第1章 旅の中で得るもの
第4話 互いを知って生まれる謎
“星命学”―――――――それは、星がどのような仕組みで生まれ、人々の生活にどのような産物をもたらしているのかについて、論じられた学問。“惑星衝突の繰り返しが星を生み、星は火・水・土・風を創り、そこから生物は産まれた”という文が有名だ。この学問を元として作られた宗教が、ライトリア教なのである――――――――
「それをよこせ」
「…嫌」
アレンとラスリアは、何かを巡って睨み合いをしている。
周りにいる人間は何をやっているのかと、陰でヒソヒソと話をしているが、2人とも耳には入っていなかった。
「揚げ物にかけるソースは、たくさんがいいんだ!たくさんが!!」
「だからって、真っ黒になるくらいとんかつソースをかける必要もないでしょう!これって、塩分の摂り過ぎなの!!!」
2人はどうやら、揚げ物にかけるソースの量でもめているようだった。
ラスリアがいたストの村を出た彼らは、商業都市レンドに来ていた。
レンドに到着後、昼食をとるという目的で食堂に入った2人。アレンが揚げ物を、ラスリアがパスタを注文して食べようとしたら、彼がソースの入れ物の中身がなくなるくらいたっぷり入れ始めた事から、この抗争が起きたのである。
全く…俺は濃い味が好きなだけだというのに、どうしてたくさんソースをかけてはいけないのか…
ラスリアに押されて観念したアレンは、大きなため息をつく。
だが、この女…
揚げ物を口に運びながら、アレンはラスリアと初めて会った時に浮かんだ
ビジョンといっても写真のような物であり、動きのないイメージである。1つめは、誰かと対話しているビジョン。しかし、それは人ではない”目には見えないもの”だった。その対象物が何なのかは謎だが、おそらく、何かと対話する能力を持っているという事になる。
アレンの脳裏には時折、謎の声の主が語りかけてくる。そして、多くの助言をしてくれるのだ。それは世界の事や、剣の使い方など様々だ。しかし、彼自身の事は教えてくれないが―――――――
すると、窓の外から、何やら不思議な音楽が聴こえてくる。
「おい。…あれは一体?」
「あれって…ああ、“旅の語り部”。別名を”オピポテフ”と呼ばれる人達の事ですか?」
窓の方を指差すアレンに対し、ラスリアは答える。
「“旅の語り部・オピポテフ”…?」
初めて耳にする名前に対し、アレンは首を傾げていた。
すると、ラスリアは声を低くして語りだす。
「今、この世界ではライトリア教が主な宗教でしょ?…1つの教えが存在すれば、それを認めない人々もいるって事…。つまり、彼らはライトリア教を批判し、違う思想を広める人たちなの…」
「…では、なぜ楽器を奏でる?」
「…それは、私にもよくわからないわ。多分、大きな音を鳴らした方が、皆聞いてくれるから…とか、音に乗せて語る方が、記憶に残りやすいから…とか考えているのでは?」
会話を続けていると、次第に聴こえてきた音が小さくなっていく。
まるで、何も知らない生徒と教師のような会話だったが、“旅の語り部”が去った後、その会話も収まったのである。
「宗教の事はともかく…今後、どう進むつもりなんですか?」
ラスリアが違う話題を切り出すと、アレンは彼女を睨む。
「アレン…さん?」
「…敬語…」
「え?」
「敬語と、その…”さん”づけは、やめてくれないか…」
「…はぁ…」
ラスリアは、呆気にとられたような
しかし、その
「…次は、隣国レアナにある学術都市・アテレステンへ行こうと考えている」
「学術都市…」
「…どうした?」
学術都市アテレステンの名前を聞いたラスリアが、その言葉に反応して考え込む。
「ちなみに、それは…」
「もちろん、”イル”のためだ。それに、”イル”がどのような代物にせよ、あの都市にいる学者連中に聞けば、何か掴める可能性が高いと思ってな…」
「という事は…」
ラスリアは、考え事をしながら世界地図を取り出す。
「そこへ行くには、このラプンツェル山脈の山道を抜けなくてはいけないかんじね」
「…ああ。その道中にあるオーブル遺跡も、念のため何か手がかりがないか調べてみるつもりだ」
「そうね…」
ラスリアは、アレンの話を聞いて素直に同調していた。
…先ほどの反応は何だったんだ…?
