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 ゲーム内の店舗もリアルの店舗も、こうして入ってみれば、そこに何か違いがあるのかどうかなど、一見では解からなかった。ゲーム内のバーチャルな売り場の方が面積に対する陳列が少ないというくらいだ。現実の店のようにごみごみした空気はなかった。せめて架空の店内くらいは理想のディスプレイをしたいのだろう。


 トウヤに聞きたいことは沢山あった。何処に住んでいるのか、本名はなんというのか、あの彼女とはどういう関係なのか、わたしのことはどう思っているのか。バーチャルの暗黙ルールに阻まれて、どれも聞けるはずのない質問ばかりだ。リアルに興味を持ってはいけない。

 トウヤがくれた課金アイテムの衣装は、前に欲しいと言ったことのあったミーネのワンピースだ。ゲーム通貨でも買える店売りのモノとはデザインも性能も違う。課金だけあって、ずっと良い物だった。黒いベロアの生地に暗いエンジ色の薔薇の模様が全面に入って、襟にも袖口にもスカートの裾にもたっぷりとレースがあしらわれている。白に近い水色のリボンがアクセントになって、可愛さはカタログで観た時以上だ。まるで上品なお嬢様のような晶がそこに居た。

 浮かない表情は憧れの衣装が思いがけなく手に入ったことでなく、重くのしかかるある種の懸念のせいだ。

 ユーザー同士の取引が解禁されたことで、この先、ウィルスナはどうなっていくのだろうか。こんな風に金を持たないプレイヤーがゲーム通貨を課金アイテムにつぎ込むようになったら、チートどもが喜ぶだけだ。ますますこの世界がリアル同様のクソゲーに近付きはしないだろうか。一抹の不安と共に、鏡に映る新しい装備のバーチャルな自身を見つめた。結局、理想は金に負けてしまうのか。


 運などというロクでもないシステムが支配する世界(リアル)。運という、とても不公平な要素で決まってしまうチャンスなら、ズルした方がいいじゃないか。どうせ過程など問題にされない。ならば楽が出来る部分は楽をしたっていいし、むしろ、要領の良さを褒めてほしいくらいだ。努力はしたさ、探すのは大変だったんだ。

 仕事の上でも、集団生活でも、みんなグズは嫌いだろ?

 要領良く出来るってことは、それだけ無駄を省けるってことで、優秀なスキルなのさ。ネットに転がる情報を使って楽をするのは賢いやり方だよ。それを作った者の努力?

 ちゃんと「ありがとう」って言ってやってるじゃないか、それで充分だろ。


 欲しいプレイヤーと売りたいプレイヤーで取引が成り立つなら、双方で何も問題はないじゃないか。対価は払ってる。金で済ませられる部分は金で済ませた方が賢いのさ、結局は。時間が無いんだからさ。いちいち、面倒なレベル上げなんかやってられるもんか。金がないからって僻むんじゃねーよ。


 夢の中で、白銀の鎧を着込んだ真っ黒い影の人物が、赤い口を大きく開いて嗤っていた。逃げても逃げても笑い声は追いかけてきて、泣きそうになった。その影が誰かを知っているような気がしたからだ。

 セミロングの髪が揺れて、銀行に預けっぱなしのあの鎧とそっくり同じ鎧を着込んでいる影だった。

『あんただって、似たようなもんじゃん、』

 聞き覚えのある声は、目覚めた後にも晶の耳に残っていた。

 晶はまだ若く、このリアルの本当の仕組みを知りえない。理不尽を憤る、若き十七歳だった。


 トウヤの不機嫌な声が幻聴を打ち消した。塔のフィールドは潮騒の音と海鳥の鳴き声が煩さかった。

「おい、アキラ。おまえ、それはチートだろ。」

「ふっふっふっ、知らないのかい、トウヤ。タワーフィールドはランサーが無双するための場所なんだよ?」

 口をへの字に曲げてトウヤは文句を言った。三階や四階あたりでは、トウヤの裏ワザは難易度が高いばかりで威力を発揮しなかった。それでもいずれ、憎まれ口でボヤくトウヤと晶の立場は逆転しているはずだ、トウヤに寄せる絶大な信頼が約束していた。


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