第17話 発見

 学校の友達も冬休みに入ったころ、暇していた千春は祖母にお手伝いを頼まれた。

「千春、片づけの手伝いを頼めるかい?」

「いいよー」

 特にやることもなく一日を過ごしていた千春はすぐに了承した。

 祖母の後についていき、いつもの祖母の部屋にたどり着く。

「片づけって何も散らかってないけど? 何やるの?」

 部屋を見渡しても、いつものようにすっきりした祖母の部屋。なにも散乱してないし、片づけるものがない。

「おとうちゃんの片づけだよ。全然やってなかったし、大掃除になるよ?」

「なるほどー」

 つまり祖父の遺品整理であろう。祖父が亡くなった夏では暑いし、秋には稲刈りがあって忙しくまったくできていなかったようだ。高齢の祖母一人で全部を片づけると何日もかかる。それなら暇している千春に手伝ってもらおうと考えたようだ。

「まず千春は、そこの押入れからじいちゃんの服をだしてくれるかい? それをばあちゃんが袋に入れるから」

「はーい」

 指示された通り押入れを開けると、衣装ケースがいくつも入っていた。ケースに何か書いてあるわけでもなく、とりあえず一番上にあるものを引っ張り出す。

「っしょい。あ、これなつかしー! じいちゃんが来てたのを見たことがある!」

 ケースを開けると、いつも祖父が農作業のときに来ていたボロボロのシャツが出てきた。それを広げて懐かしんでいると、祖母はほかの服を広げポケットの中まで確認して袋に入れていく。

「ひとつひとつそんなに見ていたら終わらないよ? これだけじゃないんだからねえ。まだまーだあるよ? このケースの下にあったやつもやるんだからね」

「ん?」

 押入れに再び目を向けると、衣装ケースのほかにも段ボールがいくつもあった。

「あの箱も見るの?」

 段ボールを指さして祖母に聞く。

「そう、みるよー。あんまりとっといても仕方ないからねえ。お宝が入ってるかもしれないよ?」

「あんなにあるんじゃあ、てきぱき片づけないとだねー。面白そうなものあったらいいなー」

 少しワクワクしながら祖母と片づけをすすめていくのであった。


「おや? ポケットになんか入ってるね……」

 祖母がズボンのポケットを見ていくと何かが入っているようであった。手を入れ、確認してみる。するとポケットから100円がでできた。

「お金だ! ポケットに入れたままだったんだね」

「それじゃこれは、千春にプレゼント。お駄賃ね」

 祖母は千春にでてきた100円玉を渡した。

「ありがと。いただきます」

 千春は受け取るとポケットにしまう。

「まーた、その100円を洗っちゃいそうだねえ」

「そうしたらピカピカになっていいんじゃない?」

 冗談を言いながらも服を取り出していった。どの服も千春は見覚えがあった。いつも着ていた服だ。どれも汚れていたり、薄くなっている。祖父は毎日農作業をしていたし、どんなに汚れても、びりびりに破れない限り同じ服を着ていた。少し穴が開いたぐらいなら、祖母が服の裏から当て布をして補修し、また着る。かなり物持ちがよかったが、ボロボロになっても捨てなかったので衣装ケースいっぱいに服があった。

 祖父の服は衣装ケース2つ分にいっぱい入っていた。それを1つにつき1時間ほどかけてゆっくり片づけていく。2つのケースが片づけ終わるころにはお昼を迎えていた。

「そろそろご飯ですよー」

 母が昼食のため呼びにきた。ちょうどきりがよかったので昼食をとる。昼食をとりながら母は千春に聞いた。

「片づけは進んだかしら?」

「まあまあ。お金がちょっとでてきた」

 100円をポケットから見つけてからも、他の服からも同様に小銭が見つかった。上着のポケットだったり、衣装ケースの底に落ちていたりした。ほら、と見つけた小銭をポケットから出してテーブルに置いていく。

「よかったじゃない。お金拾って」

「人を金好きにしないでくれる?」

「あら? じゃあいらないならママがもらうわ」

「それはダメ」

 祖母は母と千春の話を聞きながら笑っていた。


 昼食を終えれば再び片づけを再開する。

 服の片づけは終わったので、押入れの奥にある段ボールを取り出した。

「めっちゃ汚れてるけど、何入ってるの、これ。しかも重いし……」

「さあ? 開けてみなきゃー、わからんねえ」

 床に箱を置き、ゆっくり開けてみた。すると中には缶詰がいっぱいに入っていた。

「いつのだよ、これ……」

 缶詰の1つを手に取り、底に書いてある賞味期限を確認する。そこには10年近く前の日付が記載されていた。よく見ると缶にところどころ錆がみられる。

「ばあちゃん、すーんごい前の期限なんだけど、これ。やばそう」

「すごいお宝じゃないかい。はっはっは」

「いやいや、こんな押入れ奥にしまってたら食べないって。これ、外の倉庫にでも運ぶように玄関に置いてくるね」

 箱の中の缶詰を一通りみると、すべて日付がすぎていたので、処分するためとりあえず玄関へ運んだ。

「いつもらったもんだろうね……」

 祖母はぼやきながら記憶をたどるが、いつかはわからない。押入れに食べ物しまっちゃ終わりだろと思いながらも次の箱を押入れから取り出した。

「次はーっと」

 今度は何が入っているのだろうと開けてみると、薬が入っていた。

「そうそう、薬もここへしまった気がしたわい。使おうと思った時になかなかとれないから新しいの買っちゃってたんだよ」

 笑いながら祖母は言う。今はリビングに薬箱がある。これはその薬箱を置く前に使っていたものであろう。ということはまたかなり前のものではないかと日付を確認すると、これまた期限が過ぎていた。今度は20年以上前に切れている。

