4(終)

「……もしもし。どうかしたかな、結衣さん」



「いや、何でもないよ。少しね、急ぐことがあって」



「それで用件は……清楓? 迎えの車?」



「いや、気にしないで。仕事も大事だ。ああ、分かってる」



「こういう時に支え合うのが、僕らだろう。ああ」



「僕……いや、父さんにしかできない事だからな」



「……馬鹿言え。何も変わっちゃいないよ。ああ、何も……」




◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 ああ――

 少女が黄昏ソラへ翔んでゆく。

 掴みかけたあの日々を。あると分かっているあの熱を。

 若き日の何もかもを連れて、翔んでゆく。

 光と闇の境界線。昼と夜の狭間。赤く、赤く燃えるあの水平線へ向けて。

 僕の手の届かない果てへ、翔んでゆく。




◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ああ、そうだ。今すぐって訳じゃないけど、そうだな……」



「夏休みにでもさ。キャンプに行かないか? 清楓と、家族でさ」



「……いや? キャンプなんてしたことないよ」



「でも、いいじゃないか。みんなでしたことないことをするんだよ」



「それでさ、テントを張って、シートを敷いて――」



「――きっといっぱいに広がる星空を見るんだ」

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『少女は黄昏(ソラ)へ翔んでゆく』 浴川 九馬 @9ma

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