第五章 リアルの女

キリちゃんが、初デートの待ち合わせに指定してきたのは意外な場所だった。

僕はK府、キリちゃんはN県、両方の県が隣接するS県の高速道路のサービスエリアの駐車場であった。

チャットの後、すぐにメールがきた。



   S県の阪神高速道路

   伊吹サービスエリアの駐車場で

   ナンバーOOOの赤いデミオを探してください。


                     蟷螂



待ち合わせの日時に、僕は愛車のパジェロミニ EXCEEDでやってきた。

愛車はシルバーに紫のラインが入ったツートンでかなり目立つ。休日の午前中なので車の数は多いが、容易に赤いデミオを探し出すことができた。


愛車から降りた僕はデミオのナンバープレートを確認した後、運転席側のガラスをトントンと軽く叩いた。

運転席には20代後半に見える、髪の長い色白のきれいな女性が乗っていた。ふと顔を上げて僕の方を見て、にっこりと微笑んだ。

あぁー、この人がキリちゃんだ!

想像していたよりもずっとずーっと美人じゃないか!

会いたかったキリちゃんにリアルで会えたんだ。僕は嬉しくて感動して胸がいっぱいになった。


デミオから降りて、キリちゃんは僕に挨拶をした。


蟷螂かまきりこと、キリちゃんです」

「僕はしょうちゃん、初めましてなのかな……?」

いつもネットでしか知らないキリちゃんが、生身の女として僕の目の前に存在している。何とも不思議な感覚だった。

初対面といっても、僕らはネットでは恋人同士……気持ちは分かり合えているはずだ。僕は当然、女としてのキリちゃんに興味を抱く。


「あたしの車はここに置いていくから、しょうちゃんのパジェロに乗ってもいい?」

「もちろん!」

「ねぇ、伊吹山いぶきやまの方へドライブに行かない?」

「伊吹山かぁー季節も良いし、よしドライブにいこう!」

僕のバジェロにキリちゃんが乗ってきたら、車内にプーンと良い香りが漂う、キリちゃんがつけてる香水は、ディオールの「Forever and Ever」かな?

死んだ彼女と同じ香水だ。僕はキリちゃんに女を感じて下半身が熱くなった。


途中、どこかにラブホーはあったかな?

……と不謹慎なことを密かに考えている僕だった。


助手席に座っている。キリちゃんを横目でチラチラ観察する。

髪はロングのストレートを栗色にカラーリング、顔は色白で派手過ぎないナチュラルメイクの美人。ファッションは黒の七部丈のTシャツの上に白いロングカットソーをふわりとはおり、ボトムスはフェイクレザー風の黒のレギンスで足元はヒールの高いミュール、大人の色気のあるファッションだ。

そして膝にはルイ・ヴィトンのパピヨン、とても趣味がいい。


僕は今までオフ会やちょっとした切欠きっかけで、ネットの女性たち数人とリアルで会ったことがあった。死んだ前の彼女も元々ネットで知り合った仲なのだ。

だけど会ってみると……ほとんどの場合、ネットで抱いているイメージとだいぶ違うことの方が多い。ずっと年上だったり、かなり肥満していたり、鬱っぽい人だったりと……。

相手に失望して、一度きりでもう会わなくなったことの方が多いくらい。


――それなのに、キリちゃんときたら僕の想像以上の女性だった。

たしか離婚してシングルだと言ってたけど……リアルの男たちが、こんな美人をよく放って置くなぁーと不思議に思った。

こんな素敵なキリちゃんと毎晩チャット部屋でイチャイチャしていたのかと思うと、ニヒヒッと思わずほくそ笑んでしまう。


高速道路を走っていると、キリちゃんが突然いい出した。

「ねぇ、この先にホテルがあるの。休憩していってもいいわよ」

「ほ、ほんとにぃ――――!?」

僕は嬉しくって、思わず急ブレーキを踏みそうになった! 危ない、危ない!

まさか、そんな大胆なことをキリちゃんの方からいい出すと思ってもみなかったので面食らった。

たぶん……きっと離婚して1年も経つんで寂しいんだろうか?

