どんなことしてでも売れた作家が正義でしょ?

ちびまるフォイ

異世界小説書けば売れると思っていたのか?

「作家にとって評価は命です。

 たまに、評価されなくてもいいと言う作家はただの負け犬。

 みなさんは読者の評価が作家の命だと理解してもらいます」


ネットの小説家が集められたのは無人島。

食料の調達も難しそうな荒地。


「みなさんはここで小説の投稿をしてもらいます。

 その評価に応じて物資が配給されます。

 一定以上貯まった人は無人島から出られます」


無人島の作家活動がはじまった。

これまでのアカウントはすべて削除されてのスタート。

純粋な作家の能力によるサバイバルだ。


「つっても、何を書こうかな」


「あ、あ、あ、あ、あの……よろしくお願いします……」


近くいた1世代前のオタクっぽい人が声をかけた。

同じ無人島作家とはいえ、ここではライバルだ。

とくに相手をせずに執筆活動へと戻る。


「……思いつかない。テキトーに書くか」


最初からうまくいくわけないのでまずは腕ならしもかねて、

よくある異世界とVRMMOを足して、ラノベ要素をふんだんに盛り込んだ

量産型の小説を書いてネットに投稿した。


数時間後、飛行機が飛んできて小さなコンテナが落ちてきた。


指紋認証で開けると、中には食料がぎっしりと入っていた。


「おお! すごい! なんだこれ!?」


理由はさっき投稿した小説にあった。

異世界とかみんなの好きなものをぶち込んだ雑な小説は、

まさかまさかの大人気で大量のいいねを稼いでいた。


「やった! さすが俺! こんなに順調に進むなんて!」


無人島とはいえ、これだけの食料や物資があれば不自由はない。

食べきれないぶんは、最初に出会ったオタクへと恵んでやった。


「い、い、い、いいんですか?

 ぼ、ぼ、ぼくまだ全然評価されてないのに……」


「みたいだな」


男のアカウントを見てみると、作品数は俺よりもあるが評価は少ない。

それだけに食料にありつけていない。


「困ったときはお互いさまだ。俺が困ったときは助けてくれよ」


「もちろんです!! この恩は一生忘れません!!!」




異世界小説は好評で快適な無人島生活を続けていた。

それもある日を機会にかげりを見せ始める。


「……うーーん。思いつかねぇ」


最初に主人公を強くしすぎたせいで先の展開で詰まってしまった。

毎回、敵をあっさり倒してしまってあとはヒロインとのイチャラブ。


ワンパターンさは読者にも見透かされて、

俺の小説のいいねは徐々に下がり始めていた。


「どうしよう……このままズルズル続けていくよりも、

 いっそスパッときれいに終わらせて作家評価を下げないのが懸命か?」


ダラダラ続けても読者は離れる。

だったら完璧な終わらせ方をしていいねを稼いでから、次回作につなげればいい。


マンネリ化していた異世界小説にラスボスを登場させて俺の小説は完結した。



「……あれ、思ったより"いいね"伸びなかったな」



小説の評価は完結したところで伸びたりしなかった。まあいい。

次の作品の執筆に入ろう。


前はよくある量産型異世界小説だったので

今度は独自の世界観をのせた小説にしてみよう。


「ふふふ、これは間違いなく面白い! 俺ってやっぱり天才だ!!」


次回作はほとんどスパンを空けることなく公開した。筆が進む。

自信満々の2作目の評価は……絶望的だった。


「あ、あれ……おかしいぞ。どうなってる!?」


評価が低いので食料は運ばれない。

このままでは無人島の脱出はおろか、のたれ死にしてしまう。


「まずい!! とにかく人気作を作らないと!」


慌てて、異世界量産系の作品も書いて投稿したが今度は評価されない。

いったいどうして!?


食料が届かなくなりみるみるやせ細り、脳にも栄養がいかなくなる。

こんな状態じゃいい作品なんてますます書けない……。


俺はすべてのプライドを捨てて男のもとに頼みにいった。


「お願いだ! 食料を……食料をわけてくれ!!」


「はぁ? 何言ってんの?」


最初に出会ったオタクは、大量の食糧に囲まれていた。


普通の小説が評価されないもんだから、

他の小説をこき下ろす批判エッセイを書きまくったところ

それで認知度が上がって作品が評価されたらしい。


「こんなに食料があるなら分けてくれてもいいじゃないか。

 ほら、前に困ったときはお互いさまって……」


「底辺作家のざれ言なんて聞く価値ないね。

 あんたみたいに、ぼくに頼む作家はほかにもいたよ。

 でも、ぼくはそいつらのためにあえて断ってやった」


「それじゃここに来る前に死んでた人は……」


「まあ、食料尽きたクソ作家は死ぬしかないだろうね。あっはっは」


完全に八方ふさがりだ。


「言っておくけど、ぼくの作品を批判するような小説書いてみろ。

 ぼくのフォロワーを焚き付けて、削除依頼を送らせるからな」


「そんな……!!」


批判で認知度があがったくせに、批判されるのは嫌いだなんて。

いったいどうすれば……。


「そうだ!!」


アイデアがひらめいた。

批判エッセイではなく、むしろ男の小説を褒めちぎるものを書いた。

批判作品ほど目を引くものではないので評価は低い。


「おい、あんた、ぼくの小説をほめてどういうつもりだ?」


「どういうつもりもない。もっと君の小説を読んでほしいんだ」


「ははぁ、わかったぞ。ぼくの小説をほめておけば、

 ぼくが食料を恵んでくれると思ってるんだろ?」


「そんなこと考えてない」


「うそつけ! ぼくのファンの一部を、あんたの小説に流入させようとか思ってるんだろ!」


「めっそうもない!」


「バーーカ! そんなことぜったいさせないもんね!!

 あんたに食料はおろか、フォロワーにも言って

 あんたの小説には1いいねも分けてやらないから!!」


男は宣言通り、少しも俺に慈悲を与えてはくれなかった。

小説の評価はみるみるあがって無人島脱出が目前となる。


かたや俺はもう餓死寸前。


「ふふふふ、おい、ぼくは無人島を出る。君はここで死ね。

 最終話を投稿すればまちがいなく脱出できるからね」


「う……うう……」


「これが作家としての才能のちがいだよ。

 作家はどんなことをしてでも売れたものが正義なんだ」


男は最終話を投稿した。

しばらくすると、迎えのヘリがやってきた。


「無人島の脱出のお迎えに来ました」


「くるしゅうない。さぁ、ぼくを連れて行ってくれ」


男は得意げに手を差し出した。



「何言ってるんですか? 脱出するのはこちらの人です」


スタッフは俺の手を取った。

そのままヘリに乗って無人島を離れた。


みるみる小さくなる無人島ではぽかんとした男が取り残されていた。


「……しかし、あくどいことをしますね。

 まさか、まったく同じ小説タイトルで投稿して読者をかせぐなんて」


「同じタイトルでも、結果的に作品評価は俺の方がうえだった。

 だから俺の才能の方があったってことさ」


男に俺のしっぽをつかまれないように

物資は届いていたがわざと食べずに餓死状態で耐えたのはつらかったが。




「作家はどんなことをしてでも売れたものが正義だっていうだろ?」

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