第5話

翌日はお休みだったので、溜まった洗濯物や、掃除などをして、少しだけオシャレして買い物へ出かけた。


家にいても仕方がないし……。




電車にのり隣街ねショッピングモールへ行き、二階にある洋服屋さんを覗いて歩く。


お気に入りの洋服があれば買う。


一人プラプラ歩き、ショッピングモールを出て駅近くのちょっとお高めのレストランへ入った。

たまの贅沢だ。


お洒落ながらもどっしりした門構えのレストラン。パスタが人気らしい。


中へ入ると奥のテーブル席へ案内された。


「いらっしゃいませ。 ご注文は?」


「えーと、 アサリのパスタとアイスコーヒーを」


「かしこまりました」


ふーっと一息つきお冷を口にした時……。


「夕べ何故あの人を送って行ったんですか⁉︎ 私友人から聞いたのよ?」


「社長が社員を送る事に何か問題でも? あんなに酔っていて、もしもの事があれば会社の信用に関わります」


「だからって……。 貴方でなくても良かったのではないの? ……あんな女大丈夫よ……」


「由加里。 それは言い過ぎだよ? 万が一何かあったらどうする?」


「もういいわ。 それより早く衣装の打ち合わせしましょう」



斜め左の壁際の席から聞き覚えある声が聴こえてきた。


社長と由加里さんだ。何て偶然なんだろう。


私は奥の席だから、彼らから見える事はないが、由加里さんの甘ったるい声が聴こえてきて、少し心がへこみ、運ばれたパスタはしょっぱいし、アイスコーヒーも何だか苦く感じた。


「衣装合わせかぁ。 やだなぁ」


ポツリ呟く言葉にはっとした。


やだやだ。何をいってるの?私……。



心の中で自制した。


社長と私の間には、踏み込めない線がある。



食事を済ませ、何とか二人に見つからない様に店を出た。


せっかくの休日が台無しだ……。


何て考え涙が零れた。


やっぱり社長がすきだ。だけど、婚約してるししてなくても私等相手にしないか。


そんな風に思って益々落ち込むが現実は現実として受け入れなければならない。

一社員として、明日からまた頑張ろう。




私は駅へ向かうと早々に家路についた。




次の日。由加里さんが衣装合わせの為やって来た。


「今回も飯野さんにお願いするわ」


「かしこまりました……」


私は衣装室から数点のドレスを選び、由加里さんの前に掛けた。



「ふーん。 まあまあかしら? うちの会社の方がもっと素敵なお衣装があるけど、この会社なら高望み、できないわね……」


「ではご自分の会社の衣装を着られたら……」


といってハッとした。しまった!つい本音が口をついた。


「何ですって? 貴女今何て言ったのかしら? 私を馬鹿にしてるの?」


「申し訳ありません!」


すかさず持田さんが援護してくれた。

私も謝る。


でもだって。この会社の事を、社長の事を馬鹿にされた気がして……。でも完全言い訳だし、言ってはならない言葉だ。


「建さんに言わせて頂きます! 貴女クビよ!」



物凄い剣幕でその場を立ち去った。


「飯野ちゃん……。 よく言った。 けど二人の時にしよ? 取り敢えずもう一度謝ろ?」


「すいませんでした……」



その後事務所に行き、社長と由加里さんに謝罪した。


「建さん。 こんな女直ぐ辞めさせてよ」


「謝っているんだから問題ない。 君が我儘過ぎたんだろ? 今日だって衣装合わせの日じゃないのにわざわざ来て。 皆んな忙しいんだ」


「何よ貴方まで! パパに言うから。 宜しくて飯野さん? 調子に乗らない方がいいわよ。 身の程知らずなんだし」


そう言うと事務所を後にした。



「社長……」


「大丈夫だ。 あのお嬢さんにはいい薬だよ。 いくらお嬢さんだからってやりたい放題の言いたい放題は疲れるからな」



ポンポンと私の頭を叩いた。



「それにしても凄いお嬢さんだよね。 社長もいくら親同士が決めたからって、あのお嬢さんと結婚なんてごめんだよ。 オレ飯野さんがいいなぁ」


「小宮! 仕事中だ。 飯野、 披露宴に入れ」


「はーい」


「分かりました」


何とか大丈夫だったかな?

いや、まだ分からない……。何をされるか。


暫く気を付けよう……。





事務所を出て披露宴会場へ向かう途中、由加里さんが私を待っていた。


「建さん優しいから誰にでもああなのよ。 仕方ないわ。 でもね、 貴女だけは許せない。 最初から気に入らないのよ。 図々しくて……。 貴女が建さんの事好きなの知ってるわ。 何となく分かるし。 でも残念ね……、もう直ぐ私達式を挙げるわ。 パパに言って早めてもらったの。 来月にね……。 せいぜいそれまで夢を見てれば? じやあね」



声高らかに笑うと今度こそ帰って行った。


私は何も言えず、ただ立ちすくむ。


ああ、とうとう社長結婚するのかぁ。あ、早く披露宴会場行かなきゃ……。


フラフラとした足取りで披露宴会場へ向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボーダーライン〜踏み込めない境界線〜 栗田モナカ @Seriemi0113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