第10話 普通の第3部「最後の選択」3

ここはポンジャ城。


「コウの父親が、あのポンジャ3世!?」

「そうよ。」


時かけの予言の巫女ナーとポンジャ3世から逃げるように、この世界にやって来たナナナナの2人がいる。


「うわああああああああああああああ!!!」


そして、もう気が狂いそうな、自我が保てなくなっているコウがいる。ナナナナの世界では普通に思えたコウは、この世界では孤独だった。


「私にはハチハチよりも、コウはポンジャ3世に似ていると思うわ。」

「え。」

「本当は、いつでもハチハチの肉体を手に入れることができたのに、余りにも人間と関わってしまったために、ハチハチを追い出すことができなかった。自分の望み通り、人間と魔物の共存共栄を実行したのよ。」

「・・・。」


ポンジャ3世。彼ほど国王らしい国王はいなかったのかもしれない。ただ魔物だったというだけである。彼を好きになった女性もいただろう。


「自分が父親を殺した。それだけでも理解できないのに、コウの不幸は終わらなかった。その後にやって来た母親。ポン王妃も殺したのだから。」

「え。」


回想のコウも現状を理解できていなかったが、ここにいるナナナナも、様々な出来事が多すぎて理解できていなかった。


「それからのコウは苦しみ続けたわ、自分が魔物だと知って。」

「コウが魔物!?」


コウの額に3つ目の瞳が開く。魔物の証である。コウの父親のポンジャ4世はハチハチなので人間。しかし、母親はポンジャ3世の妹ポン姫・・・魔物であった。


「はあ・・・はあ・・・。」


コウは人間と魔物のハーフである。聖なる力と闇の力を使うことのできる立派な成人男子の聖闇騎士に育ったのである。


「コウは現実から逃れるように、戦い続けたわ。狂気に取り憑かれたように、1人でね。」

「1人?」

「おかげで、この世界の主な魔物は、邪悪なる者ヨヨヨヨヨンだけになった。それでもヨヨヨヨヨンを倒さないことには、陽の光は地上には降り注がない。」


2人の父。聖なる力を教えたハチハチと、闇の力を与えたポンジャ3世。聖と闇の両方の属性が使えるコウは、戦士としては、最強というぐらい強かった。


「でも、ヨヨヨヨヨンだけは、コウでも倒すことができなかったの。だから、コウはあなたの世界に、何とかする術を探しに時をかけたのよ。」

「そうだったの。」

「それなのに、ハチハチとポンジャ3世が戦う所を見てしまった。ハチハチを置いて自分だけ未来に戻ってきてしまい、ポンジャ3世が魔物になったところを見てしまった。吐き気がしない方が異常よ。」

「コウ・・・。」


ナナナナはコウに同情する。コウは自分の父親と母親を自らの手で殺めた。父親には人間の人格と魔物の人格がいた。母は魔物であった。自分は人間と魔物のハーフである。自分は魔物・・・。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・。」


発作のような症状。肉体は汗をかき体力を削られていく。そして、コウの魂は闇に吞まれてしまえば、消えてなくなってしまう。


「あなたは、これからコウの面倒を見ることになるわ。人の温もりに触れ、正気を取り戻したコウは、伝説の勇者ハチの世界に行くわ。あなたと一緒にね。」

「私も?」

「あなたがいないとコウの精神は安定しないのよ。」

「私は精神安定剤か!?」

「クスクス。そうね。そうかもしれないわ。」


ナナナナの世界で、ヨヨヨヨヨンを倒せなかったコウは、伝説の勇者ハチの世界へ行き、今度こそ邪悪なる者ヨヨヨヨヨンを倒そうとする。


「コウはヨヨヨヨヨンと対峙するわ。そして、コウは最後の選択をすることになる。」

「最後の選択?」

「コウは自ら、死ぬことを選ぶわ。」

「死を選ぶって、どういうことよ!?」

「それがコウの運命だからよ。」

「運命って・・・。」

「どうしてかしらね? 人間って、死ぬ時はみんな満足した顔をして死んでいくわ。生きている私には、まったくわからないわ。」


ヤレヤレと顔を左右に振り、両手をあげて、フーッと息を吐くナー。平然としているナーに対して、コウが死んでしまうと聞かされたナナナナは困惑してしまう。


「私がコウを守ってみせるわ!」

「無理ね。」

「どうして!?」

「それが運命だからよ。それよりも、あなたにはやらなければならないことが1つだけあるわ。」

「なに?」

「伝説の勇者ハチの世界には、最強の剣というものがある。」

「最強の剣?」


最強の剣。それは魔王モヤイだけ倒せる最強の剣である。言葉の通り、魔王モヤイしか倒せないので、多くの冒険者が最強の剣を川に捨てたりして、現在では、稀な貴重な所在の分からない伝説の最強の剣になっている。


