第6章その2 突然のオフ



「あぁ、睦実、明日の休日のことですが……」


 夕食後、部屋に戻ろうとした私に、シェマルが声を掛けて来た。


「あ、はい。明日の特訓は何時から?」


「いえ、明日はお休みにしようと思います」


「え? でも……」


「何事も適切な休息を取らなくては、上手く行きませんよ。明日は回復に努めてくださいね?」


「はぁ……」


「では」


 シェマルは微笑むと、挨拶をして去ってしまった。


(明日、何の予定もなくなっちゃったな。どうしよう……)


 私は自室へ戻り、ベッドに飛び込む。


 ここにスマホや携帯ゲーム機があれば、1日どころか数日間引きこもっていても苦痛じゃないのに。


(銀オラの続きがしたいなぁ……)


 現実にその世界で生活するのと、ゲームをするのとでは違う。二次元と三次元では大違いなのだ。


(5章で止まってる……)


 既に戦いを3回こなした。次に来るのは4章の戦闘だ。


(どんな戦いだっけ……)


 魔法が使えない分、せめて攻略法を皆に伝えなくてはならない。


(5章の戦いが終わったら、私はここで全く役に立てなくなる……)


 私は、一週間ロッドを振り続け、筋肉痛となった腕をさする。


(回復魔法1つでいい……。使えるようにならないかなぁ……)




§§§




 翌朝の休日。


 朝食を取り、部屋へ戻ったところで、部屋の扉が軽やかにノックされるのが聞こえた。


「はい?」


(誰だろ? こんなノックの仕方する人、この離れにいたっけ?)


 そう思いながら開いた扉の向こうにいたのは。


「おはよう、睦実」


「今日、イッショに出かけまセンか?」


「雪梅! ディヴィカ!」


 にこやかに笑って手を振る親友コンビだった。


(おっ……おぉおおお!!! 服が違う!!!)


 普段、彼女らはルーメン学園の制服を身に付けている。でも、今日の2人は私服だ。


「雪梅、チャイナカラーのワンピとか可愛すぎる!! 色も似あってる!! ディヴィカ、サリー風なのにパンツ姿!! 男装みたいでカッコいい!!」


「あ、ありがとう……」


「フフ、嬉しいネ」


「さすが聖洞みんと神! 服のデザインまで最高! 目の保養!!」


「あ、はは……、なんかよく分かんないけど……」


「睦実、今日、出かけラレますカ?」


「えっ? えーっと……」


「ん?」


 雪梅が私の方へ顔をぐっと近づけてきた。


「んん~~っ?」


「な、何? 雪梅?」


「睦実、最近お手入れサボってるでしょ?」


「へ? お手入れ?」


「ここ!」


 雪梅が自分の口元をトントンと叩く。


「うぶ毛! ヒゲみたいになっちゃってるわよ!」


(うっ!!)


 私は両手で口元を覆う。


「デスね~……」


 今度はディヴィカが私の指先をそっと持ち上げる。


「爪の手入れモ、してないデス」


「あのね、睦実。いくら特訓で大変だったからって……」


「い、いいのっ!」


 私は2人から、わたわたと距離を置く。


「私、2人みたいに可愛くないから、こんなの別に……」


「何言ってんの、顔とか関係ないでしょ? って言うか、可愛くないって思うなら余計に何とかしたいって思わない?」


「思わない、無駄だもん」


「無駄、違いマスよ? 頑張る、可愛くなるデス!」


「私が何したって可愛くないもん! 放っておいて!」


「は~……」


 雪梅が呆れたように溜息をつく。


 そして……、


「ディヴィカ」


「ハイ?」


「やっちゃいますか」


「ヤッちゃいまショウ!」


「え? あ……、何!?」


「ふっふっふ……」


 雪梅が扉を後ろ手に閉めると、鍵をかけた。その顔には悪魔の笑みが浮かんでいる。


「これで泣いてもわめいても助けは来ないわよ?」


「怖い怖い怖い! 何!? 何をする気!?」


「うふふ、イイコト、ですネ~」


「ディ、ディヴィカまで!」


「今から私たちは睦実専用エステティシャン! がっつり磨いちゃうから、覚悟なさい!」


「ワタシ、温かイお湯、準備シマスね~」


「うん、用意出来たら蒸しタオル作っちゃって!」


「OKデス!」


「え、あ……ちょ……!?」

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