後期1限目 2.キャラクター創造論Ⅱ キャラクターをつくる

 はい、それではキャラクター制作論Ⅱですー。


 えっと、ちょっと先に訊いておきたいんですが、前期で、榊一郎先生のキャラクター制作論Ⅰとってた方はいらっしゃいます?

 いらしたらどんな感じだったかちょっと教えていただきたいんですけど。


 ……うむ。なるほど。


 まあこれは実際授業しないとわかんないんでいまはおいときますけど、まず先に言っておかなきゃならないことは(たぶん榊先生もおっしゃっただろうと思いますけど)

 キャラクターの創造法のみならず、なにかを創るやりかたにはそれこそ創るひとの数だけの方法があって、そのどれもが正しいし、どれもが違うってこともありうるってことです。

 榊先生のやり方と私のやり方はおそらく違うし、たぶんこの授業をとってるひとの数だけ、やり方はあります。正解っていうのは、「そのひとが一番しっくりくるやり方」であって、私がこう言ったからといって必ずそうしなきゃいけないなんてことはないし、自分でやってみてどうもしっくりこないようなら、やりやすいようにいくらでも工夫していいのです。

 わたしたちが提示するのはあくまで「一例」であって、参考程度のものだと考えてください。あなたがたどりつくべきゴールはあなた自身しか知りませんし、その道は、けっきょくあなたが見つけるしかありません。

 私たちが示すのは「めじるし」と「道しるべ」であって、道そのものではないのです。やり方も目標もかいもく見当がつかない地点から、ちょっとこっちの方向へむかって歩き出してみようか、という標識です。

 道は、これから創作をするあなたの足下にだけできます。私にはそれを教えることも与えることもできません。こっちのほうへ進めばなにか手がかりが見つかるかもしれないよ、という、自分が通ったことのある道筋を、例として書いてみせるだけです。くりかえしますがあなたにとっての「正解」は、あなた自身以外には、見つけることはできないのです。そのことは、まず心においておいてください。


 では、とりあえずはじめに──


「キャラクター」って、いったいなんでしょうね?

 創作物、小説やマンガ、ドラマ、ゲーム、映画にアニメ、まあいろんな「物語」に登場する架空の人物を「キャラクター」と総称する、そんな感じでしょうか。

 ところが、この「キャラクター」が、ひとり歩きしている時代です。キャラクターを取り出して作者が独自のお話をつくる二次創作の隆盛、キャラクターをあしらった商品、異なる作品間のコラボ、スピンオフ、等々、人気作品のキャラクターは、作品そのものから飛び出して、まるで実在する人間のように、独立した存在として動き回るようになっています。

 

 近年のライトノベルやライト文芸では、ストーリーももちろんですが、魅力的なキャラクターの活躍が非常に重要視されます。キャラクター文芸という言い方もあります。私がデビューした当時ですが、「魅力的なキャラクターが書ければストーリーはなくてもいい」とさえ言われたことがありました。その言葉の是非はさておき、魅力的、かつ強い(印象の強い、という意味で)キャラクターを作り、うまく表現することができれば、創作者として立っていく上で、非常に有利な力になることは確かです。


 で、最初に戻ります。「キャラクター」って、なに?

 これはこう言い換えることもできます。

「キャラクターが立っているって、どういうこと?」


 キャラクターを作る、ということを、「キャラクターの設定を作る」ことと勘違いしている場合は、実はけっこう目にします。

 キャラクターの設定とは、名前・性別・容姿・生育歴・立場・所属・しゃべり方(口ぐせ)などなど……いわゆる「キャラクター紹介」とかでまとめられるような身上書を、箇条書きにしてまとめたような感じです。

 新人賞の投稿作のなかにも、こうしたことをそのままポイッと文章で書いて、それでキャラクターができたことにしてすましているのは、わりと多い。

 あるいはとっぴな癖や趣味、あるいは変な語尾、または特徴的な容姿(オッドアイだったり銀髪美形だったり傷あとがあったり)だけつけておいて、それでキャラを立てたことになっていたり。


 でも、実は、そういう「キャラ」って、読んでるあるいは見てるほうからすると、まったく記憶に残らないんですよね。

 なんせ創作に登場する「キャラクター」なんて、古今東西ものすごい数のやつらがいます。たいていの属性だのなんだのはとっくの昔に誰かがやっちゃってるし、人間の発想なんてのは、だいたいかぎりがあります。自分が考えたものはもう過去の作者たちがさんざんやりつくしてて、今さら新しい要素なんて、そうそうあるもんじゃない。


 それでも、「このキャラクターが好き!」と言えるキャラ造形と、まったくそうではないキャラクターが存在する。

 その差はなんでしょうね?


