―ツトム― 転生話とか、召喚話とか、馬鹿にしてた僕が異世界に召喚された件④




(あ、危なかった……。)

 僕は今、襲撃した盗賊の一人と遭遇している。実際には二人いたが。

 

 

 

 悲鳴を聞いた後、急いでその悲鳴の元に向かった。いや、「向かった」というより「見に行った」が行動に近いかもしれない。

 

 部屋を出た近くに窓があり、そこから悲鳴の元らしき人物が見えた。そう、今助けた少女だ。

 

 少女は盗賊に連れ去られそうになっており、まさに危機的状況だった。

 どうしようかと考えている時間は無かった。

 

(くそっ……!!)

 こうもしている内に少女は連れ去られていく。どうする……!!

 

(窓を、飛び降りるか……!!)

 今、盗賊達は真下ではないにしてもすぐ近くの下に居る。飛んでみるのも……。

 

(いやいやいやいや!!)

 そんなふざけた事を考えてる場合じゃない! ……でも、僕は勇者の力を持っている。火を扱える事以外に何か……そうだ、身体能力が上がってるとか……。

 

 もうそれを信じていくしかない! 盗賊達は徐々に離れている! やるしかない!!

 

(……よし!)

 僕は盗賊達目がけて窓から飛び降りた!

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 そこから先は、一瞬だった。

 僕は雄叫びを上げた後、槍を手にし盗賊の一人を攻撃。攻撃した盗賊を払いのけ、もう片方の盗賊にタックルし攻撃、そして少女の手を掴み安全を確保した。

 

 行動を終えた僕の頭の中はほぼ真っ白だった。

 その一連の行動はまるで自分が自分じゃない・・・・・・・・・かのようだった。感覚が研ぎ澄まされ、身体も別人かの如く動く。そんな感じだった。

 

「ふぅ~…………危な、かった……。」 

 僕は心を落ち着かせるために息を吐き独りごちた。それにしても自分の行動に自分で驚きを隠せない。それと――

 

(…………うっ……。)

 槍で切り払った盗賊を見る。……盗賊は頭を垂れて、後ろの壁が血で染まっている。どうみても死んでいる。

 

(僕が……殺した……。)

 正直言ってこいつらは悪人だ。死んでもいい奴らだ。

 

(でも……殺すつもりは……。)

 悪人でも「人間」だ。罪悪感が無くせるわけがない。そもそも殺さずにできる方法もあっただろう。それなのに――

 

「だ、だれ?」

「ん、え?!」

 急に声をかけられる。見ると助けた少女だった。

 

「おにいさん……だれ? わるい、ひと……?」

 少女は今にも泣きそうだった。それはそうだろう。

 盗賊に襲われて連れ去られると思ったら急に知らない人が盗賊を襲った上、自分を捕えているように思える。

 

「……え~と……僕、は……その……。」

 僕は少し困り頭を掻いた。「助けたんだけどな……。」とは思うも、彼女は今不安なんだろう。さて、どう返答しよう。

 そう考えて、こう答えた。

 

 

 

「僕は――「勇者」、だよ。」




 …………何を言ってるんだ、僕は!! 「イタい」とかそういうのを超えてるぞ!!

 いやでも、僕勇者だし……いやいや、そういう問題じゃ――

 

「ゆうしゃ?」

「へ?」

「おにいさん、ゆうしゃさま……なの?」

 少女が泣きそうになりながらも、そう言う。

 

「あ、その……。」

「……ちが、うの……?」

 おいおい、ツトム! この子を不安にさせてどうする! この子を助けに来たんだろう!! そう自分を叱責する。


(それに……。)

 この子は――信じようとしてくれている。

 知らない人に囲まれながらも、頑張って勇気を出そうとしている。……僕も見習わないとな。




「……いや、僕は「勇者」だよ。正真正銘、本物の。君やこの町を助けに来た……ね。」

「……ほんとに?」

「うん。」

 そう言って少女を安心させる。そうすると、少女は僕に抱き着いた。

 

「……うう……ひぐっ……。」

「……怖かったんだね。よしよし……もう、大丈夫だから……。」

 緊張の糸が切れたのか少女は泣いていた。頭をさすってあげる。

 

「……く、クソがァッ……!!」

「っ!」

 どうやら突き飛ばした盗賊が立て直したらしい。僕は少女を後ろに寄せ、槍を構える。

 

「勇者だか何かは知らねえが……俺らの邪魔をしやがって……。」

「……あなた、この子に何しようとしたんですか……?」

 僕は盗賊にそう言う。相手を逆なでしないよう丁寧に。……無論、盗賊のやる事なんてわかるものだけど。

 

