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「こっちだ」


 志紀の声に、視線を戻す。彼は数歩先を行き、司を手招いていた。小走りで近寄ると、志紀はゆっくりと歩き始めた。


「さっきも話したけど、アルゴノーツは全寮制でね。生徒はみな寮に住んでいるんだ」


 歩きながら、彼は説明を始める。


「食事は三食付き。一年生と二年生は相部屋。三年になると個室をもらえる決まりになっている」


 校舎を出て渡り廊下を行くと、ちょうど校舎と直角になるように、前方にL字型のレンガ仕立ての建物が見えてきた。あれが寮だろうか。三階建ての赤レンガにきれいに磨かれた銀枠の窓。風に揺れるカーテンが白く目に眩しい。

 ぼんやり見上げていると、志紀が笑った。


「そんなにまじまじと見るようなものかい? まぁ、どこかのブロックの、取り崩し予定だったホテルを買い取って寮に改造したという噂だから、建築的な意味では珍しいかもしれないけれど」


 それは、建築的な意味というかこの世界においてのレアケースなのではあるまいか。話ではテラーとやらに至る所が蹂躙されている現状において、そのような噂が立つほど古い建築物というものは少ない気がした。


「この分校が出来てからは、どれくらい経つんですか?」


 司の問いに、ドアに手をかけながら志紀は「ん~」と少し考えた。


「確か、十年くらいじゃないかな」


 十年……その年月が長いのか短いのかは司には分からない。

 けれど知識は言っている。西暦二〇六八年はうるう年であり、うるう年を含めて計算すると十年は三千六百五十三日あり、八万七千八百六十二時間あり、五百二十六万三百二十分あり、三億千五百六十一万九千二百秒ある。とても短いとは思えない。

 と、同時に、こんなことがポッと浮かんでくるこの頭が、やはり恐ろしく思えた。


「遠坂さん」

「何だい?」


 ドアに手をかけたままの志紀が、笑顔で首を傾げる。この人は、司令官が言わなくとも、きっと自分の処遇が落ち着くまでこうやって面倒を見てくれるのだろうと、そんな益体もないことを考えた。


「ずっと気になっていたんですが、今は何月ですか?」


 キョロキョロと辺りを見渡し、首を傾げた。自分の格好から推測できれば良かったのだが、あいにくとオールシーズン着れそうな服装だ。加えて、どうやら東北地方の知識には乏しかったらしい。どうにも、季節が上手く測れない。

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