第25話 光輝を背負うもの

「どけぇぇぇ! 吹っ飛ばすぞぉぉぉ!」


  ソウルウィングの加速、飛翔に加えてソウルフィールドによる認識能力の拡大。これらが合わさる時、私の周囲の時間は停滞したように見え、群がる敵はもはやただの的にしかならない。


「ソウルブラスター!」


 私は右手に結晶の銃を構え、容赦なくトリガーを引く。狙いなんて絞らなくても撃ちこめば撃ち込むだけ敵が消えていく。


「ソウルブレード!」


 そして左手に輝く剣。すれ違いざまに無数の敵を切り裂き、目指すは地霊邪王のみ!


「無駄だよ」


 超高速空間の中にいる私に対して、目の前に悠然と浮かぶ地霊邪王はダークメイカーの姿でせせら笑う。奴にはこちらの高速機動は通用しないことははなからわかっていた。だけど、私たち以外にこの高速空間に割り込める連中もいない。

 つまり一騎打ちだ。

 私はソウルブラスターを連射し、間合いを詰める。

 邪王は片手で弾丸を弾くと、指を鳴らして漆黒のクリスタルを私めがけて射出してくる。


「こっちだってやられっぱなしじゃない!」


 そのクリスタルをブレードで叩き落とす。私たちの距離は十メートル程に縮まっていた。今の私たちなら至近距離にも等しい。私はソウルブラスターをホルスターにしまい込んで、右手にブレードを持ち替えながら振り上げる。


「喰らえッ!」

「ほぅ!」


 刹那、太陽の光よりも眩しい閃光が私と邪王の間で迸る。私の光輝くブレードと邪王の暗黒のようなブレードの刃が衝突しあい、スパークを起こしているのだ。


「ぬううう!」


 易々と斬撃を防がれているが、私は邪王を押し込むように両腕でブレードをねじ込む。しかし、邪王は片手でそれを防いでいる。

 本当に腹が立つ! これが実力差ってわけ?

 数秒間の拮抗の後、お互いのエネルギーの反発作用のせいで、弾かれてしまう。その衝撃はすさまじく私と邪王だけではなく周囲に棒立ちで浮かんでいる形となっていた地竜兵や地霊騎士たちをも巻き込んでいく。

 どうやらそれと同時にソウルフィールドの効果が切れた様で、直後に邪王軍の兵士たちが悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。

 僅かに態勢を立て直した地霊騎士はギョッとした顔を私に向けてる。いつの間に懐に入りこんできたのかわからないといった顔だ。


「邪王様を援護しろ!」


 鳥のような顔をした地霊騎士がそう叫んでいた。

 その号令に応じるように無数の地霊騎士がわっと私の下へと集まってくる。同じようにふきとばされていた邪王はそんな光景を楽し気に見つめていた。斬り抜けて見せろと言わんばかりの余裕だった。


「いいわよ。見せてやるわ。こっちは相当に頭きてんだからね。あんたらは絶対に許さない!」

『思い切りやっちゃえメイカ! 聖女の力は、民の祈り、信仰! 今の勢いならば!』


 ラミネの言う通りだ。絶望の淵から蘇った伝説の聖女。そして単騎で駆け、強大な敵に立ち向かう。今私が行っているシチュエーションはそれを見上げる人達にとっては最大の希望のはずだ。私はその希望に答えるように戦っている。そうであるようにふるまっている。

 見る人たちに勇気を与えるべく、私はブレードを振るう。わっと湧き上がる歓声を受ける度に、ソウルメイカーのパワーが上昇していくのを感じる。


「聖女! 覚悟!」

「お前は!」


 真っ先に私に突っ込んできたのは蛇……いや、あの竜の騎士だ。

 青龍刀っていうのか、反り返った巨大な剣を構え、腕の尾を振り回して向かってくる。

 だけど……


「邪魔だ!」


 こいつはムカつく奴だ。だけど今はネチネチと相手をしている暇はない!

 私はブレードを構え、奴に突撃。向うもこちらを迎え討つように尻尾をぶつけてくるが、それを難なく切り裂き、肉薄する!


「ぐっ!」

「気持ち悪いのよ、そのへらへら態度がぁ!」


 ブレードを一閃。真一文字に切り捨てる!

 上半身と下半身が切断された竜騎士は、しかし、とんでもない生命力を誇っていたらしい。切断されたはずの尾はいつの間にか再生していて、それを私めがけて伸ばしてくる。尾は私の首をきつく締めあげてきた。


「へし折ってやるわ!」

「うるさい!」


 だけど、この程度で私を止められるだなんて思わないことね。

 私は無造作に尾を掴むと思い切り引きちぎってやる。奴は絶叫しているが、そんなことはどうでもいい。あんたが悲鳴を上げるよりも、人々はもっと怖い思いをして、もっと声を張り上げたかったんだから!