「何しようと、だぁ? 決まってるだろうが! そのガキをどこぞの奴隷商に売りさばこうとしてたんだよ!!」

「奴隷商……!」

「そもそもこの町を襲ってきた奴に、そんなマヌケな質問をするか? このガキンチョが!」

 なるほどね……盗賊をやってるわけだよ、この人。

 

「……魔物と組んでこの町を襲ったそうですね?」

「ああ? 何でそんな事てめぇが……いや、まさかてめぇあいつらの言ってた……。」

「あいつら……?」

 あいつら、って……魔物の事か?

 

「なるほどな……あの化け物共もここを潰そうとするはずだぜ。」

「化け物共……魔物がこの町を……?」

 どういう事だ?

「この町はてめぇのような「天界の勇者」の拠点の一つと言われていてな。天界の連中が強力な結界が貼ってあるんだ。おめぇも知ってるだろ?」

 それはリーベに聞いた。確かにそうだ。


「下手な魔物はもちろん、町の自警団もあって盗賊も手を出せなかった。

 だが、魔界のお偉方がここに目をつけたらしくてな? 天界を潰す一歩としてここを襲撃したってわけだ。」

「魔界のお偉方……。」

 リーベの言っていた「怖ろしい気配の魔物」の事だろうか。何にせよ、そんな奴が……。


「俺たちはそのお偉方に言われて、ここを襲撃したのさ。最初は癪に思ったが……お偉方が実力者でな。頭を殺された上にこっちの命も危なかったからな。

 しぶしぶ協力したが……さすが魔界の実力者だなぁ? この町の結界を破って魔物を侵入させやがった。

 それで魔物を入れさせて、後は俺らの物だ。略奪なり何なりすりゃあいい。いや~楽なもんだぜ。あいつらに協力するのは癪だが……へ、良い仕事だと思ったのに……。」

「良い仕事だって? ……人を殺して、物を奪う事が?」

「ああ、そうさ。俺らはそうやって生きてきたのさ。欲しいものを奪い、殺しもする。そういうのが好きなのさ! そうやって生きてきたのに……相棒を殺されちまって……。

 意外といいコンビだったんだぜ? なのに、てめぇのせいで……」

  

「……自業自得じゃないか。」

「あん?」

「自業自得って言ったんだ。奪う事や殺す事が好き? ふざけるな! まともに生きてる人もいる。そのような人に泥をかけるような事が好き? 自業自得、因果応報もいいとこだろう!!」

「ああ? 何だ説教か? くだらねぇ!」

「下らない? 下らないのはアンタの人生そのものだ!!」

「てめぇ……! もういい! 相棒の仇だ! ぶっ殺してやらァッ!!!」

「……! 下がって!!」

 盗賊が、斧を振りかぶって襲ってきた! 僕は女の子を下がらせて槍を構える。

 

 

 

「ツトム様!! 動かないで下さい!!」




 突然名前を呼ばれた上に、その言葉に少し驚くがそれに従う。

 すると盗賊に光のような物が刺さっていく。

 

「がっ……!」

 盗賊が刺さっているものを見る。これは……矢?

 

 ドサッ、と音と共に盗賊が崩れ落ちる。……死んだのか?

「ツトム様!!」

 名前を呼ばれて声をした方を見る。そこにはリーベが上から弓らしきものを持って僕の方へやってきた。

 

「ツトム様……ご無事で良かった……。」

「リーベ……。」

 どうやら僕を援護してくれたようだった。

 

「ツトム様が飛び降りるのを見て、すぐさま追いかけようとしたのですが……。宿屋の方で別の悲鳴が聞こえて、行ったら人が魔物に襲われてたんです。

 すぐに助けて事なきを得たんですが……すみません、遅くなってしまって……。」

「いや、いいよ……僕の方は……。その助けた人は?」

「もう恐らく安全な場所へ行っていると……。……その子は?」

「ああ……この子がさっきの……。」

 僕がそう言うと、リーベは女の子に近づき、優しく抱きしめた。

 

「怖かったですね……。もう大丈夫ですよ。」

「……おねえさんは?」

「私はリーベ。ブレイブシェル――天界から来た天使です。そしてあなたを助けたのが、勇者ツトムです。」

「ああ……うん。遅れたね。僕はツトム。勇者だ。」

 リーベのついでに遅れていた自己紹介をする。


「てんし……ゆうしゃ……?」

「ええ。あなた達の味方です。」

「わたしたちを……たすけてくれるの?」

「ええ。」

「このまちを……まもってくれるの……?」

「――ええ!」

 リーベがそう言った瞬間、女の子はリーベに抱き着き泣いていた。

 

「……こわかった……こわかったよ……!!」

「もう大丈夫です……もう、大丈夫ですから。」

 そう言って泣いている少女に、リーベは優しく背中をさすっていた。

 その姿はまるで聖女のように綺麗だった。いつまでも見ていたいぐらいに――

 

(…………って、そんな事してる場合じゃない!)