「あなたは、いついかなる時も、最強の剣を手放してはいけない。」

「は、はい。」


気楽に話していたナーが、突然、真剣な顔になった。気圧されるようにナナナナはうなづいた。


「これで私があなたに伝えないといけないことは、全て伝えたわ。じゃあ、私は私の世界に帰るわね。」

「あなたの世界って?」

「あなたとコウが伝説の勇者ハチの世界に行って、帰って来てから少しだけ時間が過ぎた世界ね。」

「なんだかよくわからないわね?」

「しっかりしなさい! 世界の平和は、あなたにかかっているんだから!」

「わ、私!?」


なんで私が!? これはコウが主役の物語でしょう!? と思いながら、自分が世界を平和に導く救世主になると言われるとは思っていなかった。


「それでは邪魔者は消えるので、あとのことはよろしく。」


ナーの額に3つ目の目が開く。ナーは魔物になっていた。でも、ナーって、私よね・・・ということは、私は魔物になる!?


「額に目が!?」

「すぐに私が魔物になったかはわかるわ。じゃあね。人間の私。」


そういうと次元の入り口を空間に発生させ、ナーは飛び込んだ。そして、次元の入り口は閉じた。


「すぐにわかるって!? 教えてくれないと、わかるわけないじゃない!?」


半分キレながらも、いない相手を問いただすこともできず、ナナナナは呆れる。そして、息の荒れるコウを心配そうに見つめる。


「うわああああああああああああああ!!!」

「コウ・・・。」


ナナナナは、親身にコウの看病をする。コウの魂は落ち着きを取り戻す。コウはナナナナに感謝する。ナナナナもコウの発作が治ったことに安堵する。2人の距離は苦難と共に縮まっていった。



なかがき。


「大人が読みたい!」ということなので、エロ小説でもいいのだろう。また、もう1っ歩ぐらいは書いてもいいのだろうが、そうすると、書籍にはなっても、アニメにはならない。エロアニメの円盤も全滅的に売れていない。ということで省略。


「すぐに分かるって、こういうことだったのね。」


ナナナナの瞳に3つ目の瞳が現れる。魔物の証である。ナナナナは魔物になってしまった。それでも気分は晴れやかだった。


「私が次元を超えて、コウのために情報をたくさん集めるんだから!」


コウのためなのだが、知らない間にナナナナは、時かけの予言の巫女ナーになっていた。無意識のうちに選んだ道なのだが、ナナナナは運命通りの道を歩んでいた。


なかがき 終わる。



ここはポンジャ城。


「行こう! 過去の世界へ!」


ポンジャ5世がいる。かつての狂喜乱舞の戦いに明け暮れていた狂気の王の姿はなかった。表情は生気を取り戻し、英雄ポンジャ3世のように、国政を行うようになり、家臣や国民からの信任も得ていた。


「私も行くわ!」


ナナナナである。若い2人は結婚した。いまやナナナナは、ナー王妃になった。しかし、成人になった若いコウとナーは血気盛んで、勇猛果敢だった。


「ナー、君は王妃なんだから、もっとおしとやかに!?」

「嫌よ! 私も一緒に行くんだから!」


ナー自身も今の生活が不思議であった。ハチハチのことがずっと好きだったのに、いつの間にかコウのことが愛おしく、一時も離れたくないのである。


「僕1人で行くよ。」

「ダメ! 絶対についていくわよ!」

「ナー!?」

「もしダメと言い続けるなら、自分で次元の扉を開き、あなたを追いかけるわ!」

「ナー・・・。」


コウは諦めた。ナーは一度言いだしたら言うことを絶対に聞かない。相手が邪神であろうが、激竜であろうが、ナーは危険を好むかのように、コウの側を一時も離れなかった。


「絶対に離れないわよ! ワッハッハ!」


王妃として、堂々とした振る舞いであった。しかし、本心は違う。時かけの予言の巫女。未来の自分が言った。コウは死を選ぶ運命であると。そして自分も言った。私が守ってみせると。


「ナーには敵わないな。」


自分が側にいれば、コウは生きることを考え、無茶なことはしないだろう。そして、未来の自分の言い残したことも信じていなかった。きっと、真実を全て話していないと。


「わかった。ナー、一緒に行こう。」

「よろしい。」


ナーは歴史の全てを見ようと思った。自分の目で何が起こるのか、自分で確かめたいと言う気持ちがあった。そして、どこかにある探し物を見つけるために。


「あなたには勇者候補生になってもらいます。」

「勇者候補生?」

「あなたのひいおじいちゃんと同じ職業になるのよ。」

「何を言って・・・まさか!?」

「そのまさかよ。」

「まさか!? 次元を超えたというのか!?」

「視察よ、視察。どの世界まで遡ればいいのかを確かめに行っていたのよ。」


第3の瞳は、魔物の証。人ではない者という証でもある。引き換えに次元を超え、過去・未来を行き来する力を手に入れる。コウと結ばれたナーも、時かけの予言の巫女の言う通り、魔物になることを自ら選んだ。


