蛇甲鉄拳ヴァイパー

JOE

プロローグ

 無機質なコンクリートの部屋の奥に、そいつはいた。

 つり上がった大きな目はライトのように赤く光り、額にもランプのようなものが同様に赤く輝いている。

 毛髪のたぐいはないが頭頂部からは蛇の尾のようなものが辯髪のように垂れ下がっている。

 全身は緑の鱗のような甲殻で覆われ、蛇をモチーフにした鎧を全身にまとった騎士、と呼ぶのが妥当な表現である。

 「蛇の騎士」は周囲をにらみつけ、シューシューと息をたてながら部屋中を見回している。何かを探しているかのように。

 すると、コンクリートの部屋の中に武装した男たちがなだれ込んできた。

 ヘルメットとボディースーツに身を包み、自動小銃で武装した姿は何かの特殊部隊のようだ。十数人が入り口近くに陣取り、遠巻きに蛇の騎士を見ている。

 男たちの中のリーダーとおぼしき者が、蛇の騎士を指さした。

 それを合図に男たちは、蛇の騎士に一斉射撃を仕掛けた。銃弾の雨が、砂埃が蛇の騎士を包む。

 やがて、砂埃が晴れた。蛇の騎士の甲殻はあちこちにひびが入り、血が流れていた。男たちは顔を見合わせ、中には笑みを受かべている者もいる。

 だが、男たちのうち一人が呆然とした顔で蛇の騎士の方を指さした。

 蛇の騎士の傷はビデオの巻き戻しのように修復されていく。流血が止まり、甲殻の破損がふさがっていく。そしてまるで最初から無傷だったかのように蛇の騎士は元通りの姿となった。

 男たちの表情が凍り付いた。何人かの者は顔をくしゃくしゃにしながら再び発砲した。ある男は、へなへなと崩れ落ちた。さらに別の男は、パニックを起こしてんでばらばらの行動をとる仲間たちを統率しようとした。

 一方の蛇の騎士は、恐慌状態の男たちとは対照的に悠然と歩み寄る。時折銃弾が命中し、甲殻を傷つけるがそれも瞬時に治ってしまう。そして、蛇の騎士と男たちの距離が1メートルほどになったときだった。

 弾切れになった銃を泣きながら撃ち続けていた男の顔面を、蛇の騎士は殴りつけた。男の首は悲鳴を上げる間もなく体からちぎれ飛び、ぐしゃりと音を立てて壁に激突した。

 腰を抜かし、ガタガタと震える男がいた。蛇の騎士は男を無理矢理立たせると、腹部を貫手で貫いた。返り血が蛇の騎士の甲殻を、赤く染め上げた。

 ここまでくると男たちも蛇の騎士と戦うことは無謀と悟ったのか、背中を向けて逃げ出し始めた。

 だが、蛇の騎士は慌てることなく右手を男たちの方へ向ける。すると右手の手甲のような部分から鞭状の器官が飛び出した。鞭は最後尾の男の背中を貫き、その前の男を貫き、男たちを数珠繋ぎにしてしまった。

 蛇の騎士は、右手を軽く振るう。すると鞭はしなり、先端にいくにつれて大きく波打っていく。波打った鞭は縦横無尽に暴れ回り、数珠繋ぎとなった男たちをズタズタに切り裂いてしまった。

 蛇の騎士は右手を下ろす。すると鞭は掃除機のコードのように縮み、手甲に吸い込まれていく。

 鞭が完全に収納されたことを確認すると、蛇の騎士はツカツカと部屋を歩き回る。歩き回りながら死体を一瞥し、また別の死体を見て回る。

 男たちの死体はある者は首がなく、またある者は腹に大穴が空き、一人として綺麗な死に方はしていない。殺害者たる蛇の騎士は、そんな無惨な死体を無機質な目で見て回る。

 そして、一通り見たとき。蛇の騎士は足を止めた。


「グァアアアアアアアアアアッ!!」


 不意に、蛇の騎士は吠えた。そこには、確かな怒りと悲しみが見え・・・・・・

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