後期1限目 1.SF論 SFというジャンル

 はい、夏休みも過ぎまして、後期授業になります。後期からはSF論というかSF作品案内をはじめることになります。半年間、またよろしくお願いしますね。


 ところで、SFっていうジャンルのイメージって、みなさんはどういうものになるでしょうかね。

 SFイコールサイエンスフィクション、なんだから、とにかく科学的な要素が入ってればSFだ、というのもあり、そのサイエンス部分をごく厳密に規定して、本当に科学的蓋然性が保証されていなければSFとは呼ばない呼べないなんていう、ハードSF原理主義なんてのもあり、いやSFっていうのはスペキュレイティブ・フィクション(思弁小説)であって、作中でさまざまな社会的・科学的・思想的実験が行われていればいいんだという説もあり、その一方で、いやヤマトだってガンダムだってSFですよ? という、ぶっちゃけおもしろかったらなんでもいいじゃん的娯楽重視カッコよさ重視派あり、なんかとにかくすごいホラ話であればなんでもSFだよそれでいいじゃん? あり、SFってのはすこし(S)ふしぎ(F)のことなんだから、ドラえもんだってコロ助だってSFなんだよ悪いか派もあり。SFファンと呼ばれるゲットーの中でも、これに関しては非常に意見が分かれておりますところです。

 いやまあ本当にですね、「ヤマトはSFじゃない」「ガンダムはSFじゃない」という意見が、大まじめに議論された時代があったんですよ。だいたい70年代あたりに。

 私は微妙にまだその世代よりあとなので実際に論争に参加してたわけじゃないですが、後年、ある程度成長してから、第二次ガンダムブームに触れて、アニメ雑誌なんかの投稿欄で活発に繰り広げられてる議論を見るにつけ、SFファンってのはめんどくさい人なんだなあ、と子供心に思ったりしたものです。現在のツイッターだの掲示板だのブログだのでやらかしてる論争を、月刊雑誌の投稿欄で一ヶ月おきにやりとりしてた時代ですから、まあ、のんびりした時代ではあったですけどね。


 まあそれはさておき、ちょっとSF黎明期からの歴史……をやる前に、先に、受講生のみなさんのSF意識というか、作品に触れた体験、あるいは好きな作品、書いたり作ったりするのであればこんなのがいい、という目的、等々、ちょっとひとりひとりにきいておきましょうか。なんせ上記の通り、どっからどこまでがSFなのか、という区別については、いまだに個人ひとりひとりの好みと志向にあわせる部分が多々あるもので。



 ……はい。そんな感じですか。いや今は事前に書いてるだけですから実際授業でどんな話になるかはまだわかんないですけどね。


 ちょっと、SFといわれてあがるジャンルというか、作品の区別を書き並べてみましょうか。


・冒険SF

・ハードSF

・スペースオペラ

・SFファンタジー

・ロボット(人工知能)SF

・宇宙SF

・ファーストコンタクトSF

・時間SF

・サイバーパンクSF

・滅亡SF

・ポスト・アポカリブスSF

・寓話・風刺的SF

・ニューウェーブSF

・超能力SF

・ミリタリーSF

・ユーモアSF


 思いつくままにざっとあげてみましたが、このほかにも、アニメやゲーム、コミックその他を加えれば、もっと細かい細分がありそうですし、あと、日本作品の特質として、


・特撮(怪獣・怪人)SF


 もいれておくべきでしょうね。ゴジラやウルトラマン、仮面ライダーや戦隊は、アニメやマンガと並んで、日本で育った独自のSFジャンルといっていいと思います。


 では各ジャンルの代表的なイメージってなんでしょう。

 冒険SFはエンタメSFの基本みたいなもんだと思いますし、骨組みはこれをベースにいろんな味付けをすればさらにいろんなバリエーションができますが、SFのスタート地点であるジュール・ヴェルヌ(『月世界旅行』『海底二万海里』)やH・G・ウェルズ(『タイム・マシン』『宇宙戦争』『透明人間』)の作品は、もっともストレートな形でこのジャンルの作品とよべるかもしれません。

 この二人およびそれ以前のSF的作品についてはのちにくわしく見るとして、


 ハードSFだと御三家ことアシモフ・ハインライン・クラークに始まる、いかにも「サイエンス・フィクション!!(どーん)的なやつになるんでしょうか。私の知り合いの作家さんで「小説を読むときは常に(数学的な意味で)計算しながら読みます」と真顔でおっしゃった方がおられますが、そんな風に、とにかく科学的データに基づいて正確に正確に、ストーリーを組み立てていく王道なサイエンス・フィクションとしてのスケールのでかいSF。ラリイ・ニーヴン(『リングワールド』)、ジェイムズ・P・ホーガン(『星を継ぐもの』)、グレッグ・イーガン(『順列都市』)、スティーヴン・バクスター(『ジーリー・クロニクル』)などなど。


