「夜の世界」


欲望うずめく夜の街。

ビルに敷き詰められた数あるスナックの看板。


「今日からここで働くことになりました、リサです。よろしくお願いします」


簡単な挨拶を終え、あとはオープンを待つ。


私がこのお店に入店したのは、ほんの2年前。

お金が欲しい。ただそれだけの思いでやってきた。

そのお店はオープンして間無し。ほぼオープニングスタッフで

働かせてもらうことになった。


私自身、夜の世界は未経験ではない。


18の頃に一度キャバクラの世界に飛び込んだことがある。

飛び込んだというより、強制的に働かせられていた。


でも私は、決して男の人がずば抜けて得意と言うわけでもない。


中学生の頃に、とある事があってからトラウマになっていて

男の人がどうも苦手になった。

触れられるのはもちろん、手が触れるのですら無理だった。


しかし、夜の世界は

そんな甘い事が決して許される世界ではない。


触ってなんぼ。触れてもらってなんぼ。


お酒ももちろん18なので飲めない。

飲めないならしゃべらないとダメ。

でも私は、当時極度の人見知りでもあり

初対面の人と話すことなんてレベルが高すぎて無理だった。


それでよく夜の世界に飛び込んだね?


よく言われるのです。

でも私が好き好んで働いたわけではありませんでした。

強制的に働かせられていた身分なので

もうほんとに出来るならすぐにでも逃げ出したいと

そう思っていました。


元々家から出してもらえない、世間知らずの10代のガキんちょ。

キラキラした世界は目眩がするほど輝いていて

地味な私には到底マネできることではありませんでした。

それでよくお姉様たちに怒られたものです。


そのキャバクラは半年ほどでやめました。

男の人は怖かったけれど、仕事だと割り切って凌いだ。

でも慣れれば慣れるほど怖くなってしまい

いろいろあって逃げ出してしまいました。


それから4年ほどは昼にバイトをして

夜とは無縁の世界となっていました。

でもやっぱり何か物足りなくて…

お金の面でも、自分のやりがいの面でも。


男の人と関わることがなかったから

ちゃんとしたお付き合いだって

したことがなく、苦手なまま時間だけがすぎていきました。


それでも、何故か夜がしたかった。

避けてるから怖いだけだと

なんやかんやキャバクラにも半年いたじゃないかと

どうしてかわからないけれど

急に戻ってみたくなった。


思い立ったらすぐ行動する性格。


そんな思いで

また夜の世界に帰ってきてしまったのでした。

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