かばんへの好感度がカンストした世界

あろめ

第1話

 サーバルが目覚めると、かばんがいない代わりに1枚のメモ用紙があった。

 そこにはこう書かれている。

「かばんはあずかりました

 これから、かばん争奪戦を開催します

 返して欲しければへいげんちほーまでくるといいのです」

 それをサーバルはじーっと見つめるが、すぐに捨てた。

「わかんないや!かばんちゃーんどこー?」

 サーバルはかばんを探して走り始めた。


「な、なんでこんなことにぃぃ」

 かばんは気が付くとぐるぐると簀巻きにされて座っていた。

 目の前には、各ちほーのフレンズたちが揃い踏みしている。

 雰囲気は剣吞で、みんな激しく言い争っていた。

「かばんは私の仲間だ!」

 ヘラジカが言うと、すかさずライオンが

「うちの子だよー」

 と返す。口調はのんびりしているが、目がまるで笑っていない。

 そこかしこで、かばんが誰のものかといういさかいが起きていた。

「は、博士さん。これはいったい?」

 かばんは救いを求めて左隣に立つ博士を見上げた。

 博士はかばんをチラと見てから、口論するフレンズたちに視線を戻して言った。

「サンドスターの影響なのです。」

「え?」

「昨晩、今までにない規模のサンドスターが山から噴き出しました。その結果、なぜかはわかりませんがみんなかばんが好きでたまらなくなったのです。」

「え、えー!?」

 かばんは顔を真っ赤にして驚く。そして、あらためてフレンズたちを見た。

 みんな顔が紅潮し、瞳を潤ませていた。言葉遣いこそ激しいながらもどこかうっとりとしている。

 時折かばんの方を見ては不気味な笑みを浮かべてきた。

「え、えー……」

 好かれるのは嬉しかったのだが、その顔を見ていると一体なにをされるのかと背筋が凍る。

 ふと、争いに加わらずじっとこっちを見つめるハシビロコウに気づいた。

 目が合うとハシビロコウはボッと顔を赤らめ、あわてて視線を逸らす。

 好きすぎて直視できなくなったらしい。


「かばん、落ち着くのです」

 右隣に立つワシミミズクが声をかける。

「安心するのです。みんなサンドスターの影響で少しおかしくなっているだけなのです。」

 落ちついた優しい声だった。

「そうです。ある程度体を動かして発散させれば元に戻るはずなのです」

 博士も続けて言う。

「そ、そうなんですか」

「だから、かばん争奪戦ということにしてみんなを集めました。これからかばんが誰のものなのかを決める戦いが始まりますが、いつものごっこ遊びなのですよ」

 不穏な言葉も混じっていたが、それを聞いてかばんは少し安心する。

 それにしても博士たちがいつも通りで本当に良かったと思った。

 ただ、こころなしか普段より優しすぎる気もした。

「あれ。そういえばサーバルがいないのだ」

「博士ぇ、しっかり伝えたー?かばんさんを奪い合う戦いなのにサーバルがいないのはフェアじゃないよー」

 何人かが論戦を中断し、こっちに声をかけてくる。

 博士は言った。嘘ではない。

 読み取れない相手が悪いのだから。

「ほんとうかー?博士とワシミミズクは真っ先にかばんをさらおうとしていたからな」

「おれっちたちが来たら、既に寝ているかばんさんをどこかに連れていこうとしていたっスからね」

「そうね。トキとアリツカゲラが撃墜しなければかばんはどうなっていたことやら」

 かばんは汗をだらだらと流す。何か、恐ろしいことを聞いた気がした。

「かばん。安心するのです」

 博士とワシミミズクがこっそりとかばんにささやいた。

「あいつらが勝手に潰し合ったら、あとは我々3人で飛んで逃げましょう」

「どこかに隠れて3人で住みましょう。今度は我々がかばんに料理を作ってやるのです」

「落ちないよう、ぎゅーっと抱きしめてやるですよ」

「逃げないよう、ずーっと抱きしめてやるのです」

 かばんは、ギラギラ光る博士たちの目にハートマークが浮かんでいるのを見た。

 全く正気ではなかった。

「今聞こえたぞ!」

「二人とも!やっぱり抜け駆けするつもりでしたね!お見通しでしたよ!」

 誰かが博士とワシミミズクの声を聞き咎める。

「ふん!だったらどうだというのです!」

「この島の長たる我々が、かばんといるのは当然なのです!」

 大勢のフレンズに囲まれるも、博士たちは一歩も引く気がなさそうだった。

「かばんに安全な戦い方をまた提案してもらうつもりだったがもう許せん!」

「野生解放だ!」

 目を光らせて詰め寄るフレンズたち。一方の博士たちも目を輝かせ、臨戦態勢に入った。

「しゃらくさいのです!」

「みんなまとめてかかってくるですよ!!!」

 直後にその場のフレンズが全員殺到してきた。博士とワシミミズクは濁流にのまれるように揉みくちゃにされ、あっという間に見えなくなる。

 そして大乱闘が始まった。

 目の前の戦いに、かばんはどうすることもできなかった。

(サ、サーバルちゃん助けてええええええええええええ!!!)


 フレンズたちがいたるところで倒れている。

 その間を縫うように、サーバルは歩いていた。

「あれー、なんでみんなおひるねしてるの?」

 ここに来るまで誰も見かけないと思ったら、こんなところにいた。

 なぜか誰もが幸せそうに「かばん、かばん」と寝言を呟いている。

「かばんちゃんがどうかしたの?ねぇ、かばんちゃんみなかった?」

 声をかけるが、こたえる者はいない。

 その時サーバルの耳がぴくりと動いた。

 折り重なるように倒れているフレンズの山を崩すと、中からかばんが出てきた。

「かばんちゃん!」

「サーバルちゃん……」

 かばんは弱弱しく笑ってサーバルを見上げる。

 傷一つなかったが、服はよれよれでところどころ汚れている。

 虫にでも刺されたのか、肌には赤くなっているところもあった。

「だいじょうぶかばんちゃん!?」

「ぼくは大丈夫だけど、その、サーバルちゃんは大丈夫?」

「え、どうして?わたしならずっとげんきだよ?」

 かばんはサーバルの顔を覗き込む。

 真っすぐな瞳がかばんを見つめ返していた。

「よかった……いつものサーバルちゃんだ」

「???なんのこと?それよりなにがあったのかばんちゃん」

「ううん、なんでもないよ。みんなで朝からたたかいごっこしていただけ」

「えー!なにそれなにそれ!わたしもやりたかった!」

 どこまでも普段と変わらないサーバルだった。

 サーバルちゃんには影響がなかったのかな、とかばんは思った。

「帰ろうサーバルちゃん。ぼくお腹すいちゃった」

「あ、わたしじゃぱりまんもってきたよ!はいかばんちゃん」

「ありがとうサーバルちゃん!」

 二人はじゃぱりまんを食べながら、仲良くその場を後にした。


 翌朝。

 かばんは再び拘束されて座っていた。

「ま、またですかー?」

 困り果てるかばんとは対照的に、いきりたつフレンズたち。

「今日こそかばんを連れていくぞ!」

「うちの子だからわたしが連れていくよー」

「かばんは我々と住むのです!」

 サンドスターの影響が抜けきるまで、これが毎日続いたという。

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かばんへの好感度がカンストした世界 あろめ @lemonsquash

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