リュートの日常 ~人狼擬屍伝~ あの不敵な笑顔に悪戯を?

 ルプスレギナはこっくりこっくりと船を漕ぐが、直に我に返った。


「はっ! ね、寝てないっす! 居眠りナンテ、してないっす!」


 ルプスレギナは寝惚け眼で辺りを見回すと、急に我に返ったかのように胸を撫で下ろし、安堵した表情で呟いた。


「・・・ゆ、夢っすか」

「どうしたの、ルプー。何だか眠そうだけど」


 何時もとは余りにかけ離れた緊迫した様子のルプスレギナに、久しぶりにナザリックに戻って来たナーベラルは疑問を持った。


「イヤ~。ナーちゃん、私、最近狙われてるっす」

「え? このナザリックの中でそんな事が?」

「そうっす。寝たら、どんな事をされるか判んないっす」


 油断なく、辺りを見回すルプスレギナ。更には、状態異常回復メディックの魔法を行使してまで眠気を飛ばす。

 ナーベラルが知る大胆不敵を地で行く、普段のルプスレギナの様子とはかけ離れ、珍しいほどに警戒している。その様子が気になって、咄嗟に〈兎耳/ラビットイヤー〉を使ってみると、何処からか微かに 「・・・ちぃっ!」と舌打ちする様なねちっこい声が聞こえた気がした。


「このナザリックで、いったい何があったというの?」

「や、居眠りしてたら、改造されてたッス」

「・・・はぁ? 誰に?」


 余りの事に呆気に取られてしまったナーベラル。


「あ~、えっと、ニューロニストの牡姉オネエさんに・・・」

「それこそ、一体どうしたのよ?」

「あ゛~。そん時、ビックリして上げた悲鳴が気に入られたっぽいっす」

「ああ、あの」


 思い当たる節があるのか、納得した様に頷くナーベラル。


「そうっす。悲鳴や断末魔の叫びを集めたアレに、あの時の発声を取り入れたいって話しだったっす。でも、もう二度とゴメンっす」

「そう、だったら真面目に仕事をこなす事ね」

「うぅ~。でも、サボってお昼寝してたいっすよ~」

「まったく」


 懊悩おうのうするルプスレギナに、呆れながらナーベラルは何があったのかを尋ねる。



   ・・・   ・・・   ・・・



 事の始まりは、リュートとのお遊びに飽きたからと、勝手にお昼寝タイムに突入したのが不味かった。まだまだ遊び足りず、元気一杯な子供を一人で放置する事が如何に危険な事なのかを、耳年増なルプスレギナは知っていた。でも、そうなる時まで・・・全然判っていなかった。要は、聞き知っていただけで、実際には思いもよらぬ笑劇が待ち構えているという事を・・・。


 何時もは、何人も立ち替わり入れ替わりに構われ、力一杯に満足するまで遊び倒されているが、今日はお昼寝から覚めたばっかりで、元気満タン+勝手気侭るぷー添加! といった具合だ。


