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「どうせなら見に行くっすか? 試験に落ちるのなんか目に見えてるけど、エウロパくらい知っておいてくれないと後々困るっすから」


 寮の外を親指で指され、恐る恐る頷く。

 なんだか、嫌な予感がした。




 格納庫に行くと、そこにはいくつもの戦闘機が並んでいた。


「一番前にある機体が、俺らベクター小隊のやつっす。今日はスクランブル要員なんで、すぐ出れる位置に置いてもらってるんっすよ」


 悠太の言葉が、整備員がせわしなく動いている格納庫に響く。一番手前にある戦闘機を見れば、黒のカラーリングに尾翼がブルーグレー、エンブレムに獅子と羽根ペンをあしらったものだった。

 それを見た瞬間、頭にノイズが走る。


――始めに、『×××』が完成した。


 何が完成したのか


――次に『×××』が完成した。


 何を作ったのか。


――最後に『×××』を完成させた。


 何を完成させてのだったか。


「……っ」


 思考の合間を縫い、断片的に何かが頭を駆けていく。不鮮明で、不明瞭で、ザザッと流れる砂嵐のようなそれに、思わず頭を押さえてよろめいた。


「神宮寺くん、大丈夫かい?」


 目ざとく異変に気付いた志紀が、心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫です」と言いたかったが、頭のノイズが酷すぎて言葉が出ない。

 何かを思い出そうとしているのか。

 それとも、今まで通りただの知識なのか。

 どちらなのかさえ、判断ができなかった。

 ただ分かるのは、


 自分は、『これ』を知っている。


 それが何を指すのか、司にはまるで分らなかった。

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