 僕は数秒、呆けていたがすぐさま周りを見渡した。

 安全を確認した後、僕はリーベに話しかける。

 

「リーベ、もう良いかい?」

「! ……そうですね、早くここを離れましょう。」

 そうしてリーベが立ち上がる。

 

「まず自警団と合流しましょう。できればその時、この子を安全な場所まで避難させます。その間道中で、助けを求める人がいれば助けましょう。」

「でも……二人だけでいけるかい? 女の子一人ならまだしも……。」

「心配しないでください。これでも私、強いんですよ?」

 リーベは微笑みながらそう言う。

 やっぱり可愛かった天使だった…………じゃない!!

 

「でも……リーベ言っていただろう? 逃げようって……殺されるって……。」

「……たしかに危険な気を感じました。逃げようとも言いました。……でも、私は天使であって勇者の――あなたのパートナーなんです!

 ……怖い事は怖いですよ? 死ぬ事も死なれる事も。……でも、それで逃げるたら、天使の名折れです!!」

「リーベ……。」

「私、覚悟は決めました……。行きましょう、ツトム様! ……この街を守るために!!」

「……ああ!!」

 そう返事して行動しようとする……が。

 

「おい、何だお前ら!!」

「ここの住民か……? いや、片方は「天使」か? へへ……上玉じゃねぇか……。」

「そういう事は……もう片方は「勇者」か? ちっ……女なら良かったが、男かよ。」

「よく見りゃガキもいるぜ! けけっ、最高じゃねーか。」

「でも倒れてるのは俺たちの仲間じゃねーか……?」

「んなもん知るかよ! とにかく男は殺して女とガキは俺たちの好きにすりゃ良いんだよ! グヘヘヘヘヘ……!」

 どうやら、長くここに居すぎたようだ。盗賊達が数人迫ってくる。

 

「ひっ……!!」

「ちっ……! 長話が過ぎた……リーベ……!」

「ええ、ここから安全な場所へ。……それとツトム様。」

 リーベが真剣な表情でこっちを見る。

 

「彼らに容赦など必要ありません。手加減はしないで下さい。」

「……? どういう……?」

「殺したりしても罪悪感などは持たないよう……という事です。」

「えっ……?」

「ここはもう「殺るか殺られるか」の場所です。……そんな所でまだ場数の踏んでないツトム様がそのような心意気ではやられるかと。」

 かなり辛辣な事を言われた。……でもたしかに……。

 

「……すみません。出過ぎた事を……。」

「いや、良いよ。……正論だと思う。それにあいつら悪い奴らだしね。……手加減なんかしないよ。」

「……ツトム様。…………もし、罪悪感が芽生えたなら。」

「ん?」

「……私がいます。私も……背負いますから。」

「! リーベ……!!」

 やっぱり僕のパートナーは天使だった。いや、天使だけど。結婚したい。

 

 

 

「おいおい、さっきから黙って見てりゃあ……イチャついてんのか?」

「随分余裕だな? 俺たちの方が優勢だってのによ?」

 ……ヤバいヤバい! コイツらが居たんだ……!

 長話といい油断し過ぎてどうする!!

 

「リーベ……もういいかい?」

「ツトム様は、もう?」

「ああ、覚悟は出来た……。それで、どうする?」

「とりあえず――」

 僕はリーベの出された提案を聞く。

「――なるほど。……よし――」

 槍を構えて戦闘態勢に入る。




「――行こう!!」

 そう言って僕は走り出した。

 

 

 

「おいおい、何だ?」

「死にに来たのか? ガキ!」

 盗賊が僕に武器を構えて応戦しようとする。そして――

 

「でやああああああああああぁぁぁぁっ!!!!」

 その雄叫びと共に僕は槍を思いっきり横に払った。

 その瞬間――

 

 

 

 ――巨大な炎の衝撃波が横薙ぎに発生した。

 

 

 

