第25話 不要な事とこれからすべき事

「それにしても…まさか、この小娘とあの坊ちゃんが出会っていたとはね…」

「運命とは、不思議なモノだな…」

深い眠りについていたラスリアは、誰かが不思議な会話をしている夢を見ていた。

「なんにせよ、この2人…今は接触すべきではないわ。だから、記憶を消しておく必要があるわね」

「ああ…」

会話が途切れた直後、大きな手が自分に近づいてきたと思われる。

しかし、その手の正体である男たちの顔はまるで見えなかった。辺りが真っ暗になると、後ろから、ラスリアの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 この声は――――――――――――――


「ラスリア!!」

気がつくと、頭上にチェスの顔があった。

「チェス…?」

「良かったー…気がついたみたいだね!!」

チェスの安堵した声とは裏腹に、まだ意識が朦朧としているラスリアは、その声も弱弱しい。

「ここは…?」

「ここはね。僕らウォトレストの里だよ!」

チェスが今現在の場所を答えてくれた後、耳を澄ますと、遠くで水の流れる音が聞こえてくる。

その後、チェスはラスリアが目覚めた事を報告するためなのか、彼女が眠っていた民家から外に飛び出していく。

 私…どうして、意識を失っていたのかしら…?

ラスリアは、自分に何が起きたのかをゆっくりと起き上がってから考えていた。

『…ご苦労だったな…“キロ”の娘…』

「…っ…!!?」

頭の中によぎった、アレンの台詞と彼の狂気じみた表情かお…それを思い出した途端、自分が橋から転落した事を思い出す。

「そうだ…アレンは!!?」

ラスリアは必死の余り、近くにいたチェスの兄・ビジョップの裾に掴み掛かる。

「ラ…ラスリア殿!!どうされました…!!?」

突然服の裾を掴れたビジョップは、目を見開いた状態で困惑していた。

「ラスリア!!!」

「…!!」

ビジョップの後ろから怒鳴り声が聞こえたかと思うと、そこには少しの間だけ席を外していたチェスの姿があった。

彼の怒鳴り声によって冷静さを取り戻したラスリアは、真剣な表情かおをしながら、チェスに話しかける。

「チェス!彼は…アレンが今どこにいるか、貴方知らない!?」

ラスリアの台詞ことばに対し、チェスは深刻そうな表情かおをしながら口を開く。

「ううん…。今、ウォトレストの皆にもお願いして探してもらっているけど、まだ…」

「そっか…」

チェスの口から聞かされたあまり良くない知らせに、ラスリアはその場で俯いてしまう。


 その後、チェスは、ラスリアを発見するまでの経緯を教えてくれた。アレンやイブールのおかげで、なんとかライトリア教団から逃げ出せたこと。仲間であるウォトレストには伏せているが、ミュルザからの指示で水竜の元へ赴き、知恵を授かるという案を受けて動き始めた事。そして、彼らの村に到着後、水竜ウンディエルが自分の気配を感じ取ってくれたおかげで、こうして保護ができたという事を――――――

 私とアレンが”未開の地”に連れて行かれてから…いろんな事があったのね…

ラスリアは、自分が眠っていた布団にくるまりながら、考え事をしていた。

「あれ…?」

すると、何か得体の知れない違和感を覚える。

 そういえば、眠っている間に夢を見たような気がしたけど…

そう考えながら、夢の内容を思い出そうとするが、何も思い出せない。

「…まぁ、いい…か…」

忘れているという事に対して「それほど重要な夢でない」と判断したラスリアは、それについて考える事を諦めた。

「アレン…」

行方のわからない仲間の顔を思い浮かべながら、ラスリアは物思いにふける。

 怪我とか…していないかしら…?