行き先の話が終わったので食事代を払おうとした時に、アレンはふと考える。
あまり、行きたくない雰囲気をかもし出していたが…気のせいか?
考え事をしながら会計を済まし、店を出て行こうとした時だった。
「そこの兄ちゃん!」
食堂の女店長が、彼ら2人に声をかけてきたのである。
「あの…何でしょうか…?」
いきなり声をかけられて驚いたのか、ラスリアは恐る恐る尋ねる。
「いや…ね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、あんた達が行こうとしている“オーブル遺跡”の名前を聞いて思い出したんだ」
「何か知っている事でもあるのか…?」
女店長の言葉に反応したアレンは、その
その綺麗な顔立ちのアレンに近づかれて頬を赤らめた食堂の店長は、更に話を続ける。
「な…なんでも、その遺跡…。“遺跡内で死んだ人間が
そう教えてくれた後、すぐに自分の仕事へと戻っていった。
ラスリアがその女店長にお礼を言った後、彼らは食堂を後にする。
レンドの表通りを歩いていく2人。“商業都市”と呼ばれるだけあって、道を行き交う人の数は多い。品物を売る商人、それを買う街の人間や、旅人――――――
他人との交流をあまり好まないアレンとしては、この人ゴミの中に紛れている事が、最も気楽な事であった。しかし、今はラスリアも一緒なので、独りではないという事になる。
※
旅をした時期があったとはいえ、流石にラスリアも
とにかく、何か怖い
考え事をしながら歩いていたので、2人とも黙ったままだった。
しかし、黙って歩き続けてきたので、目標のラプンツェル山脈の麓には割と早く到着する事ができたのである。
「日が暮れてきたな…。夜の登山は、危ない。…今日は、ここで野宿とするか…」
「そうです…じゃなかった!…そうね…」
“敬語は禁止”とアレンに言われたのを思い出したラスリアは、すぐに訂正をした。
それから数時間後――――――辺りは暗くなり、風も出てきた。彼らは、山の麓にある岩石だらけの場所で野宿をする事になった。食事を終わらせ、焚き火の前でアレンは剣を磨き、ラスリアはただただ炎を見つめていた。
「そういえば…」
アレンが手を動かしながら口を開く。
「学術都市・アテレステンに行くと、何かまずい事でもあるのか…?」
「えっ…」
その
動揺を隠して接していたつもりだけれど…バレていたのかな…
その場で考えるラスリアだったが、アレンの無表情でも真っ直ぐな
彼女は、自分が”特殊な人間”である事はわかっていた。自分の出生のために、学術都市アテレステンで誘拐されそうになったという経験をしているからだ。しかし、つらい目に遭った事などおくびに出さず、アレンに答える。
「いえ。アテレステンは、1度訪れた事があって…ただでさえ地理に疎いのに、いきなり知っている街の名前が出てきたから…少し驚いただけなの」
そう答えたラスリアの顔を、アレンはジッと見つめる。
「…そうか…」
納得をしたのか、アレンは焚き火に背を向けて寝転び始める。
「明日も早い…。そろそろ寝るぞ…」
そう呟いて、あっという間に寝付いてしまった。
すぐさま眠りについたアレンを見て、ラスリアは思った。
アレンを信用していない訳ではない…。でも、自分の事で彼を巻き込みたくないから…自分の
そう考えながらラスリアも焚き火の灯りを消し、横になって眠りについた。アレンが探す”イル”がどのような物かと考えながら――――――
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