第31話 事象:ITにおける呪いの知られざる効果?について

 俺とクラウがハットリとマリーさんの元にたどり着くまで、そう時間はかからなかった。

 道中、ゴブリンどころか動物一匹見当たらなかったのだ。

 小鳥さえも囀っていない。


「なんだか静かじゃない?」

「そうだな……虫もいないし、どうなってんだろうな? それよりクラウ。水とか持ってないか? 喉乾いてしょうがないんだが」


 正直、動物がいようがいまいが、魔物が居ようがいまいがどうでもいい。

 先ほど魔力を体に流した時からひどく喉が渇いているのだ。

 今は、喉の渇きを潤したい。


「えっ、水筒なんてもってないわよ? 我慢できないの?」

「まじ、か……。喉、渇いてしょうがないんだが」


 乾く。いや、何かしらんが、渇く。

 飲みたい。

 水でもなんでもいい。


「いかん、腹も減ってきた……」

「どうしたのよ? もう少しでハットリとマリーがいるじゃない。そこまで行けばハットリが水出してくれるわよ」


 この飢餓感と渇きはなんだ……?

 こんな感覚、前にも一回どこかで……。

 まさか、MP切れか?


 そう思った瞬間、頭にアレが過る。


――エネルギー残量確認――

――エネルギー、エリス・70%、クラウディア・25%――


 おかしい。まだある。

 なんでだ?



―――――



「あっ、ハットリとマリーよっ! ねぇハットリ! アレンがおかしいのっ!」

「おかしいのは前からでース。今更何をいってるでース」

「もう薬草は嫌……丸薬とか丸めただけじゃないですか……あんなの食べてらんない……って、アレンさんこりゃまた疲弊してますねー」


 いつの間にか俺はクラウさんの肩を借りながら歩いていたようだ。


「なん、でもいい――水、水をくれ」

「水でース?」

「アレンさん。あなたその症状――MP切れじゃないですか。なにやらかしたんです?」


 MP切れ?

 ンなわけねーだろ。

 エネルギーならあるッツーの……。


「マリー、アレンがね、森の中で魔力を使って肉体を強化したの。そうしたらこんなになっちゃったんだけど。何かわかる?」


 クラウがマリーに尋ねた。

 原因とすればそれしか考えられん。

 何があったんだ――?


「魔力? ははっ、アレンさんに魔力なんてあるわけないでしょう?」


 へ?


「とりあえず水でース。ウンディーネに感謝するでース」


 信じられない言葉が耳に入ってきたが、とりあえず俺はハットリの持っていた(おそらく木の精霊かなんかに作ってもらったであろうコップに入った)水を飲み干す。


 未だ、渇きは収まらない。


「マリーさ……、どういう、こと、だ」

「アレンが魔法を使ったの! 本当よ」

「……ちょっと、失礼しますね」


 まただ。

 またあの目だ。

 マリーさんの、俺の内側を見るようなその目……。

 実際はわずか数秒だったのだろうが、俺にはその数秒がとてつもなく長い時間に感じた。


「……なるほど……呪いは二重? いや、そうじゃないですね……呪いを媒介にして、アレンさんが魔法を行使した……ってのはちょっと違いますね。アレンさんの中にある何かが、呪いを媒介にして魔法を発言させたってことですか」

「なに、ブツブツ言ってんだ……」

「えーっと、アレンさん。貴方、もしかしてですけど、昨日あたり、頭の中に何かが過ったりします? 文字みたいなのとか、声みたいなのとか。心当たりありますよね?」

「……あ、る」

「はぁ……それを早く言ってください。そいつ、なんて奴ですか? 名前くらい知ってるでしょ?」


 あぁ、マリーさんはアレの事を言ってるのか。


 【神威】の事を。


「……アレンさん。今、【神威】っていいました?」

「あ、ああ」

「詳しい話はあとでします。クラウさん。今すぐ鎧脱いでください。そしてできれば下着姿でアレンさんに抱き着いてください」


 ……。


「はぁぁぁ!? 何言ってんのよマリー! 私がそんなことできる訳ないでしょう!?」

「緊急措置です。大丈夫ですよ。ここにはアレンさん以外は女性しかいませんから」

「そういう問題じゃないわっ!? どうして、ここで脱がなきゃいけないのよっ! しかもアレンに抱き着けですって? 何されるか分かったもんじゃないわっ!」


 も、げ、ん、かい……。


「ほら、アレンさんしおしおじゃないですか。早くしないと――マジで死にますよ?」

「っ……。そんな怖い顔で睨まないで――」

「早く。貴女しかいないんですから」



 俺はぼやける視界の中、確かにクラウさんが(しぶしぶではあるが)服を脱いで、黒と白の縞々パンツをお披露目するのを確かに見た。

 最高だ。

 生き返る心地だ。

 だが――まだ足りない。

 見るだけなんて、生殺しと変わらない。


「こんな、外でなんて……」

「つべこべ言わずに引っ付くのです」

「Hoo,クラウ、意外と胸あるでース。悔しいでース!」

「茶化さないで!」

「はい、アレンさんの鎧も脱がせましたし、引っ付いちゃってください」

「……わかったわよ……」


 まだかまだかと待った末。


 ――天使が、舞い降りた。


 正確に言おう。

 クラウさんが、俺に、抱き着いてきたのだ。


 ふおおおおおおおおおおおおお!!


