10.その後
――カケルが退院して三ヶ月後。
カケルは定期的な通院をきちんと継続していた。
ひとりで外来にやってきて、ひとりで診察室の中で新井に最近の様子を伝えることができている。
またデイケアへの通所を開始していた。
週に四日デイケアへ通い、仲の良い友達も出来たようでとても楽しいとカルテに記載がある。
今田は、カケルのカルテをチェックしていた。
こうやって時間が空いた時に、担当していた患者のカルテをチェックするのが今田の習慣になっていた。
「あ、昨日カケルさん、連携室を訪ねて来ましたよ」
「金本さん。なんか相談事でしたか?」
「相談っていうか、『最近体調がとてもいいです。デイケアにも行っています。今田さんのおかげですって、今田さんに伝えてください』だそうですよ」
「あはは。それは何よりだ」
今田は安堵する。
「うまくいっているのは、僕が何かをしたからじゃない。カケルさんが頑張っているからですよ」
「ん、今田さん。何か言いましたか?」
「いえいえ、なんでもないでーす」
今田は笑ってそう言うと、ソッとカケルのカルテを閉じた。
――と、その時。【地域医療連携室】に鳴り響く一本の電話。
「はい、やまざと精神科病院です」
金本が対応する。
「……はい。はい……、分かりました。緊急を要しますね。了解しました」
電話を切るなり、金本は【地域医療連携室】全体に届く声で、伝達をする。
「警察から入院要請です。裸で支離滅裂なことを叫びながら近所の家の門扉を破損した六十代の男性。これからこっちに向かってくるとのこと。院長に確認をとって、急性期閉鎖病棟の保護室を調整してきます!」
一瞬で慌ただしくなる【地域医療連携室】。
金本がベッドコントロールで走る中、今田は入院対応するための書類をかき集めた。
『裸足で歩くと、痛いよね。いろんなものが道に落ちているからね。石ころやガラスの破片。こんなものまで、というものもあるよね。でも靴を履いて歩くと、どう? 痛くないでしょ?』
「僕は、そんな靴のような相談員になりたい」
今田は、ファイルを抱え救急搬送口へと急いだ。
――カケル編 Fin.
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