丸山焼鳥店の秘密

花本真一

第1話 丸山焼鳥店の秘密 花本真一


創業三十年の焼鳥屋。ここまでやってこられた秘訣を聞くために僕は店長の丸山さんにインタビューをした。

「丸山さん。三十年もやってこられた秘訣を是非教えてください」

「そうだね。大人だけでなく、子供さんも馴染めるようにお酒よりも食の部分に力を入れたことは大きいね」

「成程。現に家族で楽しめる焼鳥屋さん、と世間では言われていますもんね」

「あと、スタッフの存在は大きいね。彼らの鳥にかける情熱は凄い。俺なんか足元にも及ばないよ。彼らがいないととっくにこの店は潰れているよ」

「そんなご謙遜を」

「いやいや。決して謙遜なんかじゃない。それにな、三十年も迎えたことだし、今まで隠してきた秘密を言おうかと思う」

 今まで隠してきた秘密? 何だろう、秘伝のタレの製造法かな。

「実は俺」

「はい」

「鳥アレルギーなのだよ」

 一瞬、言葉の意味が分からなかった。

「……え、あの冗談ですよね」

「冗談ではない。俺は鳥肉が全く食べられない。食べたら、ジンマシンが出る」

「じゃあ、どうして焼鳥を?」

「引っ越し先がたまたま焼鳥屋だったから、それに便乗したまでだ。当時会社もクビになっていたし」

じゃあ、さっきの言葉の意味って。

「おうよ。俺が食べられない以上はスタッフに味見してもらうほかないだろ。現に俺は三十年近く自分の鳥の味は知らない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

丸山焼鳥店の秘密 花本真一 @8be

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