第9話 世翔夜

しかし、


「解けない」


何度魔法を使っても幻覚が解けてくれないのだ。

一方で氷道の方はなんか一人で納得したらしく、ウンウンと一人頷いている。

そしてまた、険しい顔に戻る。


「どうしたの」


「.....いや、厄介なことになったなと思って」


彼は、考えながら答えた。少し間が空いたのが何よりの証拠だ。


「何が厄介なの」


「この程度の魔法なら一般人でも難無く解けるはずだ。でも俺たち、ましてはお前でさえも解けないとなると残るは一人しかいねーんだよ」


そう言った彼の瞳はどこか寂しげな色をしていた。


「その一人って....」


誰?そう言おうとした瞬間、私たちの幻覚は解かれた。いや、誰かが解いてくれたという方が正しいような感じだ。


「起きて!二人とも!」


そう叫ぶ樹里を目の前に私位は安堵の息を漏らした。


「樹里.....」


「舞夢、あの人誰か知ってる?なんか相当な幻覚使いだったんだけど」


「?」


樹里が目を向ける先には一人の男の子がこちらを楽しそうに見ていた。まるでサーカスかなんかの見世物を見るような目で。


「初めまして舞夢さん。僕の名前はよとやだ。よろしくね」


いきなり自己紹介をされて焦ったものの、このままだんまりは失礼だと思い、一応こちらも挨拶話した。


「えっと、炎道舞夢です」


そう言うと彼は満足そうに笑って身を翻した。そしてテクテクと反対方向へ向かっていった。途中で何か思い出したように振り返ると、不敵な笑みを浮かべて


「じゃあまたねー。今度会ったら勝負してよね」


そう一言言って帰って行った。正確には消えていったという方が正しいのだ。

スカルトでは召喚されたものは自分の都合に合わせて変えることができるのだ。


「.................世翔夜........」


後ろで氷道が力なく彼の名前を呼んだ。


「氷道、彼を知っているの?」


「ああ、彼は、世翔夜は俺の弟だ。」


「弟」


私はこの弟にどこか昔から知っているような感覚を覚えた。まあ、もともと氷道を知ってるからかもしれないけど。今考えてみればその弟君は結構似ていた。

青色の髪といい、あの深い青の瞳といい、そして何よりそっくりなのはあの目元だ。少し釣り目になっているが何となく優しい感じのする目。だけど少し違う気がした。オーラというかなんかまとっているものが、自分を守るためだけにあるように思えた。


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