13時限目 2. ファンタジー論 アジアン・ファンタジーと中国ファンタジー

 はいではファンタジー論-。


 先週は日本・和風ファンタジーを中心につりあげましたが、今週はその続き。

 はじめに見てもらうのはサムライ・ファンタジーの例として、ちょっとこれまではアーティスティックな趣味に依りすぎたという反省もあり、ストレートに娯楽作としてよくできている『戦国BASARA』。

 元はアクションゲームのアニメ化ですが、単にアニメとしてとても出来がよく、物語の第一話としてお手本といってもいいほどよくできている第一話でもあります。今日扱うサムライ・アクション・ファンタジーとしての派手な画面作りもさることながら、

「まず主役をバンと出す&作品全体のノリを提示」→

「ライバルの提示と二人の対比」→

「舞台設定と状況の提示&ラスボスの提示」→

「状況の進展とライバルの初対決」→

「次の話への導入」

 と、ほかのお話を作るときにもそのままテンプレとして使用できそうな綺麗な流れですので、そのあたりに注意しておいてください。

 また、ゲーム原作ということでキャラは相当ハチャメチャですし、普通に気合いで空を飛んだり打ちあっただけで大爆発が起こったりいろいろとあり得ない展開がありますが、その一方で、戦国時代の仕草や言葉遣い、風俗などに関する考証はたいへん地道で細かく、リアルに徹しています(放送当時「NHKの大河より上」と、当の大河視聴者から言われたことも……まあ当年の大河がいろいろと酷かったせいもありますが)

 とんでもない世界観を成立させるにはとんでもないことだけを書くのではなく、地道なリアリティの追求も重要であるということを示す好例だと思われます。


b.武士や武芸など、サムライの文化をベースとしたもの

c.もののけ、妖怪などを扱い、人間ともののけの交流を扱うもの

d.その他、アジア風の異世界を扱うもの


 ですが、b、cの解説は先週分のを見てもらうとして、今週のこちらではアジア風、それと、大きなジャンルである中国風ファンタジーを。

 アジアンな世界観、特にここというモデルはないけれどヨーロッパとは違う世界を扱う作品としては、やはり上野菜穂子『精霊の守り人』シリーズがいちばんに出るでしょう。どことなくミャンマー、チベット、その他アジアの少数民族の文化を思わせる世界で、女傭兵バルサと皇子チャグムの物語を描くこのシリーズは長い人気を保ち、アニメ化、ドラマ化もされて、人気を集めています。

 こちらに比べると知名度は一段落ちますが、完成度が高く読み応えのあるファンタジーが高田大介『図書館の魔女』。これもどこかアジアンな国を舞台に、おそらくローマ・ギリシャ、トルコあたりであろうと思われる異国との政治的相克を軸に、「言語」に関するきわめて深い考察をまじえた物語が展開されます。おひびただしい書物と知恵に囲まれながら言葉を持たない「図書館の魔女」マツリカと、彼女のもとによこされた少年キリヒトの物語が一巻(文庫全四巻)、二巻『烏の伝言(つてごと)』は遊郭に売られた姫君と彼女を助ける剛力と呼ばれる人足、そして家のない少年たち。魔法は登場しませんが、ファンタジーとしての幻想性は極めて高く、世界構築や描写力に関しても一級品といってよいでしょう、メフィスト賞から出てきたいろんな意味で規格はずれの作品ですが、呼んでおいて損はないと思われます。

 アジアというか東欧風のファンタジーですが、田中芳樹『アルスラーン戦記』。これも古くて、もともとはわたしが二十代だったころに全盛だったシリーズですが、『鋼の錬金術師』の荒川弘によるコミカライズでまた再開しています。まあ正直第一部だけで終わっといてほしかったんですけど(ぶつぶつ)。それにしても、古代ペルシャ神話に基づくファンタジーというのはほかにあまり例がなく、戦記ファンタジーとしての楽しさもあいまって、面白いシリーズであると思います。第一部は。(いえあの)


 中国風のファンタジーというと、ドラマ化やアニメ化も昔から多かった『西遊記』『封神演義』『三国志』『水滸伝』あたりがルーツかと思われます。わたしの時代ではドラマ版『西遊記』が放映されていて、中国のおはなしというとまずここが入り口でした。

 藤崎竜による『封神演義』のコミカライズも人気でしたね。三国志や水滸伝はこれをベースにアレンジされたゲームとか漫画で名前は知ってるという人もいるかもしれません。かつてはNHKの人形劇で『三国志』があって、私らはだいたいそこらへんで名前を覚えたものです。今期のアニメで峰倉かずやによる西遊記のアレンジコミック『最遊記』が放映されるようですが、これもまた昔からある作品です。ちょっとなつかしい。

 さて、オリジナルな中国風の世界を背景にしたファンタジーというと小野不由美『十二国記』シリーズでしょう。

 まあ今中断して長いのが何ですけど……麒麟が王を選び、人間は木に実る胎果から生まれる世界で、神仙なども登場しますし麒麟という魔法めいた存在もあるにせよ、やはりこの物語の中心は困難な世界に翻弄される個人と、その中でどうやって生きていくかという問いかけです。

 いちばん最初に発表されたのは番外編的な位置づけになる作品『魔性の子』ですが、現代社会を舞台にホラーとして書かれたこの作品にも、異境に流された魂の孤独とともに、異境にあこがれる心を「逃げ」として糾弾する厳しさがあります。そういった苛烈さはのちの本編、『月の影 影の海』における主人公陽子のきびしい運命をはじめ、ままならぬ世界に翻弄されるキャラクターたちの姿にもよく現れています。

 田中芳樹は中華風、というか中国に題材をとったファンタジーをたくさん書いていて、『風よ、万里を翔けよ』『蘭稜王』『紅塵』など、直接中国史から材をとった歴史小説風のものもあり、中国の竜を現代日本の兄弟として無双させた『双竜伝』のシリーズもあります。いやこのシリーズもちょっと先へ進むといろいろ思想的なことがしんどくなってくるんだけど。

 田中芳樹の代表作として有名な『銀河英雄伝説』も、ベースは三国志でそれを宇宙へ持っていったとも言われていますので、名作でもあり、どれか一作、というのであればこちらを読んでおくのがまちがいないかと。


 中華風ファンタジーはこれまた昨今流行のようで、コバルト文庫などの少女向けレーベルをざっと見るとけっこうな冊数見つかるのですが、そこらへんはちょっとあまりにもたくさんすぎて手が届かないので、興味のある人は各自で見てみてください。

 来週はみんなあんまり見る機会がないであろう1976年度版のドラマ『西遊記』を見てもらおうと思います。近年再ドラマ化されて、香取慎吾くんが悟空やってましたが、そのベースを作ったのが堺正章主演のドラマです。ちょっと嘘みたいに豪華なドラマになっていますので、そのあたりはまた、あらためて。ではー。

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