第28話『母の愛』



 魔装騎兵にハルトが捉えられてしまった。その光景を目にしたクロエとスチームクロウが、坂道を滑り降りながら叫んだ。



「「ハルトォオオオ!!」」




 ハルトはあまりの苦痛に、叫びすら上げられなかった。ただ口を大きく開け、苦悶の表情を浮かべるしかできない。胸部を限界まで圧迫され、息を吸うことすらできないのだ。


 ハルトの脳裏にある光景が過る――魔導師の少女の最後だ。巨大なる魔導騎兵によって、ジワリジワリと、握り潰されて死んだ。まるで今まで犯した罪を、苦痛を持って償わせるように……。


 自分も同じように、苦しみに溺れて死ぬのだろう。



 ハルトは三度、死の恐怖を呼び起こされる。だが抗う術も、逃れる術もなかった。ただ苦痛と絶望の中で、ただ死を待つしかないのだ。



 その絶望的な状況を打開したのは、彼を――ハルトを心から想う女性だった。





「無礼者! ここを何処と心得る! 彼を放しなさい!!」





 ハルトのママを名乗る、あの女性だった。



 魔装騎兵はハルトから、視線を女性へと向ける。




「騎士である者が礼儀を忘れたか! まずは跪きなさい!!」




 いつもの猫撫で声ではない。女性は凛とした声を発し、魔装騎兵に頭を下げるよう命令したのだ。


 魔装騎兵の挙動が豹変する。まるで二つの相反する意志が、その巨体の中で争うように震え始めたのだ。そして服従の意志が勝利する。ハルトを地面にそっと降ろし、魔装騎兵は深々と頭を下げたのだった。


 女性は血相を変え、ハルトの元に駆け寄る。



「もし! 気をしっかり!!」



 ハルトは生きていた。朦朧とする意識の中で、体全体で酸素を吸い込んでいる。しかしほとんど意識はない。ほぼ無意識で息を貪っていた。


 彼は生きている――その様子を確認できた女性は、ホッとした表情を浮かべ、礼を述べる。




「ありがとう。我が愛しき息子よ……――」




 そしてそのまま、女性は意識を失って、横に倒れる。


 73式小型トラックが二人の側に横付けし、スチームクロウとクロエが総出で車輌へ乗せる。本当なら怪我の容態を確認したかったが、そんな時間がない。跪いている魔装騎兵が、今にも復活するかもしれないのだ。その前に、この場から去る必要があった。


 二人を乗せた73式小型トラックが急発進する。一路は森を抜け、隣国へと続く平原を目指した。




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