《絶対防御》の魔導士は攻撃しない

UG

第1話 なかなか動かない魔導士


「あ〜眠い 動きたくない 何もしたくない」


グランザム王国の王城の一室で昼過ぎになってもベッドから出ようとしないニート男の第一声がこれである。



グランザム王国とは人間、エルフ、獣人などの様々な種族が生活する国である。グランザム王国は豊かな土地や海を持ち大変生活のしやすい国であり国王も戦争をしたがるような人物ではなくいたって温厚な人なのだがその豊かな資源に目をつけた他国から常に狙われ戦争をさせられている国である。



コンコン


「失礼します。」


そう言って扉を開けて部屋に入ってきたのは茶色の髪を肩のあたりで揃えている20歳くらいの可愛いというよりは美人と表現するほうがしっくりくる女性だった。


「イオル様、もうお昼をすぎています。いい加減起きて仕事をしてください。」


ベッドから出ないニート男イオルはグランザム王国の宮廷魔導士長という宮廷魔導士の中で2番目に偉い地位に就いていながらめったに仕事をしないというダメ人間である。


「あ〜うぁ。ミレイア今日はちょっと身体の調子がよくないから休むわ」


昼過ぎまで寝ておいてさらに見え見えの言い訳を堂々とかますイオルの態度に呆れながらミレイアは宮廷魔導士長の秘書として


「昨日もそう言って休もうとしていましたよね。嘘だってことはバレているんですから素直に起きて仕事してください。今日は、この王都周辺に最近現れるようになったという盗賊の討伐の依頼が国王様から直々にきています。」


自分より立場が上のイオルの言い訳を軽く聞き流し自分の用件を伝える手際のよさは流石に何年も秘書を務めているだけはある。


「えぇ〜行きたくねぇなぁ。だって盗賊の討伐なんて普通冒険者がやってる仕事だろ。なんで俺にやるようにって国王陛下が依頼を出すんだよ。」


イオルの言っていることももっともであり普通の盗賊討伐ならば冒険者ギルドに依頼を出して

行うのならば今回は少し違っていた。


「イオル様、国王陛下からの依頼書によりますとなんでも今回の盗賊の中には魔導士崩れの者がいるらしく情報によりますと上級の魔法も使われたとのことです。」


「うへぇ〜。上級魔法が使えるってことはそこそこ強いやつじゃん。そんなの相手にするとかめんどくさいなぁ。」


この世界で魔導士達が使う魔法にはランクがある。

まず一番初めに覚える初級魔法。これにはほとんど殺傷力はなくよほどセンスのない人以外は基本的に訓練すればほとんどの人が使えるようになる。魔力が少ない人は初級魔法しか使えない。


次に中級魔法。魔導士と名乗るにはこの中級魔法を使えなければならない。殺傷力のある魔法も多いが魔力がそれなりにないと発動できない。ただし中級魔法をつかえれば冒険者としてやっていくことが出来る。


その上に上級魔法があり、魔力の消費は中級魔法とさほど変わらないが魔力を操る技術が中級魔法より必要になり繊細な魔力コントロールが出来ないと使うことが出来ず使える者も少ない。


上級魔法の上には超級魔法があり、超級魔法は繊細な魔力コントロールと上級魔法より多くの魔力が必要になるため相当魔法に長けていないと使うことは難しいと言われている。


その上に王級魔法。王級魔法を使える魔導士はほとんど居らず、使える魔導士は騎士100人を相手にしても勝てると言われているほど、普通の魔導士とは一線を画す。


そして最上級魔法の神級魔法。神級魔法を使える魔導士は1000年に1人現れるかどうかでその魔導士は1人で国を倒せると言われている。今は、世界で1人だけ使える魔導士がいる。伝説の魔法。


そんな魔法区分のなかでも普通の魔導士よりも強い魔導士が相手という事で冒険者ではなく王城に依頼がやってきたというわけである。


「そんな事を言ってないないで準備してください。はやくしないと日が暮れてしまいます。」


ミレイアは淡々と言うがイオルは上級魔法を使う魔導士が敵にいると知りただでさえないやる気が更に無くなっていた。


「おいおい、ホントに行くのか?盗賊って魔導士だけじゃないんだろ?それを俺とお前の2人で討伐しに行くっていうのかよ」


「大丈夫です。イオル様と私がいればなんとかなります。」


「いや、そんなに信頼してくれるのはありがたいんだけど流石にもう少し人を寄越してもらおうぜ」


「現在、騎士団の方たちは別の仕事のため手が離せず他の宮廷魔導士はイオル様に協力したがりません。


騎士団の理由は別にいいとしても他の宮廷魔導士の理由はハッキリ言いすぎじゃないのかと思ったがイオルは全く気にした様子はなく


「あっ…そうなの?はぁ〜どうすっかな〜」


とベッドの上を転がっていた。

そんなイオルの戯言に付き合いきれなくなったのか


「…イオル様いい加減にしてください。」


そう言うとミレイアの右手の手のひらに光が集まってきはじめた。

それに気づいたイオルは慌てて


「お、おい!何魔法撃とうとしてんだよ!お、落ち着け冷静になるんだ!」


「いつ迄経ってもベッドの上から動いていただけそうにないのでこうなってはもう実力行使しかないと思いました。」


いたって冷静にそんな事を言いつつ手のひらに集まった魔力を魔法に変換していくミレイア。

普段の戦闘時はこんなことはしないがこれはイオルを動かす為なのであえて時間をかけて魔法を発動させている。


「そんな事で魔法を使うなよ!わかった。行く!行くから魔法を解除しろ!」


イオルが必死に行くというのでミレイアはため息をつきつつ右手に集まった魔力を霧散させた。


「最初からそう言ってくだされば良かったのに」


「ふ、ふざけんなぁ!どこの世界に上司を魔法で脅す部下がいるんだ!」


イオルが怒鳴っているがミレイアは全く意に介した様子もなく


「いつ迄たっても働いてくださらない上司ですので仕方なくです。それに国王様にもどんな手を使ってでも仕事をさせろと言われておりますので」


国王の名前を出されては何も言えないのかイオルは諦めたように


「く、くっそぅ。魔法を使って脅すなんてズルいじゃねぇか」


イオルは、口ではそんな事を言ってはいるがミレイアの魔法を防ぐ位は余裕でできるし本気で仕事をしないつもりなら、ミレイアを追い出すことも出来たがそれをしない時点で働きたくないとは言いつつも心の何処かでは国王様の依頼だから仕方ないと諦めていたのかもしれない。


「では、直ぐに支度をしてください。」


「んあ?支度なんかしなくてもいいよ。杖さえあれば別に他に必要な物なんてないし。」


抵抗するのを諦めたイオルはベッドのそばに立てかけてあった銀色の杖を持ち床に落ちていたローブを羽織った姿でそう言ってきた。


「そうですか。では、行きましょうか。」


普通、着替えたりしないのかと問うのかもしれないがイオルは毎回こんな感じなのでミレイアも言うのを諦めた。

ミレイアが部屋を出ていったのでイオルも後に続いて部屋をでた。











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