「危険なことはやめてくれ! もしも戻ってこれなかったらどうするんだ!?」

「その時は、あなたが探しに来てくれるわ。」

「ナー・・・。」

「コウ・・・。」


2人は抱きしめ合う。互いの幸せよ無事を祈って。もしかしたら、コウは時かけの予言の巫女から聞いて、知っているのかもしれない。自分が死を選ぶ運命だと。


「君のことは必ず僕が普通に守って見せるから。」

「いいえ、私があなたの運命を変えてみせるから。」


2人をつないでいるのは愛? それとも・・・。形のないモノに答えはない。ただコウとナーは一緒にいる。お互いの目を見つめ、手を伸ばせば触れることができるということが2人には大切であった。


「行こう! 行って、この世界に平和をもたらすんだ!」


コウの掛け声と共に、コウの額に第3の瞳が開く。自分が魔物である証である。本当は、こんな不気味な異形にはなりたくないが、何度も何度も次元を超えて、窮地を脱している。自分が魔物で良かったと思う時もあるのである。


「私は手に入れる。そして、絶対に離さない。運命を変えてみせる。」


開いた次元の扉に2人は手をつなぎ飛び込む。必ず2人で、この世界に戻ってこようと。日の当たる世界で笑いながら幸せに暮らそうと。コウとナーの最終決戦が今、始まろうとしていた。



ここはポンジャ城。


「よく来た! 勇者候補生たちよ!」


さらわれた姫を救い出すために、王命で集まった100人の勇者候補生の決起集会が始まった。


「なんだか恥ずかしわ。」

「ナー、女ってバレるなよ。」


その100人の勇者候補生たちの中に、次元を超えてやってきた、コウとナーもいた。ナーは男装して、勇者候補生に紛れている。


「まだ、どいつがヨヨヨヨヨンなのか分からないな。」

「今はダメよ。騒ぎを起こしたら、魔物のポンジャ王に怪しまれてしまうわ。」


魔物のポンジャ王!? ポンジャ3世と妹のポン姫は魔物だった。ということは、その先祖は・・・魔物。


「ゲッ!? ということは、僕たちは普通にポンジャ王と親戚・・・。」

「ポンジャ王は幸せね。自分の血を引いた子孫に会えて。」


皮肉っぽく言うが、そう言うことになる。まさか、こんな展開になるとは、誰も思ってもいなかった。


「それでは勇者候補生たちよ、旅の準備を始めよう!」

「おお!」


魔王モヤイを倒し、ポンジャ姫を救うために、最低限の装備品などを支給してくれるようだった。


「まず、好きな装備を選んでくれ!」

「おお!」


ポンジャ王が3択を提示する。「魔王モヤイを1撃! 最強の剣!」「普通の剣」「蟻も殺せない錆びた剣・・・」の3つだった。


「最強の剣!!!」


ナーは遂に見つけた。最強の剣だ。時かけの予言の巫女に言われた、私がやらなければいけないこと。それが最強の剣の確保である。


「僕は伝説のハチの剣があるから、最強の剣なんていらないな。」

「ダメ!」

「どうした? 急に大声を出して?」

「絶対に最強の剣を選んで! いらないなら私がもらうから!」

「わ、わかった。」


こうしてコウとナーは、最強の剣を選択した。まだ、この剣が、いつ必要になるのかは分からなかった。


「次に、好きな仲間を選んでくれ!」

「おお!」


ポンジャ王が3択を提示する。「魔王モヤイも瞬殺! 天空の騎士!」「普通に一人旅」「大爆発は正義! 爆裂魔法使い!」の3つだった。


「カッコイイ! 天空の騎士に、爆裂魔法使い!」

「ダメよ! 普通に一人旅を選ばないと!」

「え~!?」

「よく見て。天空の騎士も爆裂魔法使いも、正体は魔物よ。選んだ時点で、その勇者候補生は再起不能にされるわよ。」

「なに!?」


これもポンジャ王が魔物の敵になる、勇者候補生の人数を減らすために仕掛けた、罠であった。


「最後に、好きな彼女を選んでくれ!」

「おお!」


ポンジャ王が3択を提示する。「きれいな顔立ちのスラットした、モデル体型の美女!」「普通に姫を助け、姫と結婚する。」「巨乳で露出が多めの、セクシーな美女!」の3つだった。


「モデル美女と巨乳、どっちにしよう?」

「コウ、あなたには私がいるでしょう!?」

「冗談です、冗談。ハハハハハ・・・。」


コウとナーは、姫を選んだ。これもポンジャ王のハニートラップだった。何度も何度も時かけを行い、歴史の真実を見てきたナーは、無事に悪意の3択を乗り切ったのだった。


「剣が2本も邪魔だな。私の家の押し入れにでも置いてくるか?」


最強の剣の1本はナーの実家の押し入れにしまわれることになった。


つづく。

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