 スペースオペラだと、これはまた娯楽SFの王道として、宇宙船に乗り組んだ明朗快活なヒーローたちが、宇宙を股にかける大冒険を繰り広げる、ってのが定番ですか。ちょうど先日、日本の老舗スペースオペラ・シリーズである高千穂遙先生の『クラッシャージョウ』シリーズが新規にコミカライズがはじまりまして楽しみなんですが、あと『カウボーイ・ビバップ』もそうですね。海外古典だと『レンズマン』『宇宙のスカイラーク』(E・E・スミス)、または『キャプテン・フューチャー』『スターウルフ』(エドモンド・ハミルトン)あたりが定番でしょうか。いまだとちょっと古典に属する気はしますが。

 スター・トレックもそうでしょうかね。あれは宇宙SFとのあいだんこにあるような気もしますが。


 ロボットSF(人造人間)だとやはりアシモフの『われはロボット』をはじめ、彼が設定したロボット三原則にもとづくロボットおよび、人工知能の可能性を突きつめていく物語としていまでもさまざまな変奏が書かれています。もうちょっとポピュラーな例でいうなら、ターミネーターだってロボットSFですね。特に2。

『鉄腕アトム』もまさにこれ。『A.I』『アンドリューNDR114』なんて泣かせるロボット映画もありました。

 SFの始祖のひとつであるメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』もそうですし、同じくカレル・チャペックの「ロボット」という語の出現となった『R.U.R』もこちらです。「フランケンシュタイン・テーマ」とも呼ばれて、人間に作られたものと、人間との関わり合い、もしくは被造物の自意識の問題が取り扱われるのが特徴かもしれません。


 宇宙SFは文字通り宇宙や宇宙人、ロケット、宇宙船、恒星間航行など航空宇宙に関するはなし。「火星DASH村」と言われた映画『オデッセイ』の原作、ピーター・ウィアーの『火星の人』がわかりやすいかも。人間が宇宙やほかの惑星にたどりついたとき、そこでなにが起こってどうなるかをごくごく科学的に追求する話。ハードSFに近いかもしれませんが、ハードSFがぶっ飛んでいるというかスパンのものすごくでっかい理論を取り扱うのに比べて、もうちょっと人間ドラマに寄るかんじ。


 ファーストコンタクトSFは、はじめて人類と接触した異種生命体と、人間との関係を描くもの。春期番組で野崎まどさん脚本によるアニメ『誤解するカド』がありましたね。あと、「空に浮かぶ柿の種もしくはハッピーターンあるいはばかうけ」なポスターが印象的な映画『メッセージ』(原作はテッド・チャンの短編『あなたの人生の物語』)もこのくくりです。ファーストコンタクトものの「お約束」を逆手にとったライトノベル、神野オキナ『あそびにいくヨ!』なんてのも。


 時間SFはそのままウエルズの『タイム・マシン』が嚆矢だと言っていいと思いますが、つまりなんらかかの時間移動、タイム・トラベルが仕掛けとして機能する話。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作、高畑京一郎『タイム・リープ』、宮部みゆき『蒲生邸事件』、小川一水『時砂の王』、新庄カズマ『サマー/タイム/トラベラー』。ジャック・フィニイの短編群。あ、『君の名は。』がまさにストレートにこれか。ハインラインの名作『夏への扉』もこちら。


 サイバーパンクSFは、これはずばり『甲殻機動隊』『マトリックス』あたりあげておけばわかるかと。サイバーパンクという名前を作り、ジャンルとして定着させたのはウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』に端を発しますが、わかりやすいイメージとしてあげるならば、おそらくこの映像作品になりましょうか。いま考えると、『ブレードランナー』はどっちかっていうとロボット・人工生命SFだしな。


 滅亡SFは、なんらかの理由で人類、あるいは地球が滅亡していく日々を淡々と書くもの。このジャンルではJ・G・バラードの『狂風世界』『沈んだ世界』『燃える世界』『結晶世界』、ネビル・シュート『渚にて』などがあります。これだと基本が淡々としていてあまり派手な話にならないせいか、このあとのポスト・アポカリブスSFのほうがエンタメ的な意味で言うと作品が多いんですけど。

 あ、そうだ。エヴァンゲリオンだ。新映画版とかはともかくとして、テレビ版、および旧映画版における『新世紀エヴァンゲリオン』は、みごとに滅亡・終末SFとして機能していると思います。だからみんな死んでしまえばいいのに。


 ポスト・アポカリブスSFは上述の終末が世界をおそったあと、わずかに残った人類が新たな文明を作ってたくましく生きているかあるいはまったく別の生物に変容して生きているとか、とにかく終末「後」の世界を語るもの。手っ取り早く言うと『北斗の拳』あるいは『マッドマックス2』です。いや別にヒャッハーな悪役がつきものというわけではないんですがあくまで手っ取り早いイメージとして。


 寓話・風刺的SF……は難しいんですが、SFプロパーの作家より、純文学だったり一般文芸だったりの作家が、テーマを表現するためにSF的な仕掛けを使用して書いてるイメージがあります。なんだろうな……すごく卑近な例ですが、百田尚樹の『カエルの楽園』とか? 小説的にはどうかと思いますけど。あ、古典の名作として、『ガリバー旅行記』もこの中に入るかもしれません。