 それにこいつのせいでアナはあんな目に合っている!

 私は再びブレードを振るう。斬撃波が飛び、それが竜騎士の尾のような腕を切り落とす!


「おのれぇぇぇ! 聖女め! 貴様はぁぁぁ!」


 それを最後に奴は飛行能力も失ったのか、怨嗟の声を上げて落下していった。

 だけど、私はその叫びを最後まで聞くことはなかった。私の周囲には他にも無数の地霊騎士や地竜兵が群がってきていたのだから。

 そんな連中の相手をしている中で、あいつの恨み言一つ聞いてやる暇はない。


『メイカ! 空中の敵も対処するべきだけど地上が!』


 カエルのような地霊騎士とそれを乗せる鳥の地霊騎士を切り裂くと、ラミネの悲鳴にもにた声が響く。

 私が地上へと視線を向けると、私の相手をしているのが怖くなったのかそれとも邪王の命令か、かなりの割合の兵士たちが地上へと降り立って攻撃を再開していた。


「こんのぉ、次から次へ……!」


 もうこうなったら手段は選ばない!

 私は確信をもってモニターに表示された兵装欄から一つを選ぶ。


「今の私は人々の祈りでパワーが上がっている! ならば!」


 私が選んだのは、前回では出現させることのできなかったソウルメイカーの兵装。その中でももっとも地上戦に特化した兵器。

 その名も……


「シャイタンク! ゴー!」


 私の号令と共に空中に光が迸る。その光は徐々の凝縮され、結晶となり、そして十数メートルの巨体を形作る。それは銀色と青色の装甲を持った装甲車両であった。六つのタイヤを持ち、上部にはガトリング、フロント部分には掘削用のシールドマシンを装備したソウルメイカーの地上戦車!

 出現したシャイタンクはそのまま地上へと落下。運悪くその下敷きになった地竜兵たち。しかしシャイタンクの猛攻は止まらない!

 上部に装備されたガトリングが火を放ち、群がる兵士たちを粉々に砕いていく。


『なによあれ……』

「言ったでしょ、容赦はしないって! それにこっちは多勢に無勢、これぐらいは許してもらいたいもんね!」


 シャイタンクの登場で邪王軍は完全に浮足立っていた。

 ただ一人、邪王だけはパチパチと拍手をしている。あいつ、この状況を楽しんでる!


「はっはっは! 愉快だな! うん? 凄まじいパワーだ。なるほど、戦闘能力だけならば歴代の聖女でも随一だな。勇者すらもしのぐかもしれん」

「おほめに預かり光栄ね。待ってなさい。このパワーであんたをぶっ飛ばして、アナを取り戻す!」

「やってみなさい?」


 邪王がを片手で合図を送ると浮足立っていた邪王軍が再び盛り返す。


「数で勝ったつもりでぇ!」


 私は再び新たな兵装を選択していた。


「シャイバード! ゴー!」


 接近してくる邪王軍と私の間にまた光と結晶が集まる。今度は二十メートルの鋭角的なフォルムを持った姿で現れる。

 その名はシャイバード。ソウルメイカーの所有する戦闘機だ。出現したシャイバードは機首に備え付けられたバルカンを斉射しながら一気に加速。ばらまかれる弾丸が寄り集まる兵士たちを貫き、かみそりのように鋭い両翼が敵陣を切り裂き、そして邪王めがけて突貫する!


「むっ!」


 流石に邪王もその攻撃には驚いた様子だ。避けようとしていたが、もう遅い。シャイバードの最高速度はソウルメイカー以上だ。それにこの質量の体当たり! いくら邪王のパワーで強化されたダークメイカーと言えど無事では済まないわ!


「卑怯だなんて思うなよ! 今の私は切れてるんだからねぇぇぇ!」

「う、お!」


 シャイバードが邪王に激突すると同時に私もまた突撃する。

 ソウルスコープは未だ奴の無事を捉えている! もうしぶとい!


「ぬ、う! このような無茶苦茶を!」


 刹那、シャイバードが音を立てて砕け散る。爆炎の中からわずかに装甲にひびを付けた邪王が真っ赤に染まったゴーグルを輝かせてブレードを構えていた。

 私もまた勢いを止めずに突撃する! 再びブレードの衝突、スパーク! その勢いで爆炎がかき消されていく。


「さっさとぶっ倒れろ!」

「できるかな!」


 光と闇。二つの結晶が空中で激しくぶつかり合う。

 私は無我夢中でブレードを振るう。邪王は冷静にしかし、確かな殺意を持って私の急所を的確に狙ってくる。それを寸での所で防ぎ、ナックルを叩き込む。同時に邪王もナックルで迎撃。衝突、衝撃、私たちは再び間合いを取る。


「アナは返してもらうわ!」


 私はソウルウィングの出力を全開に吹かす。体が引きちぎれそうな衝撃と共に無理やり態勢を立て直し、バランスが崩れた邪王へと迫る。


「ちっ!」


 邪王は腕をかざして漆黒のクリスタルを撃ち込んでくる。それらが私の右肩、脇腹、頭部へと命中する。痛い、ものすごく痛い! だけどこの痛みは耐える! ここでひるんでたらチャンスがなくなる!


