最大級の危険思想所持者はだれ?

ちびまるフォイ

危険思想の犯罪者

「毎週金曜日は思想回収日なんだから出しておきなさいよ」


「はーい」


親に言われてゴミ袋に危険思想を詰めていく。

ゲームや漫画が有害だと騒がれていたのも昔。


こうして毎週、危険思想をゴミとして出していくことを条件に

今ではどんなことも前ほど騒がれなくなった。


ゴミステーションにつくと、すでにゴミ袋が積まれていた。

ネットをどけてゴミ袋を上に重ねる。


ビリッ。


「あっ、やべっ」


勢いで誰かのゴミ袋を裂いてしまった。

ごまかそうかと裂け目に近づいたとき、頭に危険思想が流れてきた。


「おお、こんなこと考えているんだ……!」


内容は実現性ゼロのくだらない妄想でしかなかったが、

自分にはない発想にほれこんでしまった。


こんなことを考える人がいるんだ。


それから、俺は毎週金曜日になるとゴミを少しづつ荒らすようになった。


「へぇ、こんな風に考えているんだ……」


他人の危険思想は怪しい魅力がある。

最初はひと袋を裂くくらいだったが、どんどんエスカレートして

気が付けば自分の家にゴミを持ち帰るようになった。


「ふふふ、家に持ち帰れば、俺がいくらゴミ漁りしても気付かれない。

 それにほかの人の危険思想ものぞき放題だ」


一度、手元においた危険思想は手放すのが惜しくなる。

それは自分のアイデアを手放すようなもので、危険思想はたまり続けた。


『見てください! あれが近所でも有名なゴミ屋敷です!』


ついにテレビで紹介されるほどに。


『どうして危険思想を捨てないんですか?』


「あんたらにはわからないかもしれないが、

 危険思想にはほかの人の犯罪願望や闇の部分が見れるんだよ。

 普段見れない裏の顔をのぞける面白さ、想像したことあるか?」


『近隣の人は迷惑していますよ?

 あなたがいつ大きな犯罪を起こさないか不安だと』


「思想は思想です。別に実行に移すつもりはありません」


『そうですか。このことは今国会でも話し合われる予定です』


「はい!?」


インタビュワーが去った後も、俺の頭には国会の2文字がぐるぐる回っていた。

嫌な予感は的中し、数日後に国の手が入ることに。


「早く危険思想を捨てなさい! さもないと強制的に除去しますよ!」


「う、うるさい! ここにあるのは全部俺の財産なんだ!」


「ではこちらも強硬手段に出ます。

 あなたのような犯罪者予備軍を放ってはおけませんからね」


国から派遣された業者たちはバリケードを壊しどんどん中に入っていく。

逃げ場のなくなったことを確信した。


「ああ、もうダメだ……」


業者は俺のもとまでたどり着くと、手を差し伸べた。


「同志。君も私たちと同じなんだね」


「……は?」


「私たちは国から依頼された業者ではあるが、

 君と同じく危険思想に魅せられた奴らなんだ」


「じゃあ……俺を助けにきたのか?」


「もちろん。そして、この国を一緒に変えよう。

 この国から失われた反抗心を取り戻すんだ」


俺は迷わず手を取った。

まさか国も危険思想のメンバーが内部にいるとは思うまい。


彼らも俺と同じように危険思想をのぞき、その魅力に取りつかれた人たち。

こうして、ごみの撤去にかこつけてメンバーを増やしていた。


「それじゃあ、作戦を話そう」


彼らの犯罪プランは緻密で性格、完璧な内容だった。


なにせ、いろんな人の犯罪欲求などをスポンジのように吸い込み

それを形にしているんだから最強だ。


「すごい! これならこの国を変えることができる!」


「ああ、危険思想だなんだと勝手に私たちの思考を奪った奴らに復讐だ!」


何度もシミュレーションを重ねて決行へと移された。

どこにも失敗する要素のない完璧な作戦だった。



「警察だ!! 全員、思想犯罪で逮捕する!!」



なのに、すぐに捕まって作戦は断念させられた。


「ぬはははは。この犯罪者予備軍どもめ。警察を甘く見るんじゃない」


「どうして……完璧な作戦だったのに。どうして先回りできたんだ」


「警察がどれだけの犯罪者を相手にしてるか知ってるのか?」


警察はふふんと自信ありげに話した。


「お前ら程度が集めた危険思想じゃ数が足りねぇよ。

 こっちはもっと数を集めてるからな。

 結局、この世は情報戦。どれだけ集めてるかが大事なんだよ」


「くそっ……」


警察にいれば、生の犯罪者から危険思想を回収できる。

こっそりゴミ袋を持ち帰るような俺たちとはものの数がちがったのか。


「警察の裏をかきたいんだったら、警察以上に危険思想を集めてみろ!

 まあ、そんなこと素人には無理だがな! がはははは!!」


警官が高笑いした瞬間、警察署が大爆発した。

計算された爆発でとらえられていた危険思想人物たちはみんな逃げ出せた。


まさに警察の裏をかいた行動。




犯人であるゴミ収集車の業者は、いまだに逃亡中らしい。

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