第12話闘いの後

 コロシアム内は、一瞬の静寂を見せた。

 次いで、湧き上がる歓声。

 

「……ふむ…」


 面白くなさそうに誠たち三人を見下ろすのはハインケル伯爵だ。


「選別式の方法が間違っていたか?もう一度行うべきか…」


 三人が神子としての力を発揮しない現状に、選別式が失敗したものと考えたようだ。


「僭越ながら…」


 口を開いたのはケイだ。


「なんだ」


 ハインケル伯爵が鷹揚にケイを見る。


「神子様方は、能力に目覚めたものと、判断してよいかと」

「どういうことだ」


 ケイの言葉に、ハインケル伯爵はいぶかしげな顔をする。


「神子様方から魔力の乱れを感じました。私達とは別の、異質なものです」

「ではなぜ、能力を使わない?」

「そこまでは……。ただ、三人はこの世界に来たばかりです。混乱するのも無理はないでしょう。急に現れた力を恐れたのかもしれません。なにせ、子どもですから」

「…恐れ、か」

 

 納得のいかない顔でハインケル伯爵がつぶやく。


「まぁよい。どちらにせよ、選別は早く行わねばならない。発現したというなら、次は選別だ。これは、王の意思だ」

「…ハインケル伯爵……」

「だがまあ、神子様方は良い戦いを見せてくださった。次の選別式は身体を休めていただいてからにしよう。まぁ、私がいると休まるものも休まらんかもしれんがな」


 そう言って立ち上がると、颯爽とコロシアムを去っていく。


「……なんとか、なった…のか?」

「まぁ、束の間のはな。さっき以上に危険なことはないだろうよ」


 三人は、ハインケル伯爵の前で力を見せた。神子としての力ではなかったが、生きるための、闘う力。そして、ハインケル伯爵はその力をもって三人を認めたのだ。ハインケル伯爵は、認めたものをいたずらに傷つけることはしない。そういう人物で有名なのだ。


「だが、神子様たちは、なぜ能力を使わなかったんだ」


 イネスが首を傾げる。


「さぁな。使わずに倒せる相手だった。それだけのことじゃないのか?」

「……」


 闘技場に目を向ければ、躯となった獣の姿があった。

 けして優勢な戦いだったとは言えない。危ない橋を何度もわたって、奇跡をつかんだ、そんな戦いだった。力を使ってもおかしくない場面とてあったはずだ。


「意図的に拒んでいる…いや、隠そうとしている…?」


 イネスにはそう感じられた。確証はない。なんとなく、だ。

 ケイの顔を見てみても、いつもと変わらない軽薄そうな笑みを浮かべているだけだった。


「まぁ、とりあえず迎えに行こうや」

「…そうだな」


 戦いで疲弊しているであろう神子様たちのもとへ、一刻も早く向かわなければ。

 


 

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