第41話 雑なキャラ設定の女神たち

 東西南北に其々存在する、それこそ無数の神々。


 たった一人の創造主が生み出した世界観にしては、随分と入り組んだ構造であるわけだが、恐らくはそれが影響しているのであろう。

 一通り挨拶を済ませてみた結果、神々の言動に危うさや頼りなさを感じずにはいられなかった。即ち、神としての自覚や特性の乏しい連中であるという事であり、それは創造主がそこまで手の込んだキャラ設定を施す事が出来なかった事が原因であろう。数が多すぎるのである。


 だが大まかに性格分けがされている事にも気づけた。


 東の神は元気溌剌、明るくはっきりとした物の言い方が特徴的だが、どうやら頭はあまり良くなさそうだ。


 西の神は冷静で清楚、丁寧な言葉の裏で何を考えているのか掴みにくいが、どうやら敵意はなさそうである。


 南の神は大らかで温和、こちらの言葉に優しく頷いて同意してくれる。頼み事を断れないタイプであろう。女神ヘステルに最も協力的な神々だ。

 

 北の神は感情的で多弁、特別敵意を剥き出しにされた訳でもなく、ただただ自分たちの主張をぶつけられたにすぎない。早い話が自己中心的な思考なのだろう。


 何より驚く事に、其々の方角の代表者に集まってもらったにも拘らず、その全員が女神であり、しかも見た目が殆ど同じなのだ。ぱっと見ただけでは区別がつかない。まるで四つ子と話しているような感覚に陥る。


「なあ、なんで同じ見た目の女神だけなんだ?」


 小声で女神ヘステルに問いかけると、クスリと小さく笑いが返って来た。

 そして、少しばかり妖艶な視線を向けて答える。


「この世界の神は全てが女神よ。しかも見た目が殆ど同じ。随分と雑な創造主だったようね。どんな女が好みのタイプだったのかは一目瞭然だけど」


 どの神もみな一様に、明るい色の長髪を揺らす美しい女神。青赤黄色、色の違いやその濃淡だけで区別せねばならないほど、それ以外の見た目が全く同じなのだ。

 切れ長の瞳に乗った長い睫毛、髪の色と同じ色の瞳、そして巨乳。


「ちなみに彼女たちは天の神々の流れをくむ女神たち。もう滅びたと思うけど、地の神々はショートヘアの貧乳だったわ」


 どちらにせよ極端で分かりやすい。性格の違いこそあれ、キャラ設定としては雑な事この上ない。

 しかしこの情報は先に欲しかった。オヤジ神向けに用意したグラビア雑誌やエロ本など、そこら辺は全く不用品だった。


 そうではあるのだが、それで合点がいった。女だらけの集団が一致団結して一枚岩となれるはずもない。

 何せ、リーダーとなろうとしているのが女神ヘステルである。

 見た目からしてインパクトが強く、更には性格の癖が強い女神ヘステルを中心に、とりわけ個性という物を持たされなかった女だらけの集団が一致団結する姿は想像しがたい。


 男性の管理職が数名いればこんな状況にはならなかったのだろう。

 人間界の組織でも同じである。

 女性の数が多くなればなるだけ、決定的な派閥が確立しないように気を配る必要性があり、管理職には男性的な思考回路が求められる。


 俺は一つのストーリーを描き、其々から話を聴いていく事にした。


「ではまず、南の神から要望をお聞かせ下さい」


 南の神の要望は以下の通り。


・南の神々は世界中の人や神を養う立場にあり、負担が大きくなっている。

・差し迫った要望はないが、出来る限り早く其々の地域に戻ってもらいたい。

・戻った後は地域の復興に取り掛かるだろうが、その支援も惜しむつもりは無い。

・復興をなし得た暁には、出来れば南の地域へ何かしらの返礼を期待している。


「有難う御座います。続いて、東の神からの要望をお願いします」


 俺はこうして、其々の神からの要望を言葉にさせていく。

 東の神の要望は以下の通り。


・東の大陸は空を厚く覆う暗雲により、生命が育つ環境ではなくなってしまった。

・今のこの環境でも不自由はないが、出来ればもっと身体を動かせる広い環境が欲しい。

・東の地域の暗雲を晴らせるのであれば、全力で取り組むつもりである。

・そうではあるが、西の神々との共同作戦だけはお断りである。


 続いて、西の神。


・西の大陸は灼熱の業火に焼かれ、生命が生きられる環境ではなくなってしまった。

・今のこの環境でも不自由はないが、出来ればもっと静かな環境が欲しい。

・西の地域の業火を鎮められるのであれば、全力で取り組むつもりである。

・そうではあるが、こちらこそ東の神との共同作戦はお断りさせてもらう。


 最後に北の神。


・魔族の塔の建設妨害に協力を呼びかけたが、他の神々は協力しなかった。

・北の神々だけでは建設を阻止できなかった。だがそれは我々だけの責任ではない。

・最初から協力していればこんな事にはならなかった。自業自得である。

・この地域は気温が高く住みにくいので、出来れば早く帰りたい。


「成程、では状況を少し整理させてもらいます。私が今から述べる現段階までのあらすじに、間違いがあれば訂正してください」


 俺は女神ヘステルから教わったここまでのあらすじを言葉にする。



◆◇◆◇◆◇◆


 太古の昔、天の神と地の神が争った。

 神々の争いは壮絶を極め、天を焦がし、地を薙ぎ、ついに決着を見ることなく互の力を大きく減退させるに終わった。

 