「死ねぇ!」


 邪王は鋭利なクリスタルを形成し、打ち出す。流石にそれは不味い!

 私はソウルブラスターで迎撃する! しかし何十と作り出されたクリスタルを全て迎撃することはできなかった。残ったクリスタルが容赦なく私の体を打ち付けてくる。

 その衝撃でマスクの一部にひびが入った。だけど、機能に支障はない!


「うおぉぉぉぉ!」


 邪王まであと三メートル!

 邪王もまたブレードを構えて突撃してくる。

 ラミネの叫び声が聞こえた。だけど何を言っていたのかはわからない。私も叫んでいた。邪王の漆黒のブレードの切っ先が私の顔面まで迫る。


「……!」


 思わず首を反らした。しかし、邪王の刃はマスクを切り裂き、私の左頬を薄く切り裂く。衝撃でマスクの半分が吹き飛んだ。

 そして私のブレードは深々と邪王の胸を貫く。


「な、に!」


 ガクガクと邪王の肉体が震える。邪王はそのままの態勢で、狙いを外したブレードを振り直す! 私めがけてその切っ先を向けてきた。

 それよりも前に私は邪王を蹴り飛ばす。ブレードも引き抜こうと思ったが、深く突き刺さっていて取れそうもないと判断して、そのまま手放した。

 空を切る邪王のブレード。しかし切っ先がわずかに私の胸部装甲を切り裂く。


「これで止めよ!」


 私は右拳に全エネルギーを集中させた。無数の結晶が右腕に集まり、凝縮していく。二倍、三倍、と巨大化していく結晶の拳。それを大きく振りかぶった私は邪王めがけて振り下ろす!


「ハイ・ソウル・ナックル!」


 必殺の直撃する。確かな手ごたえと共に邪王の、ダークメイカーの鎧が粉々に砕け散っていく。露わになる三代目聖女の肉体。彼女は瞼を閉じていたが、その表情はどこか安らかだった。それを認めた瞬間、彼女の肉体はキラキラと光りの粒子となって消えていく。


『やったわ!』


 ラミネが歓喜の声を上げる。同時に地上かも声援が沸き上がった。残った地竜兵や騎士たちが動揺を隠せないままでいて、かなりの数が後退、逃げ出していくのがわかる。

 だけど、まだ終わりじゃない。私にはまだやるべきことがある。


「ラミネ、侵入ルートを割り出して! このままアナを助ける!」

『え、えぇ!』


 ラミネの返事も聞かずに私は即座に飛び立つ。邪王の城はいまだにその威圧的な姿を残している。嫌な予感がした。


『そんな! 邪王の城から……!』

「えぇい! そういうやっぱパターンか!」


 やっぱりそうだ。

 邪王の正体、いや本体というべきか? あの城に送り込まれた時からどことなくそんな気はしていた。脈打つ壁、生物の息吹のような風、骨のような橋……それらは全て見せかけじゃない。

 それこそが奴の、邪王の『肉体』だったんだ!

 ガイコツのような意匠を持つ邪王の城が蠢き、轟音を上げる。岩肌が崩れおち、肉塊のようなものが蠢いているのがわかる。

 獣の叫び声が轟く。ガイコツのようにみえたそれは模様だった。空洞のような眼からは腕が伸び、顎骨からは四つの脚が這い出てくる。頭頂部を割るようにい長い首と潰れた人の顔のような、しかしどこかトカゲのような顔を持つ頭がこちらを睨みつけてくる。そして最後に翼のようなものまで生えてきた。


「なるほど……これが最終決戦ってわけね?」


 その巨大なドラゴンを前にしても、私は少しの恐れもなかった。

 いや、むしろ、不謹慎だがわくわくしていた。世界を救う戦い、そしてお姫様を助ける……最高のシチュエーションだ。

 

「何度も言うけど、私は全力で相手してやるわ……ソウルベース!」


 私は最後の兵装を召喚する。

 その瞬間暗雲が立ち込め、轟く雷鳴と共に太陽の如き光を放つ超巨大な結晶が出現する。それは直径四十メートルを超す巨体であった。

 その結晶を突き破るように一隻の巨大戦艦が姿を現す。

 それこそ、ソウルメイカー最大の兵器にして基地、ソウルベース。巨大な敵との戦いを想定した戦闘母艦だ!


「さぁ、アナは返してもらうわ!」

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