「な、ぎゃっ!!」

「ひっ、ひぎゃっつぁ!!!」

「あ、ぎぎぎぎぎっっ!!!!!」

 前に居た盗賊は斬撃で切られ、後ろの盗賊にも炎の衝撃波が回る。

 

「リーベ!!」

「はい!!」

 僕の掛け声に合わせ、彼女が飛ぶ。そして――

 

 

 

「はああああああぁっっ!!」

 弓を構え、矢を発生させ盗賊の集団に打ち込んだ。

 

 


「がっ!!」 

「は、はげっ!!」

「おごぇ!!」

 ものの見事に矢が降り注ぎ、盗賊の体に刺さっていく。

 

 

 

 一連の行動があった後、残ったのは無様な盗賊たちの死体だった。

 ――盗賊達は全滅した。ほんの数十秒の出来事だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「――大丈夫? 走れる?」

「うん。だいじょうぶ。」

「そっか。辛かったら言ってね――」

 そんな少しの安らぎのような話を聞きながら、僕は目の前の惨状を呆然と見ていた。

 

 

 

 ――一瞬だった。まさに敵に反撃の機会を与えない連携だった。

 それは僕よりもリーベの見事な連携のおかげだろう。でも――

 

(あれが勇者の……僕の……。)


 僕は僕自身の勇者の能力ブレイブアビリティに恐怖していた。

 何せあの時の炎は敵よりも僕の方が驚愕してたんじゃないか、というぐらいに。

 異世界転生(笑)だの何だの言ってたけど、これほどの力だなんて……。

 

 

 

(…………僕は、「正しく」使えるのだろうか?)




 こんな強大な力を使いこなせるだろうか。

 「守る」よりも「傷つける」力なんじゃないだろうか。

 この力は――

 

「――ツトム様?」

「っ! どうしたんだい? リーベ。」

「いえ……あの、思い詰めたような顔をしていましたから。……やはり、切り替えて行くというのは、そう簡単に」

「ああ、違うんだ。こいつらの事じゃない。こいつらは自業自得だし、僕も何とか……ちょっとまだ切り替えらないけど、その事じゃないんだ。」

「え?」


「――ちょっと、自分の力が、さ……怖いな、って……。」

「……ツトム様。」

 リーベの表情が曇る。

「さっきの力を見て、「僕はこの力を正しく使えるのか?」って。」

「…………。」

「……大きなお世話だよね。まだ勇者の旅も始まってもないのに……。こんな大それた事言って――」




「……大丈夫ですよ。」

「へ?」

「大丈夫ですよ、ツトム様なら。」

「な、何で」

「「そう」思ってるからですよ。力に対して真摯に向き合っていれば、過ちは犯しませんよ。」

「……っ、で、でもこれが本音とは」

「嘘はついてないですよ。ツトム様は。」

「え?」

「一日だけですけど……わかりましたから。ツトム様は、そのような事で嘘をつく人ではないと。」

「……リーベ。」


 ……何故だろう。嬉しい。……単なるお世辞か何か、としても。(彼女に限ってそんな事は無いと思うが。)

 好きな女の子からそう言われるのはやっぱり……とても嬉しい。


(……この子じゃ役不足すぎるよ。僕にとっては。)

 そう思うほどに。僕にとっては、初恋だし。一目惚れだし。

 でも、僕には勿体ない。「結婚したい」なんてふざけた戯言が恥ずかしくなるくらい――


「……わたしも。」

「えっ?」

「わたしもそうおもう。おにいちゃん、うそをつくひとじゃないよ。」

「……っ。ははっ。」

 何だろう……色々と込み上げて来そうになった。こんな子供も僕に手を差し伸べてくれる。

 こんな事、生きてる間あっただろうか?

 

 

 

 ――生きてる……間……?……――

 

 

 

 ―――ドッゴォォォォォン!!!―――

 

 

 

「っ!!」

 近くに爆音が響く。それに続けて悲鳴が飛び交う。

 

「ここもそろそろ……。」

「はい!」

 さっきの二の舞は避けたい。早く行動しなければ……!!

 

「君、走れるかい?」

「きみ、じゃない。」

「ん?」

「リサ……わたしの、なまえ。」

「リサちゃん、か……。うん、わかった。」

「おにいちゃんたちは……ツトムおにいちゃんと、リーベおねえちゃん、でいいんだよね?」

「……はい!」

「ああ!」

 僕たちはその返事の後、すぐさま行動した。

 

 

 

「さあ、急ごう!!」

 リサちゃんを安全な場所へ連れて行くために――

 そしてこの街を守るために――

 

 

 

 

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