せねえの?ホンット意気地無しだなぁお前!」


また、ギャハハと笑いながら三端は僕をからかう。



──これが、僕の毎朝の日常。

だが今日はまだ良い方だ。


いつもは下駄箱に画鋲やら虫やらがいっぱい入っていたり、三端グループからの陰口悪口を聞かされているが、今回は鞄を投げてきただけ。


高校に入り一年が経つが、何故虐められているのか未だに分かっていない。


一つだけ分かるのは全校で一番の権力を持つ三端をいつの間にか敵に回していたということだけ。


毎日殴られ蹴られ悪口言われ、飽きない日々を送っている。


「あ、そうだ。佐伯、お金くんない?今金欠でさぁ」


来た。


一番面倒臭い頼み事。


これは限度が無いからどこまでも巻き上げられる。


ここは…


「あ、僕学校に財布持ってこないからごめん」


申し訳なさそうに言ってみると、三端の顔が歪んだ。


「はぁ?今時財布を学校に持ってこないやついる?」


「僕自転車通学だし、帰り遊ぶことも無いんで…」


三端を、言いくるめてやった!


込み上げてくる笑いを必死で抑え、三端の落ち込んでいる姿を拝む。


ザマァ……


と、ここで三端からの激しいキックが飛んできた。


「しょおがないから今日はこれだけで終わってやるよ」


みぞおちに入り、思考が停止する。


コイツは手加減という言葉を知らないらしい。


咳き込んでいる僕の頭に足を乗せ、大きな声で叫んだ。


「あーしーたーはーー金、持ってこいよ?」


ちらほら集まってきた生徒達がこちらを見て笑っている。


─僕は三端には勝てなかった。



あぁ、僕はいつまでこんな生活をしなくちゃいけないんだ。


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