「これもすーんごく古いやつだよ。私もまだ生まれてないよ、これ」

「そんな昔のものだったかい。つい最近のことに思えたよ」

 懐かしみながら祖母は笑う。これも捨てるしかないので、玄関へ運んだ。

 玄関から戻ってきた千春は祖母に笑いながら言う。

「ばあちゃん、なんでも押入れに入れてんだね」

「床に置いといちゃあ、邪魔だし、入れちゃうのがいいんじゃないかとね」

 祖母は何やら楽しそうで、千春もあまりにも昔のものがでてきて楽しくなってきた。

 そしてまた、次の箱を取り出す。

「これは何入ってるん? ほかの箱よりきれいだけど?」

 取り出した箱は先ほどの缶詰や薬が入っていた箱よりもきれいだった。そんなに昔にしまったものではないことがわかる。

「なんかじいちゃんがこれにしまってるのを見たことがある気もするけど……なんだべね? わーかんね」

「んじゃ、あけるよー」

 祖母も知らない、祖父が片づけたもの。千春は少しワクワクしながら箱を開けた。

 そこに入っていたのは祖父のメガネやノート、祖父に届いた年賀状だった。

「メガネ多っ! いっつもメガネないない言って作ってたもんなーメガネ本体よりメガネケースの方がいっぱい入ってる……しかもケースあるのにメガネをむき出しにして箱に入れてるよ」

「こんなところにケースしまってたんかい! たまげたねえ」

 祖母も驚いた。入っていたメガネとメガネケースをとりだし、年賀状も取り出す。年賀状は1年ごとに束になっていたが、ひとつひとつがぶ厚かった。箱の底にはノートが2冊入っていた。千春はそのノートを1冊手にとり、パラパラとめくる。どうやらこのノートは日記のようだ。

「日付はかろうじて読めるけど、なんて書いてあるかわっかんない……」

 ボールペンで文字が書かれている。千春はその文字が読めなかった。祖母ももう1冊のノートを手に取り、ページをめくっていく。

「じいちゃんは字を続けて書くからね……書いた本人も読めたり読めなかったりしたのよ。なつかしいねえ。それにしても、こんなの書いてたなんてわかんなかったよ。なーんでしまってたんだべ?」

「ばあちゃんも知らないんだ。ばあちゃんはこれ読めるの?」

「だいたい読めるよ。ほら、ここなんか千春が手伝ってくれたって書いてある」

 祖母はノートを広げ、ある1行を指さした。目を向けると、かろうじて千春が手伝ったと読めるような字がある。

「読みにくっ。よく読めるね」

「そりゃ何十年も一緒にいたから読めるのよ」

 懐かしみながら祖母は祖父の日記のページをめくっていた。

 千春は祖父の字が読めないので、まだ残っている箱を押入れから取り出す。こちらも比較的新しい箱。しかし先ほどのようにノートが入る大きさではない。もっと小さい、ちょうど手紙が入るくらいのお菓子の箱だ。祖母は日記をまだ見ているので、千春は構わず取り出した箱を開けた。

 そこには小さい鍵と茶色い封筒があった。封筒の中身を確認すると、一枚の紙が入っていた。

『この中のを渡してくれ』

 ただそれだけ書いてあるのがかろうじて読めた。

「ばあちゃん、鍵となんか書いてあるよ。どこの鍵?」

 日記を見ていた祖母は顔をあげ、千春から鍵と封筒に入っていた紙を受け取った。そして鍵をじっくり見る。

「こりゃ……外の物置の中にある棚の鍵でないかい? じいちゃんに鍵を聞いたらなくしたって言われてあきらめてたんだけど、隠してたなんてねえ……」

「物置の棚ってあの入ってすぐのとこにある銀のやつ?」

「そうそう。そんなかにいろいろしまってあって、使おうとしたら使えなくって困ってたんだよ。渡してくれってなんに入ってんだ?」

 祖父は何かを隠していたようだ。それを祖母にも黙っていた。

「ねえ、それ開けて見てきていい? 何が入ってるのかわかんないし、知りたいし」

 千春は目を輝かせながら祖母に聞いた。祖母はニコニコしながら鍵を千春に手渡した。

「ああ。行って何があったか見せてくれるかい?」

「もちろん!」

 鍵を受け取った千春はワクワクしながら物置の戸棚へ向かった。

 戸棚の前には肥料やらなにやらが積まれている。千春は汚れるのもお構いなしに邪魔になりそうなものをどかした。

「うっし……」

 ドキドキしながら鍵を差し込む。すんなりとささり、ゆっくり回せば鍵は開いた。

「消毒、消毒、鎌に手袋、なんかよくわかんないものがどーんと……ん?」

 棚の上から見ていくと、農業に使うものがたくさん入っている。どれも薄汚れている中に、1つだけきれいなテーマパークで買ったお菓子の缶があった。それを手にとり開けてみる。そこにはまた、茶色の封筒が2つ入っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る