 得も言われぬ感触。俺の素肌と、クラウさんの肌が密着して、ふにふにだぁ!


 先ほどまでの渇きと飢えはどこへやら、俺のテンションは一瞬で最高潮まで達した。



――以下、音声だけでお楽しみください――



「うひょぉおおおお!」

「えっ、や、やだ! 抱きしめないでよっ」

「うっひょぉおおおおおお!!」

「すりすりしちゃ、やっ!! ちょ、なにブラのホック外してんのよっ!! や、やめて!」

「ひゃああああああっはあああああああああああ!!」

「あんっ、だめ、耳はむはむしないでぇっ!!」

「まだだ、まだ足りん!!」

「んっ、あ♡ ちょ、今のは違う! 違うから!」

「弱いところ見つけたZEEEEEEE!!」

「やっ、耳かんじゃらめぇ♡ んっ、あぅぅぅ」

「あ。クラウさん堕ちましたね。これはひどい」

「エロいでース。鼻血でそうで―ス」

「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもっっっふぅうううううう!!」

「ぁあぁぁぁぁっ、こんっな、そとでらんへ、らめぇ、あぅぅぅ! ま、またひくぅううう!! ぱんふ、ぱんふかえしれぇ!」

「そろそろ止めないと、クラウがイきすぎて死んじゃいま―ス」

「なんですかこのAV……もう私たちなんて眼中にありませんよ。はぁ。やるせないですねぇ」

「は、はらかなんてらめなのっ、らめぇ!」

「ふひ、ふひひひひひひ!!」

「こ、れいひょうされひゃら、わらひ、わらひぃ……こわれ、こわれひゃうよぉおおおお!」

「俺のだ! クラウは俺のだっ!! 誰にも渡さん!!」

「ひっ、くっ、ま、まらひくぅうううぅううう!!」

「足りない……まだ、まだだ!」

「ひぎぃ!? あぅぅぅう! ……っ、あ、う」

「あ。イきすぎて落ちちゃいましたか」

「アレン、気付かずにまだ続けてまース。ビクビクしてるクラウ、かわいいでース」



―――――



 俺が我に返ったのは、マリーさんの例のクラッカー音を聞いたからだ。

 きっと銃声がしなければ俺はずっとクラウさんの身体を堪能して、最後まで致してしまっていた事だろう。


 二人の証言によると、俺はクラウの唇にキスはしなかったとか。

 そのかわり、おっぱいとか首とかにはしてたとか。


 まぁ、俺の腕の中に居るクラウを見ればわかる。


 あられもない姿で乱れきったクラウと、周りに飛び散っていた水らしき何かとかを見れば、俺が何をしでかしたのかなんて一目瞭然だ。


 まただ。

 また、やっちまったんだな。俺。


「……正気に戻りましたか?」


 俺は半裸で、なぜかしらんがクラウの縞パンを被りつつ、ブラジャーを首に巻いていた。

 良い匂いする。

 興奮するわ。

 俺もうだめだな。


「あ、ああ」


 クラウさんは、俺の腕の中で(全裸で)気を失っている。


「っ、ぁぅ」


 まだビクビクいってんだが。

 そして身じろぎするたびクラウさんのその胸の――その、突起というかなんというか。アレが擦れてすごく煽られてる気分になるんだけど。

 どうしたらいい?

 あ、襲えばいいんだぁ。


「貴方に説明しなければいけないことが山ほどあります。まずはクラウさんに服を着せますから、ちょっと目を閉じててください」

「もうちょっと、こうしてたいんだけど」

「いい加減にするでース。クラウ、頑張ってまシタ。これ以上頑張らせると多分壊れちゃいま―ス。アレンはクラウを壊す気でース?」

「……わかった。クラウに服を着せてやってくれ」

「だったら、その被ってるパンツとブラ返してください」

「だが断る!!」

「ざけんな☆」

「ふざけて等いない!」

「殺すぞ☆」


 笑顔のマリーさんめっさ怖い。


「返しますすみませんでした」


 こうして、俺達は王都に戻ることにしたわけだ。

 帰りは俺が服を着たクラウをお姫様抱っこした。

 意外なことに、マリーさんがそうしろと言ったのだ。


 クラウのいい匂いがするたび抱きしめたい欲求に駆られたが、俺は王都に着くまで我慢した。

 偉い。俺、偉い。

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