第4話「私の、仲間」

 カフェの前の広場に、お客さんの姿がいくつもありました。

 PPPの五人、それにマネージャーのマーゲイまで揃っているのです。

 六人のゲストは、広場の真ん中にいるトキと向かい合っています。

 トキは、アルパカのお茶をちゃんと飲んだことを確認して、深く深く息を吸い込みました。

 そして、最も自信を持って歌えるものを歌い始めました。


 私は トキ

 仲間を 探してる

 どこにいるの 仲間達

 私の 仲間

 探してください

 ああ 仲間


 パーク中響き渡りそうな大音声を真正面から受けて、六人はすっかり圧倒されてしまいました。

 が、マーゲイがすぐに身を震わせて我に返り、トキに駆け寄りました。

「これ!これです!このっ、ものすごく心のこもった……、いえ!もはやこれが、トキさんの心そのもの!トキさんの心がそのまま歌になって飛び出したような……!」

 プリンセスも続きます。

「こっ、この歌に心を込めて歌うことの秘密があるってことよね、マーゲイ!?」

「気絶してる場合かコウテイ!」

 白目を向いたままのリーダーをイワビーがどつきました。

 トキは、マーゲイの食いつきかたに黄色い目を丸くしていました。

「あなたたち、私に歌のことを聞きにきたの?」

 ジェーンが前に出て答えます。

「そうなんです。私達、練習してるうちに、心を込めて歌うっていうことが、よく分からなくなってしまって……」

「マーゲイの提案で、とっても心を込めて歌えるあなたのところに来てみたの」

 プリンセスの目がトキを真っ直ぐ見据えました。

「むふ、みんなが認めるアイドルに歌のことを教えるなんて、照れるわね」

「でもさー」

 後ろにいたフルルが手を挙げていました。

「トキにはもう仲間、いるよねー?」

 フルルの言うとおりです。

 今もカフェの軒下でアルパカがお茶を用意して待っていますし、ショウジョウトキやクロトキ、ウグイスもよく姿を見せます。

「もう仲間がいるのに、仲間を探す歌に心が込められるって、なぜなんでしょう?」

「同じ種類のトキの仲間を探しているのかい?」

 ジェーンとコウテイがたずねますが、

「いいえ、あなたたちと同じ。今は、全く同じトキじゃなくても仲間だと思っているわ」

「じゃあ、どうして?」

 その答えを誰かに話すのは、トキにとっても初めてのことでした。トキは少し深く息を吸いました。

「この歌、仲間の歌はね、勝手に出てくるの」

「勝手に……?」

 トキがこのことを話すのに、少し恐ろしい例え話をしなくてはなりませんでした。

「あのとき……、「ひ」を見たでしょう?」

「ひ、って」

「光ってて、ゆらゆらして、熱い風が出る、あの「ひ」ですか?」

 皆が火を見たのは、黒いセルリアンを退治したときと、かばんが助かったお祝いのためにヒグマと博士たちが料理を作ったときだけでした。

「あの「ひ」みたいな、ああいうものが……、私の中にもあるのよ」

 そう聞いてフルルがトキのお腹に手をかざしました。

「違うわ」

 フルルはイワビーに引っ張られて退きます。

「熱くて、刺すようにまぶしくて、手がつけられない……、そんな何かが、私の奥底に居座っているの」

 六人は黙って聞いているしかありませんでした。

「私がトキである限り、これは消せないのよ。そういう何かが、私にあの歌を歌わせているの」

 トキの光のない瞳に、しかし熱く尖った何かが刻まれているのが、六人にも感じられました。

「ロックだ……」

 イワビーが、やっとこうつぶやくことができました。

「でも、そんなものすごい何かって……」

「私達にそんなすごいもの、あるんでしょうか」

 プリンセスもジェーンも、心を込めて歌うことをますます難しく感じてしまっているようでした。

 トキには、それが無用な心配であると分かりました。

「私は、あなたたちはとっても心を込めて歌っていると思うわ」

「えっ?」

「あなたたちはなぜ歌うの?」

「それは……」

「お客さんに、楽しくなってもらうため!」

 フルルが元気良く答えました。

 それを聞いてトキは安心しました。

「そういう気持ちが、とっても込もっているじゃない」

 PPPとマーゲイは、皆憑き物が落ちたように明るい表情になりました。

 そしてマーゲイがトキに頭を下げました。

「トキさん、本当にありがとうございます!」

「すごく勉強になったわ!」

 プリンセスもとても晴れやかな笑顔をしています。

「むふ、照れるわ」

「は〜い、皆しゃ〜ん!お茶ですゆぉ〜!」

 カフェの軒下からアルパカが呼んでいます。

「帰る前にお茶にしていきましょう!」

「わーい!」

 PPPとマーゲイがテーブルに駆け寄り、このカフェにしてはにぎやかなお茶会が始まりました。

 六人が今度のライブではああしよう、それならこうもしよう、と話している隣に、アルパカが予備の小さなテーブルを出してトキを呼びました。

 こちらのテーブルは落ち着いたものです。

「ひ、かあ」

「あら、あなたも聞いてたの」

 少し怖い話をアルパカに聞かせてしまったかと、トキは落ち着かない気持ちになりましたが、

「だからなんだにぇ」

「え?」

「だからトキちぁんの歌、とってもあったかいんだにぇ」

 アルパカにそう言われて、トキは胸の中に、また別の「火」が宿るのを感じました。

 お茶を一口飲んで、平静なふりをしようとしましたが、やはりこらえきれなかったようです。

「ちょっと失礼」

 トキはすっと席を立ち、そこですぐにその場から飛び上がりました。

 再びトキの歌声が山を包みます。


 アルパカの ふわもこの 優しさ

 私の 心を 包む


「何だ、仲間の歌じゃなくてもすっげー心込もってんじゃん!」

「やっぱり見習わなくちゃ!」

 PPPもマーゲイも皆トキの歌に聞き入ってしまったので、歌われているアルパカは赤くなって縮こまっていました。

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思い付いたら増えるトキパカ中心SS M.A.F. @M_A_F_

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