とと そのに

 とと そのに


「狐の窓」

 迷路は指を複雑に交差して、隘路の顔の前に掲げた。指の隙間から藍色の大きな瞳がきらきら主張する。映り込むのは左頬に大きな、顔の面の皮を剥がしたような傷跡のある血色の悪い糸目男だ。何とも見目の悪いうらなりだろう。

「さしずめ、狐の目、とでも言ったところでしょうか」

「よく気付いたな」

「ふあいんぷれえです」

「ん」

 迷路はどこか誇らしげ、嬉しげだ。ようやく、ようやく知りたかった事をその手に掴んだからだろう。

「では隘路。今度は隘路の番です」

「ん?」

「教えてください。隘路は、」

「迷路」

 俺は迷路の窓を塞ぐように、その手に右手を被せた。

「我を知りたがるものなどおろうはずもない。何故なら、我の話などちいとも面白うはない故」

 ……不自然だっただろうか。

 突っぱねるような言い方になったのはわざとではない。けれど。

 いや、迷路のことだから、

「隘路、隘路」

「ん」

 迷路は真っ直ぐに、恐れるほど真っ直ぐに、目を見つめ返した。

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