7W     入国管理ギルドの仕事を手伝う羽目に

 ハートの魔法が失敗し、泥棒に逃げ切られた俺たち。そこで消えたアイツを俺が考えた作戦で、捕らえることに。


 この街の地形は、水路と道路と建物が王国城を中心にして円形の波紋のように配置されている。俺は街の地形のことをハートに聞いたときに、電化製品に使用されている、電気回路と回路基板が頭の中でひらめいた。水と道路と人を電気に置き換える。設計を考えると、回路以外に電気が流れることが、まずないはずだと思った。


 つまり、逃走している男はこの街の回路上に絶対に存在しているはず。男が通りそうな通路を、回路図のように地面に描く。それをハートは拾った焼きリンゴを食べながら不思議そうな顔で見ていたが、ハートの魔法が雷で、電気だと知った時に俺の中にある電気の知識が役に立つと思った。それをハートに伝える。


「わかった、アイツを見つけたら、街の中心のほうにいっしょに追い込めばいいのね」


 ハートが作戦を飲み込み、俺たちは円形の道を逆方向に走り引き返す。その時に青空市場で盗まれたリンゴの代金を、ハートは王国のギルド保険で店主に支払った。

 逃走犯は左回りをすると本で読んだことがあるが、アイツもこの法則が働いていた。この街で必ず通る、橋の前に先回りをして、近くの建物に俺たちは身を潜めた。


「来たわね、少しバテた表情ねアイツ」


 ここからは間近で、魔法が使えるチャンスだと思ったがここから見た相手はかなり警戒しているようだ。仮にハートの魔法を発動させても発動時間がかかるのと、確実に当てることが難しいみたいだ。やはり作戦の通り遂行することにした。

 作戦遂行! いくぞ! 目の前にいる泥棒のアイツに大声で橋のほうに駆け込む。


「まてーーーこらーーーっ!!!」


 ハートの大声で泥棒は、焦りながら再び逃走した。よし! アイツは街の中心に逃げ込む! ハートは泥棒を追い込み、俺は逆方向の道を走り込み先回りをする! かなりアイツの逃走ペースは疲れが来ているのか、少し遅くなっているようだ。


 ハートが追い込む、アイツは逃げる。俺が先回りして挟み込む!


 ついに、俺と泥棒とハートの3人が出揃った。俺たちの周囲は道を中心に、右に建物、左に大きい川の水路がある。左右にはいくら何でも逃げ切れない状況だ。絶体絶命に思った泥棒はハートの魔法を知ったせいか、ハートのほうには襲いかからずに、俺のほうに走り込んで襲いかかってきた。俺に緊張が走る。


 俺はこの回路パターンを想定していた。実は、街のでんきやさんは力持ちなのだ。日頃、エアコンの室外機、冷蔵庫、洗濯機、などの重い電気製品を持ち上げ運び、設置することがある為だ。


 襲いかかる泥棒を、重い『 500L級の冷蔵庫(重さ100kg) 』だと思い、俺は力一杯掴みかかった。アイツは力一杯掴み掛かられて、想定外の怪力だったのか悲鳴を上げている。俺は意識を集中しながら相手を冷蔵庫だと思って……せーの! 力一杯かけて左の水路に押し込んだ! アイツがドボーンという水路に落ちる音と共に、設置完了!! ハートさん! 泥棒の設置が終わりました!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る