いわゆる男ヒデリってやつだなー、だったら僕がたっぷりと……頭の中で卑猥ひわいな空想が膨らんでいく――。


ここから先は高速を降りて……僕の目にはラブホテルの看板しか入らなくなった。

しばらく走ると、駐車場から部屋を選んでチェックインできるモータープール式のラブホテルがあった。「恥ずかしいから……」とキリちゃんが言うので、そこならフロントで顔を見られないで済むからと、僕らはそこに決めた。

ルームパネルの点灯している部屋から適当なのを選びボタンを押した。ふたりはエレベーターに乗って、自分たちの部屋へ向かった。

キリちゃんはまったく物怖ものおじする様子もなく、平然と僕の後ろをついてきた。


キリちゃんって……意外と遊んでいるのかなぁー?

すごい美人だし、いっぱいの男に言い寄られているのに違いない。もしかしたら、それが原因で離婚したのかもしれない。

勝手な想像しながら、僕は横目でキリちゃんをチラチラ見ていた。


エレベーターが止まってドアが開いた。番号が点滅している部屋を僕らは開けた。

そしてラブホテルの部屋に入っていった、中央にドンと大きなベッドとソファーに小さなテーブル。

……それだけの部屋、アレを目的とした部屋、こんなところにきたのは、久しぶりかもしれない。

ここでキリちゃんを今から抱くんだ、なんだか現実と思えない不思議な感覚だった。


キリちゃんは喉が渇いたと冷蔵庫からペリエを出して、そのまま瓶から口飲みしている。僕はビールが飲みたかったけど、運転があるのでコーラにした。

携帯を開いてチラッと見ていたキリちゃんはパチンと閉じてバッグにしまう。

そして慌ただしく――。


「先にシャワーに入るわね」

そういって、さっさとシャワールームに入っていった。

思わぬ急展開……ていうか、ネットではお淑やかに見えていたキリちゃんがリアルでは、結構、大胆な女だという事実に驚いた。

もしかしたら、ネットで男漁りしているのかも……?

今から始まるスイートな出来事と裏腹に、僕の心の中では何んともいえない重い感情に覆われてしまった。

キリちゃんを抱いてしまったら、もう後戻りできないような……そんな気がした。


シャワールームからバスローブを着てキリちゃんが出てきた。その中身は全裸だろうか?

ドキドキしながら、交代で僕もシャワールームに入った。

僕がシャワールームから出てくると、キリちゃんはベッドの上に寝そべって携帯をイジッていた。

なんだか、リアルで初対面とは思えないキリちゃんのリラックス振りに、薄ら寒いものを感じながらも、ベッドの上の御馳走を食べたいは抑えられない!

ベッドに腹這いになって、肘を付いて携帯を打つ(誰にメール送っているんだろう?)脚は上に90度に曲げている、その肢体が艶めかしくてセクシーだった。

抱いたら、キリちゃんは僕のモノになるのかな?


黙ったまま、僕はベッドの彼女の横にいくと……

抱きしめてキスをした、キリちゃんは僕のキスを受け入れた、僕が舌を入れるとディープなキスを返してくれた。

僕らの相性は悪くなさそうだ、ごく自然にふたりは結ばれた。


「避妊しなくていいの?」

……と僕が訊くと、

「赤ちゃん欲しいから中で出して……」

キリちゃんが信じられないことをいう、もしデキても……キリちゃんとなら結婚してもいいや、てかっ、絶対に結婚したい!

彼女の許しを得て、僕は彼女の膣で何度も果てた、その度にキリちゃんは喜びを身体で表す、何度も痙攣しながらイッてしまった。

すごく感度も良さそうだ、キリちゃんとは身体の相性も最高だった。


どのくらい時間が経っただろうか?

ふたりともベッドの上でまどろんでいた、キリちゃんの髪の匂いが男の本能をくすぐる。

「今、なん時……?」

携帯の時計を見てキリちゃんが起き上がった。


「シャワーに入ってくるわね」

そういうとベッドの周りに散らばった下着類を集めてシャワールームに入っていった。もう、お開きかいなぁー? もっともっとキリちゃんを抱いていたい僕は残念だったが……しつこいのは嫌われるので、僕ものろのろを帰る準備を始めた。

それにしても……キリちゃんてば、情熱的だったなぁー。シャワーの音を聴きながら、先ほどのふたりの情事を思い出して、ニヒヒとスケベ笑いが零れる。

一年前に恋人を亡くして、ずっと傷心だった僕の心に灯りが燈った。キリちゃんと結婚して絶対に幸せになるんだ!


――僕の中で幸せな未来図が拡げられていくようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る