彼女は、悪役令嬢になどならない --それは既に決っていた-

芦苫うたり

(1)西王国 王家主催舞踏会


 ここは 東域南部大陸・東島連合王国の王都である西王国ウェストン

 その東部にある中立都市である。


 その東、奥にある高地は、平民からは 高家格区域と揶揄されている地域である。

 そこには西王家と、それと同格である3公の内、2家の邸宅がある。 そして 王家と2公家邸の付近、周辺地域には貴族家の屋敷ないのが その蔑称の原因なのだが、当人達が知る由もない。


 公家とは、準王家。

 他国にある その屋敷とは、大使館という意味である。


 比べて、高地の最南にある東公国イーステン邸から なだらかにに 南に下った平地は、小さな城下町のようになっている。それは、ソーン侯爵が大使館・館長に赴任してから始まっ事だ。


 東公国大使館の南側には 広大な平民街があるのだが、これは侯爵の人柄によるものが大きく、自然発生的に出来たものだ。


 ソーン東公国大使館・館長は 貴族にしては珍しく、完全な実力主義者で、それ以外は全く気にしない人物である。

 人種や肌の色違い、家格による差別どころか、平民とも同等に対した。

 そんな破格の存在は、また 破格の人材を呼び込むものだ。


 この国、西王国ウェストンでは、年に4度、季節毎に1度だけ開催される 王家主催の舞踏会がある。


 但し、家格爵位だけでは これらの宴には参加する事は出来ない。個有爵位で子爵以上を必須としているのだ。

 逆に 建前上では、平民でも個有爵位、子爵以上であれば参加可能であり、そういう意味では平等とも言える。あくまでも、建前上であるのだが。


 それも、もう今年最後の催しとなる。

 本日は『冬の宴』の当日である。


 小氷期でありながら、今年は暖冬である。暦の上では冬となっているが まだまだ暖かい。


 今日も冬というよりは 秋に近い気候で、朝から曇っていた空が、昼前から小雨がパラつき、今は本降りになってる。まるで秋霖しゅうりんのような気候である。

 それでいながらも、特に寒いという感じはしない。


 王家主催で、王・公・貴族の子女が集まるのである(残念ながら、平民はいない)、当然ながら厳重な警備体制が敷かれている。


 舞踏会は午後7時の開始だが、午前中には全ての準備が完了していた。

 本日は 東公国騎士団・特務警備隊に、警備の任務が一任されている。


 西王国で開かれる舞踏会に、東公国の警備隊が就くというのは奇妙に思える。

 東公国が、舞踏会の企画に参加しているので、その一環である。と公表されている。

 だが実は 東公国と言うか、ソーン侯爵が「貴国の警備隊では、我が娘が参加する舞踏会の警護としては心許ない」と申し立て、それがこの現状生んだ、本当の理由である。


 その警備隊に配属され、初の任務に緊張している18歳の青年がいる。

 彼が立っているのは正面玄関、その向かって最も右側。来賓用馬車の係留場から最も離れた位置にあたる。

 万一の失策を懸念しての配置であろうか、彼の隣にいる指導員はベテラン隊員である。


 午後3時。

 雨が土砂降りになって来た。

 しかし 警備員は、雨具を使う事を許されていない。彼等の制服は、防水処置が施されている ある種の魔法具なのである。

 任務中においては、両手は必ず空けておく。これは警備隊規則の、基本である。


 舞踏会開催まで まだ4時間も余裕があるのに、彼等が この場所に配置されているのには、もちろん理由がある。

 王族と3公、そして王都の閣僚が既に来館しているからである。


 青年の隣で指導員がつぶやいた。「舞踏会前に 何やら重要な会議をしているらしい。ソーン侯爵も おいでらしい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る