第44話

 最初に……わたしは締切が怖い。


 どう怖いかというと胸が締め付けられてそわそわする、宿題をしてくるのを忘れてしまったような焦燥感に襲われるから。


 だから、締切に襲われないように(文字通り)締切より一週間は早い、自分設定の締め切りを作る。


 一ヶ月で12万字書かないといけなければ、3週間で書くように設定する。

 一日のノルマ文字数は7000文字以上だ。


 ついこの間、あまりにも締め切りが怖くて、早めに出してくださいと言われてしまったがゆえに、2日で45000文字書いた。頭がしなびた。


 そんなわけでプロットも1週間で3本と言われたら、大体2日で提出する。これも何より締切が怖いからだ。


 そんなわけで校正ゲラを出すのも早い。今回本1冊分の校正ゲラを2日で3回チェックして提出した。


 早いですね。と担当さんに言われるけれど、なにはともあれ怖いからだから、締切がないとなると一層怖い……。


 なので、特に締切がなくても自分の中で3週間の締め日を作ってしまう。これはもう因果としか言いようがない。


 早いので何故か仕事が来る。ありがたいことだ。けれど早いから休む暇もなく締め切りが来る。辛い。


 辛いきついと言いながら、毎日締め切りを更新している。


 12万字を2週間で書いて、自分で死ぬんじゃないかと思った。いつも自分的には仮想の火事がお尻で燃えている。


 ごちそうが目の前にあるから急ぐのとは違う。燃えてる尻から逃げてるだけだ。


 しかし、結果としてそれが作家としての信用度を上げている模様だ。担当者としては時間的な余裕ができるので楽だろうと思う。他の作品に追われているのに急いでほしい作品がぎりぎりになってもこなかったら担当者も仕舞いには切れてしまうだろうと思う。

 遅れて許されるのはなにを書いても売れる作家だけだ。

 ごめんなさいで済むならこれからは本出さないからと言われてしまう世界だから、尻に火がつく。


 発射台に乗ったみたいなもので、噴射口から盛大に火が噴き出す。

 でも気持ちいいわけではない。


 安心できるのは終わった瞬間で、その後なにもなかったら不安でいっぱいになるので、やはりなにか書くための理由がいる。


 締切が怖い作家は何人もいると思う。

 なかなか尻に火がつかず、ぎりぎりになってしまう作家もいるかもしれない。


 でも、そんな作家はいつか捨てられてしまう。売れてなければ、出版社はもっと確実に早く書ける作家に旗印を立てる。


 早く書くからいいわけでもない。内容もなるべく完成形に近い方がいい。指摘できる点が少なければ少ないほど担当者は楽だ。そのかわり育ててくれる担当者もいるので、作家は信頼を得たほうがいい。


 締め切りまでに書けなかったらどうしようという焦りと戦いながら、どんどん自己ベストを更新しているところだ。


 なかなか尻に火がつかないと思っている方は、自分設定を儲けたらいいのではないだろうか。担当者から提示された締切よりも1週間ほど早く。


 ※ 追記


 当時はこんな感じでしたが、2017の6月に自己更新してしまいました。

 すでに5万字書いた作品の続き、7万字を7月10日までに書いてくれないと困ると突然言われて、「そんなのきいてない」となったのですが、アマゾンですでにその作品の書影が出ていたりして、追いつめられたわたしは、3日で7万字書きました……。

 その後、9月締め切りの10万字を、同人誌書きたいって理由で、6日で書きました。

 で、別に急ぐ必要のない同人誌の10万字をやっぱり5日くらいで書いてしまって、結局、14日くらいで27万字書くという……

 やればできるじゃーん、って思われたら、もうおしまいかもしれないと思いましたが、よく考えると、専業作家さんは当たり前に書いてる文字数日数なので、あまり威張れないと最近思いました。

 専業作家さんは一日2万字書くそうです……大体ですけど。

 京極夏彦先生は、一日4万字だそうです。化物ですね。

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