4 背後にご用心

 私の姉は誰が見ても美少女…年齢的には美人さんで。

 透き通るような白い肌、自然に色づく薔薇色の頬、大きな目は少し垂れ気味で、控えめな唇はいつも潤っている。

 姉妹でどうしてこうも違うのかと私はいつも鏡の中の自分とにらめっこする。


「メイちゃんは可愛いよ」


 姉はいつもそう言うが、そうふわりと微笑まれても差が出るだけだって。私の苦悩は理解されない。


 そんな姉には常に彼氏がいる。そりゃそうだ。こんな可愛いヒト、男が放っておかない。今日だって男が泊まりに来てる。


 でも、そんな夜に聞こえてくるのは男の小さなうめき声。


 そっと姉の部屋に行くと惨憺さんたんたる光景が広がっている。


 ベッドに寝そべる美しい姉の艶やかな黒髪の間、頭皮を裂くようにそこには姉に似つかわしくない大きな口が開いている。そして今まさに男の頭部を丸飲みして、食い千切って、咀嚼している。いつ見ても気持ちが悪い。まだ残る男の体はピクピク小刻みに動いている。


 母が昔言っていた。美しいモノは何かを呼び寄せる。姉が生まれつきそうなのか、突然そうなったのかは知らない。ただ、私が気付いた時には美しい姉にはもう一つの口があって、夜になると静かにその口を開けるのだ。そして背後あるものを噛みつき、時に食べてしまうという。それは同じ人間でも。


 姉はそんな自分を知らず深い深い眠りについている。殺人ではない?私は誰にも説明できないから知らぬ存ぜぬを極め込まなければならない。


 美しい姉の周りは行方不明者だらけ。


「あれ?居なくなっちゃった」


 正面の小さな口で、小さな欠伸をして姉は一人ベッドの上で目を覚ます。

 を食べ尽くした後頭部の大きな口が少し息を吐いて消えてゆく。


「あ、おはようメイちゃん」


 部屋の入り口に立つ私に姉が微笑みながら挨拶をする。


「メイちゃんはぜーったい、私の後ろに立っちゃダメだよ?」


 そう言えばいつから父や母はいないんだっけ?

 それよりも、


 立ち尽くす私に、小さな唇を最大限に引き上げて姉は笑う。何て美しく、可愛らしい。夜の惨劇も沸き起こる疑問も不安も消えていく。


 そしていつもと同じ朝が来て、またいつもと同じ夜が来る。

 いつの間にか繰り返されるこの日々は、きっと、私がうっかり姉の後ろに立つまで変わらない。


 私の苦悩は、本当に、誰にも理解されない。


 


 





 

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