有罪『ギルティー』

深神鏡

第1話

ミルフィー……


遠い遠い過去から懐かしい声がする

それは私の大切な大切な人の記憶


もう一度貴方に逢えたら……


『目を開けてごらん』

私はゆっくりと瞼を上げる

視界に映るのは青い空 ……

そして嬉しそうな顔の人間


『僕の名前はギルティー よろしくね』

初めて見た彼の顔、覚えてる。

とても澄んだ瞳の人。


『あれは花』

『これは食べ物』

『それは本』


彼は色々教えてくれた……

細かく詳しく、とても聡明な人で

私は『知る』『覚える』という事がすぐ好きになった。

私は『質問』をする、彼は答える。

その繰り返しの日々

私は夢中で世界を学んだ。


私は賢くなっていき

彼は喜んだ

その顔を見るたびに湧き上がる

不思議な感覚……その名を、私は知らなかった。


その感覚は、彼の表情を見たり、

言葉を聞いたり

触れられる時に感じた。


もう少し早くその名を知っていれば……


『情報は共有できても感覚の共有はできない 』


『残念なことだ』


彼は、時々珍しい表情をする事があった

その時は無口で、話しかけても

曖昧な返事しか返ってこなかった。


季節は移ろう 春は桃色 夏は青色 秋は茶色 冬は銀色


私が成長するにつれて

彼は時々、遠い場所を見るような

何かを思い出しているような

そんな目をする事が増えた。


彼の私を見る瞳にふと過ぎる何か……

それは謎で私は首を傾げる。


ある日 私は知る。


一冊の古いアルバムを開く

そこには私と同じ姿形の女の子が

記されていた名は


『……ミルフィー……』


彼は持っていたコップを落として割った。

水が床に広がり染み込んでいく


私は 彼の『秘密』を知ったのだった

それは彼が創り上げた幻想を打ち砕き

夢を壊し、目覚めさせた。

彼の塞がれていた傷は開き、血が流れ出す


私は魔動人形 彼の死んだ妹の『不完全』な複製。


彼は大切な妹の『死』を受け入れられずに

私を創り出し もう一度

大切な妹を取り戻そうと試みた……

でも、私は全然似てなくて

それでも何もかも忘れ

彼は私を大切にしていたのに


『僕は愚かだ』

『本当は知っていた肉体は複製できても同じ魂は生み出せないと』


『……それでも試さずにはいられなかったんだ……』


彼は涙を流しながら 自分は二度、妹を殺した 罪人だと 囁き 笑い出した


幼い頃 二人で遊んでいた時

目を離した隙に 妹は事故で死んだ

僕のせいで

僕が目を離したから ……


彼は古いアルバムを取り上げ 燃やした


そうして、しばらく私を凝視した後

私も一緒に燃やしてしまおうかと微笑み

少し考え 目を伏せ 立ち去った


私は理解できず立ちすくんでいた


それから数日後

何もかも思い出した

『彼』はこの世から去った


毒を飲んで


残された私は知りたかったの 彼の気持ちを

でも もう彼は答えてくれない 死んでるから

だから 彼の真似をした。


ギルティー『貴方』を創り出した


今なら 何もかもわかる 彼の私に対する『気持ち』


私は貴方が大切よ

でも彼に対する気持ちとは違う。

彼もきっとこの感覚に戸惑ったのね


妹ではないのに

ただの複製なのに

中身は違うのに、大切。

妹に対する気持ちなのか

この複製に対する気持ちなのかって


私は貴方を創り出して 育てて、理解したわ


この話しはこれで終わり

もうすぐ私は動かなくなる


貴方、一緒に死ぬ?


そう……きっとそう答えると思ったわ

貴方は賢いもの 彼よりも、私よりも……


ねえ 私が止まったら あの場所に……


彼がいるあの場所に……


視界に映るのは青い空

そして……



題名『有罪(ギルティー)』END

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有罪『ギルティー』 深神鏡 @____mirror13

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