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 質問に、うぐっと言葉を詰まらせる。そんなマナーは聞いたことがない。聞いたことはないが、女子同士でしか行わないものを悠太と二人でやるという勇気が司にはない。しかしながらここで固辞してしまえば悲しむ悠太が目に浮かぶ。どうしようか。何がベストの答えだろうか。

 悩みに悩み、考えに考え、出てきた答えは


「……おススメの喫茶店はあるんでしょうか……」


 折れるしかなかった。だってここで断ったら悠太がきっと悲しそうな顔をする。それは避けたい。悠太の悲しい顔は見たくない。ならば、折れるしかないではないか。

 司の言葉に一つ頷き、悠太は「こっちっす」と言って歩き始める。

 その背を見ながら、小さくため息をついた。






 喫茶店にはやはり女性が多く、好奇の目に晒されながらのお茶を終えたのは、午後四時を過ぎたころだった。ケーキとコーヒーを胃におさめ、満足げに悠太は商店街を歩く。


「やっぱり、美人さんが一緒だと皆見るもんっすね」


 などと言って笑う悠太に、司はキョトンと首を傾げた。


「悠太くんは可愛い系だと思うんですが」


 率直な感想を言えば、ケラケラと笑い、悠太は司の頬を突っつく。


「俺、司っちのそういうとこ、好きっすよ」


 言葉の意味が分からず、目を瞬かせる。

 頭にクエスチョンマークを大量に出している司を置き去りに、悠太は先を歩きながら小さく伸びをした。


「遅くなっちゃったっすね。早く帰って夕飯食べるっすか」

「そうですね」


 紙袋を抱えながら同意する。けれど、正直に言えば眠い。あくびをかみ殺していると、それを目敏く見つけた悠太が苦笑した。


「その前に、仮眠っすかね。色々あったから、疲れたんっしょ。荷物は俺が片付けておくっす」

「いえ、でも」

「遠慮は無しっすよ。今日から同じ部屋なんっすから」


 申し出に、躊躇する。確かにかなり眠いし、そうしてくれるならありがたいが、そこで「お願いします」と言うのには抵抗があった。ただでさえ今日は色々世話になっているのだ。これ以上の面倒はかけさせたくなかった。

 それなのに


「司っちは甘えるのが下手っすねぇ。こういう時は、素直に甘えるもんっすよ」


 そう言われてしまえば、それ以上の拒否の言葉は言えなかった。

 悠太らしい気遣いに、苦笑する。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「っす」


 ニッコリと笑う悠太の顔が眩しい。

 太陽のような人だ。純粋にそう思った。

 太陽のように、周りを照らす人だ。

 彼のようになれれば、と、そう思った自分に苦笑する。

 無理だろう。自分は、悠太のようにはなれないだろうと、どこかで冷めた声がした。

 そして、きっとそれは事実だ。

 そんな自分が、冷たい人間に思えた。

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