39.「初トレードの戦績」

 僕は、初めての実践トレードで手に汗を握り、心臓はバクバクで、こんなにも「トレーダー」という仕事は神経を使うのか、って改めて知った。

 それは以前、モモコが僕に言った言葉——「命を削って」を身をもって知った時間だった。

「決済」するまでにたった一時間ほどの時間だったけど、とてつもなく長く感じ、とてつもなく疲れた。

 

 初めての僕のFXトレードの戦績は「ポンド/円」を10枚「売って」18銭ほど利ざやを稼いだ。結果として約一万八千円ほど儲けた——。

 僕の【資産残高】は(618.300円)になっていた。


 ——どうだ? テツヤ、簡単だろ?

 ——簡単、っていうか全部モモコがやってくれただけじゃん

 ——クリックしたのはテツヤだぞッ

 ——それをトレードとは言わないでしょ


 モモコは膨れっ面の僕を見てケラケラ笑っている。


 ——最初はこれでいいんだ。一ヶ月くらいは付き合うけど、後は全部テツヤが自分で判断して自分の意思でクリックするんだ


 —— 一ヶ月で見放されるのか……

 ——当たり前だ。でなきゃこのゲームの意味がない

 ——けど二人で力合わせて、でもいいってお父さんも言ってたじゃん

 ——それは違う。ワタシもテツヤにはテツヤの力だけで勝って欲しいんだ

 ——できるかな、僕に……


 その夜、僕は疲れちゃってすぐに眠りに着いた。


 翌朝、出社してみると加藤課長の姿は失かった。どうやら自己退職したらしい。そりゃそうかもしれない。今更、「稚内支店」なんか行けないだろうな、あの傲慢でプライドの高い人が——僕はそんな風に思って、ふーっっと一息吐いて僕は外回りに出た。


「新規開拓」にも慣れてきて、それなりに自分の話を聞いてくれるようになっていた。まぁ、銀行が来たってことでむげに断る顧客も少ないのは事実だけどね。どこの中小企業も「資金」を融資してもらいたいのだ。しかし、「金融業界」を取り巻く環境も厳しくなっていたんだ。「マイナス金利」政策が当局から示されるようになって、それは銀行の経営にはあまり良くないことだった。当局は「もっと貸し出しをしろ」というお達しを下してくるけど、銀行もその財務内容のチェックが「金融庁」から毎年のようにあって、無闇に「貸出し」ができる状況ではないのだ。


 その日、僕は「追浜」にある自動車部品用の金型メーカーを訪問していた。そこは自分の実家とほぼ同じ物を作るメーカーだったんだ。

 規模や従業員数は実家の三倍以上もあるとこだったが、中小企業だった。二代目社長の経営手腕が気になって、いろいろ話を聞かせてもらった。


——新しいマシニングセンターが欲しくてねー、融資してもらえますか?


 いきなり、「新規融資」の話になった。

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