 の武器でチャンバラ遊びをしていた所を、丁度良いとばかりに「はうぅ~、死んでしまったッス。バッタリ」と倒れて死んだフリを始めたルプスレギナ。

 ユッサユッサゆすられても「返事はないッス、今の私はただの屍っす! <【゜ー^】ノぐぅ~


 押しても引いても動かなくなってしまった為、見よう見まねで【復活の儀式】ごっこを始めるリュート。


「うぅ~、エネルギー切れっす。 ぐぅ~ 何かお腹に入れないと・・・」


 美味しいお菓子を口元に持って行くと・・・


「バクリ、もぐもぐ。うぅ~、飲み物が足りないっす。 ぐぅ~


 飲み物、甘酸っぱい乳産襟の元ソリュシャンを連れて来て与えてみると、「んくんくんく。ミルキーで美味いッス!  ぐぅ~


「あらあら、これでは起きないみたいね」と蕩ける様な声でクスクスと笑っているのが聞こえた気がした。

「む~!」


 まだまだ遊び足りないリュート。

 今度は、【お葬式】ごっことして、お花を集め始めた。


 暫くすると、花やかな香りが辺りを満たす。

 まるでお花畑に居る様な夢心地。

 辺り一面、触手の花が・・・花畑になっていたのだが、寝ていたので気付かれなかった。

 NATANEも、お花畑に眠れる淑女 を起こすまいと、心地好く眠れる薫りを辺りに振りまいていた。

 ユリもその時に訪れたのだが、周りがアレで近付く事を躊躇ちゅうちょしたほどに。

 ルプスレギナの眠りは一層深くなり、ちょっとやそっとじゃ起きない程度にまで深く眠りこけた。


 それからどれだけの時間が経ったのか、時折誰かが立ち寄ったが、一向に起きて来ないルプスレギナが心配になったリュートは、ユリに相談した所、ニューロニストの元へ連絡が回った。


 今度は、【医者さん】ごっこが始まった。


 ニューロニストはドクターズ・バッグを広げると、怪しげな色とりどりの小瓶を取り出し、それぞれを微量ずつ個々の小皿に開け、注射器から滴る液体で溶き指でなぞり、その具合を確かめると、その細く長く節くれた指で以ってさする。


 徐々に顔色が変わり、見慣れた筈の輪郭が薄れ、別の貌へと変わりゆく。

 その後もニューロニストは淡々と解説レクチャーしながら、技法を指導する。全てが完了したころ。


「脈拍はぁ・・・正常ねぇえ。呼吸もぉしっかりしてるわねぇん。じゃあぁん、助手アシスタントちゃんも脈をとってみなさぁいねぇ」


 言われるがまま、ルプスレギナの手を取り、手首のどの辺りに血管があるのかを教えてもらいながら脈を取り、呼吸を確かめる為に羽毛を鼻の穴に・・・。


「ふ、ふえっくしょん!」


 口か鼻の辺りに近付けて、微妙に揺れ動く様子で呼吸の有無を確かめさせる筈が、鼻の穴に近づけ過ぎたからか、吸いこまれた。


「あらあらぁん、ダメよぉ~ん、近づけ過ぎちゃぁ。もぉ少ぅしだけぇ離しておかなきゃぁ」

「え~」

「な、何事っす?」


 半睡状態の寝惚け眼で、先ず眼前に飛び込んで来たのは・・・


「ぁらあん、眼が醒めちゃったみたいねぇん」


 ニューロニストのドアップに、 ぴゅぴゅっと飛沫しぶきをあげるぶっとい注射器添え。これから何が行われるのか、心配せずにはいらねない。


「・・・Σ(゜ロ゜)ぎぃゃぁ~!」

「あらぁん、良いヒメイねぇん♥」


 跳ね起きようとするも、手足が儘ならない!


「あらあらぁん、そんなに慌てて起きなくてもぉ、良いわょん」

「おきた~!」

「じゃぁあ、改造手術ディスガイズのお勉強はぁこれまでねぇ~ん」

「え~?」

「え゛~!?」

「良い被検体マルタがぁ在ったらまぁた、お・し・え・て、あ・げ・るわねぇ」


 ニューロニストは体に似合わぬテキパキとした所作で、ドクターズバッグに刷毛や筆ペンやおどろおどろしい色をした小瓶を詰め込んで行く。ニューロニストのお化粧メーキャップ教室という名の変装ディスガイズ講義。


「じゃあぁん、また次回ねぇん♪」

「・・・え゛? ま、待ってほしいッス! 何があったッス!?」

「フッ、フフフ。そ・れ・はぁ~、お・た・の・し・み? ほほほ、ホホッフホォ~♪」


 不気味に笑う度に、ゆっさゆっさと揺れる太鼓腹は、今にも革の拘束ボンデージがはち切れそうだが、千切れる事もなく小粋におどる。

 その笑い声が遠ざかり、扉の向こうへ小躍りするように消えて行く。



   ///   ///   ///



 ニューロニストが完全に視界から消え去るまで硬直していたルプスレギナだったが、次第に事態が呑み込めて来たのか、現状を確認すべく動き出した。


「・・・手はあるッス、足もあるッス。お腹は・・・ダイジョウブッス。あとは他におかしな所は・・・ん~、何だか胸が重たくなった気がするッス」


 とかふざけて言ったら、何処からともなくモノ凄い剣呑な気配が・・・。


「頭は・・・ん?」


 ペタペタと顔を触っていると、ある筈の無い感触がそこに、急ぎ鏡を覗き込むと・・・そこには見覚えはあるが、別人の様な美白にされた顔に、額に立派な角が一本、生えていた。