 しばしば、キャラクターを作るさいに忘れられがちになる点、それは、


「キャラクターにとって、物語は不可欠である」


 ということです。

 まあ初音ミクとかの例外はあることはありますが、だいたいにおいて、人気のあるキャラクターには、そのキャラクターが住んでいて活躍している物語の世界がくっついています。キャラクターを囲む他キャラクターとの人間関係、キャラクターがなんらかの事件にぶつかったときの行動、言動、そういったものが、上記のような身上書的なキャラクターの「特徴」をもこえて、その「キャラクター」全体を構成しているのです。


 ぶっちゃけキャラクターを構成する設定や属性なんてものは、もはやモジュールと化していて、ある程度要求にあわせて取捨選択して組み合わせることで、ちょっとしたキャラなんて簡単にできてしまいます。

「美形」「巨乳」「ケモ耳」「顔キズ」「隻腕」といま思いつくまま言葉を並べてみて、これに従って「男女両性の身体を持つ・巨乳で猫神の加護を受けた・美しい顔にキズのある・隻腕の傭兵」というキャラを考えてみたとします(ごちゃっとしてて申し訳ないですが)

 たぶんこれだけの情報でも、絵を描く人であればそれなりのキャラクター絵は描けると思いますが、それだけではこのキャラクターが、作品という枠を越えて人々に愛されることはまずありません。

 なんでか。

 それは、彼女(彼?)にはまだ、「物語」がないからです。


 ここでちょっと考えてみてください。

 あなたの好きなキャラクター、それは、どういうところが好きですか?

 あるいはカッコいい・かわいいと思いますか?

 または嫌いなら、どういうところがムカついて嫌いですか?

 ちょっといくつか、実際のキャラクターを出してみて、分析してみましょう。


※『外見・設定』『ストーリー(役割)』『行動・言動』の三つに分けて、自分の好きなキャラクターの魅力、あるいは嫌いなキャラクターの嫌いな理由を、書き出してみましょう。


 上でざっと書いたキャラの荒書きは、あくまで『外見・設定』レベルです。『ストーリー(役割)』『行動・言動』レベルには達していません。


『外見・設定』

「男女両性の身体を持つ巨乳で」

 →それはなぜ? 男女両性の身体であるのにはどんな理由が? そういう種族なのか、それともなにかわけがあるのか? わけがあるならどんなことか? そもそも男女両性とはどういう状態?

「猫神の加護を受けた」

 →猫神というのはどんな神で、どういういきさつからこのキャラクターに加護を与えることになったのか? また、加護を受けることによってどういう利益あるいは不利益があって、それはキャラの行動、あるいは生活にどう影響してくるのか?

「美しい顔にキズのある」「隻腕の」

 →その負傷はいつどういう理由で負って、それに関してキャラはどう感じているのか? 恥? 誇り? 苦痛? 苦痛としたらどんな?

「傭兵」

 →なぜその職業を選んだのか? 理由があってしたことか? 理由があるならどんな?


『ストーリー(役割)』

 →このキャラクターは物語の中でどんな役割を果たし、どういう位置づけになるのか? 主人公、それともわき役? 主人公ならばなにを求め、どうしようとしているのか? わき役だとしたら、主人公にとってどういう位置づけになるのか? 味方か敵か? 


『行動・言動』

 →ほかのキャラクターに対する態度はどういうものになるか? ミステリアスな助言者? 姉御(兄貴)肌の助っ人? ストイックな戦士? 強力な敵? 敵ならばなぜ主人公に敵対するのか?


 と、このようにさまざまな疑問点が出てきます。


 属性を適当に組み合わせて設定をこねあげるまでは、ぶっちゃけ誰にでもできます。属性をならべた表を作って、サイコロなり乱数表なりなんなりで適当に拾ったやつを組み合わせれば。

 それを生きた、受け手の心に強く残って輝くキャラにするには、そのキャラの生きる世界と人生、物語全体の中でそのキャラが果たすべき役割を決め、それによって(設定や外見だけではない)キャラの全体像を作り出す必要があります。

 

 属性組み合わせで作ったキャラに、真の意味での個性、あなたなりの独自性、オリジナリティを与えるのは、奇抜な外見やとっぴょうしもないセリフではありません。読者が見て納得し、感情移入できる「物語」です。

あなたのキャラクターの個性は、オッドアイやネコ耳や堕天使の血脈などではなく、それらをふまえた独自の「物語」によって生み出されるべきなのです。


 時間があるかどうかわかりませんが、もしできれば、自由に出してもらった「属性」の組み合わせでキャラを作り、上記のやりかたで『設定・外見』『ストーリー(役割)』『言動・行動』にわけて、キャラを一人造形する課題をやりたいと思います。時間がなかったら来週回しで。

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