日曜日がずっと来ればいいのに!

ちびまるフォイ

日曜日は安くない

『毎日にお疲れのあなたに日曜日を貸し出します』


わけのわからない看板に吸い寄せられて、道のはずれにあるレンタル店へ訪れた。


「あの、日曜日を貸し出すってあったんですが」


「ええ、その通りですよ。毎日平日ばかりでお疲れでしょう?」


「まあ……」


最近、同僚の佐藤が会社を辞めたおかげでしわ寄せがこっちにも来ている。

仕事仕事の毎日で疲れ切っていたが休日までは日が遠い。


「こちらで休日を借りますか?

 安心してください、あなたの休日なので

 ほかの人にはまったく影響ありません」


「じゃあ、お願いします」


カードを発行して日曜日を1日手に入れた。

翌日は木曜日のはずだが、日曜日になっていた。


「すごい! 本当に日曜日になった! 休めるんだ!!」


他の人たちも日曜日になっているので、ずる休み感覚がない。

平日の疲れをいやすために1日のんびりと過ごした。


翌日は先送りしていた木曜日がやってきた。

水曜日、日曜日、木曜日という順番だとなんか変な感じだ。


「はぁ……昨日思いきり休んだはずなんだけどな……」


まるで月曜日のような気分を過ごした。

恐るべきは、まだ休日に入るまで金曜日が残っているという事実。

耐えられるだろうか。いや、ムリだ。


「すみません!! また日曜日をください!!」


「かしこまりました」


木曜日の翌日、日曜日がはじまった。


「っはーー! 平日と休日が交互に来るとなんて最高なんだ!」


こんな日がずっと続けばいいのに。


「そうだ! 日曜日をたくさん借りて、連休にしちゃおう!」


日曜日レンタル店にいって日曜日をまとめて手に入れた。

なんと10連休。

ゴールデンウィークも真っ青だ。


「よっしゃーー!! たくさん遊ぶぜーー!!」


借りてきた日曜日に思い切り羽を伸ばした。

休みつかれた時は平日の仕事を挟んでまた充実した休日へのスパイスにする。


いつしか俺の日常は、平日と休日が逆転していった。


「あーーーー……仕事いきたくねぇなぁ……」


日曜連休明けにはいつも憂鬱な気分になる。

明日も日曜日にして、仕事できるような体に整えようか。


ふたたび日曜日レンタル店へと向かった。


「日曜日お願いします」


「すみません、それはできません」


「え? なんで!?」


「日曜日レンタルは、あなたの未来の日曜日を前借りして

 あなたに貸し出していました。

 けれど、あなたの未来の日曜日の残高はゼロになっています。それに……」


「ええええ!? それじゃ俺の未来はこの先ずっと平日ってこと!?」


そんなバカな。

それこそ過労死してしまうだろ。


どうすればいい……。

なんとかしてまた日曜日を手に入れなくては……。


ぐるぐると考えてもアイデアは出てこない。

うつむいてレンタル店を出たときに、神様からの恵みが落ちていた。


「なんだこれ……って、レンタルカード!?」


日曜日レンタルに使うための、他人のレンタルカードが落ちていた。

なんていう幸運。

これを使えば俺の日曜日ではなく他人の日曜日を手に入れられる。


別の日曜日レンタル店にいってカードを提示した。


「これで日曜日を貸してください!」


他人の日曜日だから遠慮は無用。限度いっぱいまで借りてやる。

店員はカードをスキャンして、顔をしかめた。


「佐藤さん、あんた休日返上してないだろ?

 延滞休日が貯まってるのをどうにかしろよ」


「え、延滞休日……?」


「借りた未来の日曜日ぶん、平日で返上すんだよ。

 1日曜日で5平日だ。

 延滞してるからその分は過去の日曜日から回収するぞ」


「はああ!? 過去って……」


「楽しい日曜日の思い出もすべて回収するってことだ。

 あんたの返上分の日曜日は3日で、延滞が365日で――」


「ちょっ……! ちがうんです! このカードは別の人のものです!!」


俺は慌ててカードを置いて店を出て行った。

危なかった。カードの持ち主はとんでもない奴だった。

たった3日曜日を延滞しただけで1年なんて以上だ。


とにかく、上手く逃げきれてよかった。



「お客様」



顔を上げると、いつも使っていた日曜日レンタルの店員が立っていた。


「あ、あの、なにか……?」


「探しましたよ」


店員の優しい笑顔とは対称的に俺の顔はひきついっていた。



「限度いっぱいまでレンタルされた休日の返上がまだです。

 延滞分もふくめて94751平日のお支払いをお願いします」


「あ……そ……そんな……」


「お支払いいただけなければ、

 あなたの過去すべてから回収いたします」




※ ※ ※


「山田――。山田――あれ?」


「課長、山田さんなら昨日、突然会社を辞めたじゃないですか」


「佐藤につづいて、山田も会社も辞めたのか。まったく……」


会社では急に退職した2人ぶんのしわ寄せで忙しくなっていた。


「なぁ、いったいどうして佐藤は急に辞めたんだ? なにか聞いてないのか?」


「さぁ……あっ!」


同僚はすぐに思い出した。


「そういえば、辞める直前に"平日で返済しなきゃ"ってぶつぶつ言ってました!」


「会社を辞めたら、平日も休日も変わらねぇだろ。

 そんなに平日を休みにしてなにがしたいんだかね」


課長は首をかしげていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日曜日がずっと来ればいいのに! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