Σ<-(゜Д゜;Ю>なんじゃΔこれッス!」


 と叫ぶと、ルプスレギナの額に在った角がトコトコと歩き出した。途中、エントマが立ち寄って角蝉ツノゼミを載せて行ったらしい。

   某狂戦士風、人造人間


 物陰からルプスレギナを窺うシズ△は、ルプスレギナの三つ編みを両サイドでボルト状にシニョンに編み直したとか。


「・・・・・・・・・・・・ルプスレギナ、かわいい」(*='w§)クスッ♪|扉


 ドチャッ! ドチャッ! ドチャッ! 地響きと共に、濡れそぼったナニカが床に叩き付けられる様な音が近付く。


「今のぉっ! 今ぁのヒメイはぁっ!? 誰ぇが上げぇた~の~か~し~ら~ん~♪」


 急ぎに急いだせいか、息切れし間延びした声を上げるニューロニスト。

 元々が融けかかった様な容姿が、更に赤味を帯びた為に紫がかり、急な激しい運動をした所為か、触腕の先が赤く染まりとぐろを巻いている姿が、ルプスレギナの鏡越しの視界に飛び込んだ!


Σ<-(°Д°;Ю>ギャ~Δ~ッス!」

「ん、んぅ~! とれぃびぁ~ん♡」


 握った両手を口元へ運び、ブリッ娘なポーズで小踊りしながら身悶えするニューロニスト。

 ルプスレギナは余りの衝撃に死んだ振りをして、事態をやり過ごそうとしたとか。



   ・・・   ・・・   ・・・



 誰も止める者なき子供が独りで遊んでいる場合、大概はトンデモナイ事態を引き起こす。

 化粧をしてみたり、お料理をしようとしたり、大変な事になって証拠隠滅を図ってみたり?


 大概、大人が翻弄される事になっていたりしませんか?

 大人が一緒の場合は、大人が巻き込まれていたり。

 小さな子の場合、お父さんを可愛くするといった具合にリボンで結ばれたり化粧をされていたり?


 なので、よくよく注意と監督する事を忘れずに。

 家の子は大丈夫。なんて事は誰にも言えない。何があってもオカシクはない。



   ・・・   ・・・   ・・・



被害者2?


「小父様、小父様!」

「うん? どうかしたかね」

「かいぞ~、させて!」

「はっはっは! どんな改造を施す気かな?」


 ちょっとした興味本位で為すがまま、されるがままに受け入れた。そして暫く後・・・


「デミウルゴ・・・ス様?」


 書類を手にデミウルゴスの執務室を訪れた悪魔は・・・完全黙秘し爆ぜた。【死者に口無し】




 次に訪れたのは、アインズ付き当番のメイド。


「デミウルゴス様・・・は何処いずこに?」


 きょときょとと辺りを見回し、そっと扉を閉めて退出した後・・・廊下をはしたなくも全力疾走でドタバタと駆け抜け、ペストーニャに叱られたという。


「デ、デミウルゴス様が・・・真っ暗なお部屋の中で何とも言えないお顔を!」



 一見したところは、常日頃のデミウルゴス。だが、普段はか細く薄いあるかなしかの眉が極太ゲジゲジ眉毛に。瞳が見えない眼鏡の下、鼻筋のシュッとしたローマ鼻がふっくらと丸い団子鼻の下には、カールしたカイゼル髭が生え、別の者と見間違えそうな?


 デミウルゴスは・・・ちょっぴり気にいっている様子。

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