そう考えながら、ラスリアは自分に残っている打撲の後を見つめる。命に別状がなかったとはいえ、チェスや他のウォトレスト達に安静にするようにと促されていた。しかし、ラスリアの胸の内は、アレンを探しにいきたくてたまらないのだ。

「どうか…無事でありますように…!」

ラスリアは手を胸に当て、祈るような表情でアレンの無事を願っていたのである。


          ※


「ビジョップ兄さん!どうだった…?」

ラスリアを民家に残して外に飛び出したチェスは、仲間の伝令を受け取った兄の下を訪れていた。

「ああ…。はっきりとした情報ではないが、いろいろわかったぜ…」

兄のビジョップは、少しだけ愉快そうな表情かおで語る。

「仲間から聞いた情報だと…」

話し始める兄を見つめながら、チェスはつばをゴクリと飲み込む。

「お前が探しているアレンという青年かどうかはわからないが…先日、“未開の地”の西端に出現した人間の村で、銀髪の青年が保護されたらしい…」

「“出現”…?」

チェスは、兄の思いがけない言葉に反応する。

そんな弟に気がついたのか、ビジョップは補足をする。

「…ウンディエル様も以前、おっしゃっていただろう。“世界が元の姿を取り戻せば、これまでなかったモノも出現する”と…!」

「あ…!」

その台詞ことばを聞いたチェスは、アレンとラスリアの目の前でウンディエルがしていた会話を思い出す。

「それと…これは先程、別口で聞いた情報はなしなんだが…」

ビジョップが、気まずそうな表情かおを見せ始める。

「…今回の“世界統合”やその他も含めて…明日の夕刻より、この世界レジェンディラスに存在する竜騎士の長を集めて、会合を開くらしい…」

「…会合…?」

「…ああ。事が事だけに、俺達には打ち明けてもらえないらしいが…」

そう話すビジョップは、ため息まじりの声で再び話しだす。

「お前やラスリア殿には悪いんだが…明日、早急にこの村を発ってくれないか?」

「え…?」

この時、チェスの頭の中には、「なぜ」という考えがよぎる。

「…その長達が集まる会合…この村で行われるらしい」

「えっ…!」

その事実を知った途端、何となくではあるが、自分達を遠ざけようとする理由がよくわかった。

「そっか…。他の長の方々は、“キロ”を嫌っているんだよね…」

「ああ。…すまない」

「…いやいや!兄さんが謝る事では…」

兄が少し落ち込んだ表情かおをしたので、チェスは慌て始める。

 …とりあえず、話題を反らさなきゃ…!

そう考え付いたチェスは、数秒黙り込んだ後に口を開く。

「ありがとう、兄さん。じゃあ、明日の朝に出発するから、その…“アレンと思しき青年が保護された”とされる村の場所…その位置を教えてもらえるかな…?」

厄介者扱いされてもめげないチェスは、精一杯の笑顔で兄に問いかける。

「ああ…!」

兄のビジョップは、そんな弟を見て安堵したのか、柔らかそうな表情でうなづいた。



「ラスリア!!」

兄との会話を終えたチェスは、ラスリアのいる民家へと戻ってきた。

「チェス…どうだった?」

チェスの顔を見たラスリアが、物凄い勢いで食いついてくる。

「えっと…」

とりあえず、厄介者扱いされている点は伏せるという形で話そうとチェスは決めていた。

「…アレンかどうかは定かではないけど…。とある村で、彼らしき青年が保護されたって情報が入ってきたんだ!」

「…本当?」

すがるような表情かおをしていたラスリアに、チェスは黙ったまま首を縦に頷く。

「よかった…」

安堵したラスリアは、手を胸に当てながら微笑んでいた。

それを見て、気持ちの元気さを感じ取ったチェスは、「翌日にすぐ出発しても大丈夫」という考えを強く持ち始める。

 こうしてチェスとラスリアは、翌日にウォトレストの里を出発し、仲間の手を借りてアレンがいるかもしれないという村へと急ぎ始める。

そこで、信じられない出来事に遭遇するとも知らずに―――――――


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