 ディストピアSFはこちらに入るかな。アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(スタンリー・キューブリックによる映画が有名)、トランプ大統領の就任によりアメリカで再度大売れしたというジョージ・オーウェル『1984』、レイ・ブラッドベレ『華氏451度』、テリー・ギリアムの映画『未来世紀ブラジル』など。


 ニューウェーブSFはSFプロパーの人以外にはちょっとなじみのない概念かもしれませんが、1960年代、それまでの外宇宙や科学技術など、外的要因ではない人間の内的要因に新しいSFの可能性を求めようという若い作家たちによる運動が起こりまして、さまざまな新時代のSFが生まれた一連の運動のことをさします。上記終末SFで出てきたJ・G・バラードをはじめ、マイクル・ムアコック、ロジャー・ゼラズニイ、サミュエル・R・ディレイニー等々があげられます。またこの潮流に関してはいずれ。


 超能力SFは、今だと異能力とか言ったほうが通じがいいかもしれませんが、なんらかの特殊な能力を持った人間が、普通の人々の中で生きていく姿を描いたSF。いまの能力ものライトノベルとかとはまたちょっと違うかもしれません。いまだと『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズが代表的な異能力もののイメージかもしれませんが、超能力SFというと、80年代のコミック、聖悠紀『超人ロック』や大友克洋『AKIRA』のほうが近いかも。異能力を使って暴れまくる爽快感より、はみ出しものの悲哀や社会との軋轢に重点がおかれてる感じ? シオドア・スタージョン『人間以上』てのもあったな。


 ミリタリーSFは、未来の軍事的組織に身を置いた主人公が、星間戦争に参加しつつ出世していったり、転戦を繰り返して異星・星間国家間の陰謀に巻き込まれていくお話。冒険SFの一変奏といえるかもしれません。普通の地球上を舞台にした現代冒険小説を、そのまま宇宙や未来に持ってった感。ジョン・スコルジー『老人と宇宙』、ロイス・マクマスター・ビジョルド『戦士志願』、デイヴィッド・ファインタック『銀河の荒鷲シーフォート』など。先日テレビでやった映画『バトルシップ』もそうかな。なりゆき的にはファーストコンタクトですがとりあえずミサイル飛ばしまくるアレとかはこっちかも。


 ユーモアSFは、これもちょっと難しい分類ですが、上記のようなエンタメSFに、お笑いの要素を持ち込んだ一群。上記ミリタリーSFの筋にお笑いをまぜたロバート・アスプリン『銀河おさわがせ中隊』、ポール・アンダースン『地球人のお荷物』、ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』等々。日本のライトノベルもかなりの部分でこちらに該当するものがあるかも。『涼宮ハルヒ』シリーズとか。


 特撮SFは、まあゴジラとウルトラマンとその他。学園SF・ジュブナイルSF(ハルヒはこちらかな。『ねらわれた学園』『時をかける少女』とか)ともども、海外にはあまり見受けられない、日本独自のジャンルと言ってよさそう。



 と、このようにつらつら挙げてきましたが、(あっワイドスクリーン・バロック忘れた。アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』『禅銃(ゼン・ガン)』とか)かようにSFというのはいっぱいいろいろ種類がありすぎるくらいにあって、とにかく種類が広いわけです。まだここにガンダムだの巨大ロボットという日本独自のジャンルがありますし、ロボットものと言ってもリアル系とスーパーロボット系でまた話がわかれますし、そんなこと言ったらヤマトはSFなのかという議論がむしかえされますし、じゃあドラえもんもSFだがそれでいいな? という話にもなりますし、とにかく、SFというのは定義のむずかしいジャンルであります。

 私個人としては送り手もしくは受け手が「これはSFだ!」と思ったんならもうそれでいいんじゃないの、という気がしてます。ファンタジーと同じく、SFも非常にふところの広いジャンルですし、むしろ、そのなんでもありっぷりはファンタジー以上かもしれません。ファンタジーSFなんていって、道具立てはファンタジーでもその背後にSF的設定がある、なんて作品も多いですし。

 前に、確かSF作家の山本弘さんがおっしゃってたかと思うんですが、「幽霊が出たら怖がるのがホラー。話しかけて友だちになるのがファンタジー。つかまえて分析しようとするのがSF」というような分類を聞いたことあるんですけど、この分け方だって絶対じゃありません。幽霊とのコミュニケーション、という一事をどう転がしていくかによって、ジャンルなんてどうとでも転がりますし。

「俺がSFだと思うからこれはSF」。とりあえずは、そういう認識で問題ないかと。


 とりあえず、一回目はこんなあたりで終わりそう、というか歴史に入ろうとすると中途半端になりそうなので、続きは来週ということで、ざっとSFの概念と分類をお話ししました。来週からはとりあえず、SFの歴史として、SFことはじめ&黎明期のSF、ヴェルヌ&ウェルズのお話をしたいと思います。それでは。

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