 だがその争いの爪痕は大きく、世界は荒廃し、人々の生活は困窮し、その間隙を縫うようにして魔族が勢力を伸ばしていた。


 荒廃した世界から人々を救おうと、女神ヘステルは降臨と同時に神々に呼びかけ、魔族の討伐に力を注ぐ。

 だが新たな統治者の出現に、地の神が猛反発。

 ついには破壊者デストロイヤーを呼び込むという暴挙に出たのである。


 女神ヘステルはその強大な力を用い、更には天の神々と協力し、魔族を北の小さな島に追い詰める事に成功した。


 そして世界を東西南北に分かち、天の神々にその統治を依頼。天の神々は地上に降り立ち、東西南北其々の地域に住まい、人々に安寧を齎す統治者として根付く。


 だが破壊者を滅する事が出来ていなかったため、思わぬ反撃を受ける事となる。

 破壊者は生き残っていた地の神の生命を生贄に、別の世界から魔族の王となる者を呼び寄せる。そしてその王を支える四天王までをも呼び寄せたのだ。


◆◇◆◇◆◇◆



「しっかり勉強してるじゃねーか」

「そうですわね。ここまでは問題ありませんことよ」

「ふむふむ。全くその通り」

「けっ。まあこの程度は当然だな」


 女神たちの反応を見るに、ここまでの認識に女神ヘステルとのズレは無さそうであろる。


 まあこれは勝手な想像だが、天の神と地の神の争いは言わば巨乳貧乳戦争だろう。

 地の神が女神ヘステルに反発したのも頷ける。胸だけの話で言えば、女神ヘステルは間違いなく天の神に近い。



◆◇◆◇◆◇◆


 北方の海に浮かぶ大小合わせて九十九の島々。

 そこが北の神々が収める北の国。


 破壊者が呼び出した魔王は、その強大な魔力を用いて魔族を統率すると、封じ込められたその島に巨大な塔の建設を開始した。


 北の神々は幾度となく攻撃を仕掛けて建設の妨害を試みたが、塔を破壊するまでには至らなかった。そこで各地域の神々に協力を要請したものの、各地域の神々もその段階では他人事程度にしかとらえておらず、ついに魔族の塔が完成。


 その巨大な塔の頂から発される邪悪な光は、東の地域を暗雲で多い、西の地域を業火で焼き尽くした。そしてその光の影響で弱体した北の神々を北の地域から追い出し、ついに魔族の国を打ち立てた。

 地域を追われた神々は、女神ヘステルに導かれるように南へと集結。

 女神ヘステルの協力を得て最後の砦を建造し、ここに反撃の機会を伺っている。


◆◇◆◇◆◇◆



「ちょっとまった」


 最初に口を挟んだのは北の神である。


「女神ヘステルに導かれて? 冗談じゃない。その女神ヘステルさんとやらが初めから塔の破壊に協力的であったなら、こんな事にはなっちゃいない!」


 その言葉に、南の神が反論する。


「そう感情的になっては困りますよ。私達は人間の勇者を育て、魔王を討とうと準備をしていたのです」

「なにが『感情的に』だ! そうやっていつも他人事で済ませようとするから、魔族の塔が出来上がったんだ! 人間の勇者? ハッ!? その勇者とやら、西の地域で焼け死んだじゃないか!」


 すると、西の神が参戦。


「聞き捨てなりませんね。まるで我々の管理が行き届かなかった所為で勇者が死んだかのような言い方じゃありませんこと?」


 そこへ東の神が参戦する。


「ハッハッハ。本人がそう思うのなら、そうなんじゃないのか? 東の大陸は雲に覆われてはいるが、多くの死者を出したりはしていない。大陸を丸焼きにされるなんて神として失格だな」

「……ただ雲に覆われた程度で逃げ出すほうがどうかしいるのではありませんこと? 炎の風が吹き荒れ、炎の雨が降り注ぎ、逃げ惑う人々を救助するので精いっぱいだったのです。たかが雲さえ打ち払えぬ駄女神に言われたくありませんわ」

「な、なんだと!? あの雲は払っても払っても押し寄せてくる! やりもしないで逃げ出したかのような言われ方は心外だ!」


 そこへ北の神が割って入る。


「だからどちらも駄女神なんだ! こちらの協力要請に応えなかったお前たちは、どちらも自業自得なんだよ!」


 だがその言葉に、南の神が不満を述べる。


「先ほどから偉そうに協力を要請したと申されていますが、あれのどこが協力要請だったと言うのですか?」

「そうだ! あんな上から目線の要望に協力するアホがいるか!」

「そうですわ。まるで私たちが北の神々の家来であるかのようなあの書状、正直腹に据えかねましたわ。元は皆が同じ天の神、上も下もないはずですわよ」


 一触即発と表現できなくもないこの状況に、女神ヘステルは呆れ顔で両手を広げる。


「ずっとこんな調子よ」


 そして小さくため息をひとつ。

 確かにこれは苦労しそうだ。

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