寝不足サーバルちゃん

メーキモ

寝不足サーバルちゃん

 ボクの名前はかばんです。

 サーバルちゃんが付けてくれた、お気に入りの名前。

 たった1人でジャパリパークに生まれ、何者でもなかったボクをサーバルちゃんは『かばんちゃん』と呼んでくれました。

 出会ったフレンズの皆さんはボクを『かばんちゃん』として認識し、仲間として認めてくれます。

 それはよく考えたら何だか不思議な感じがします。

 ボクがこうして皆さんに受け入れてもらえているのはきっとサーバルちゃんのおか

げなのだと思います。

 サーバルちゃんが何度もボクの名前を呼んで、ボクがここに居るのが当然のようにふるまってくれたから、ボクは地に足のついた存在として、ジャパリパークで過ごせている。そんな気がするのです。

 名前をつけるというのは、その人に居場所を与えるということ。

 本人は無自覚なのだと思いますが、サーバルちゃんは名前をつけると同時に、ボクに居場所を与えてくれたのでしょう。


 サーバルちゃんというのは、サーバルキャットのフレンズです。

 仲間想いで、元気いっぱいな女の子。

 ……のはずなのですが。


「サーバルちゃん大丈夫?」

「なにがー……? ぜんぜんへーきだよー」

 普段よりも遥かに小さい声で返事が返ってきます。

 目はうつろ、口も半開きでいつもの元気は跡形もありません。

 サーバルちゃんはボクが何の動物なのかを調べるため、図書館へ向かうのに付き合ってくれています。

 本来は夜行性の動物であるにも関わらず、ボクの生活リズムに合わせて昼間一緒に活動をしてくれているのです。

「ごめんね。ずっとボクに合わせて生活してくれてたから、疲れが溜まってるんだね。サーバルちゃんは、夜は余り眠れないだろうし……」

「よるもねむれるよ。だけど最近はよるにかりごっこをするのがたのしくて……」

「夜に狩りごっこって……もしかして夜も一睡もしてなかったの!? 言ってくれれば昼間寝てても良かったのに」

「ひるはかばんちゃんとたびをするのがたのしくって、ねるのがもったいないなーって」

 そう言ってもらえるのは嬉しいけど、無理をするのは良くありません。

 ボクのために無理をさせているなら尚更です。

「ちょっとこの辺りでお昼寝していこうか」

「へーきへーき、きにしないで! さぁさきにすすもう!」

「サーバルちゃん! そっちは川だよ!」

 ふらふらと歩き始めるサーバルちゃんの手をつかんで引き戻します。

 すると、サーバルちゃんは歩みを止め、その場に倒れこんで寝息を立て始めました。

 とりあえず一安心かと思ったのですが……

 空は快晴。

 強い日差しが地面を焼きます。

 サーバルちゃんも眉をひそめていて、何だか寝苦しそう。

 大きな木でもあれば、木陰で休ませてあげられるんだけど……

 辺りを見回しても、近くに丁度良い木はありません。

「よしっ」

 ボクはサーバルちゃんを木陰へと連れて行くことにしました。

 サーバルちゃんに「おぶさって」と声をかけると、器用にも寝たままボクの背中にもたれかかって、首に手を回してくれました。

 しっかりとサーバルちゃんを背負い直し、歩き始めます。

 初めて背負ったサーバルちゃんの身体は、思っていたよりも軽かったです。

 こんなに小さい身体でボクを守ってくれていたんだな、なんて考えていると……

「わあ!?」

 首筋にサーバルちゃんの寝息がかかりました。

 ここまで間近でサーバルちゃんの存在を感じるのは初めてで、何だかドキドキしてしまいます。

 だけど、サーバルちゃんの安眠のためならこれくら我慢しないと。 

 ボクは雑念を振り払って、再び歩き始めました。

「かばんちゃん?」

「あ、起きちゃった?」 

「なにこれ、かみヒコーキ?」

 どうやら寝言のようです。

「おっきいねー。えー……のれるの? すごーい……!」

 何だか楽しい夢を見てるみたい。

 できるだけサーバルちゃんを揺らさないように慎重に歩みを進めていると、道の先に大きな木を見つけました。

 もう少し。

 ボクは汗を拭うと、疲れの溜まってきた足に力を込めました。


 遠くの空が赤色に染まっています。

 綺麗な夕焼けだなぁなんて考えていると、ボクのひざに頭を乗せて寝ていたサーバルちゃんが目を覚ましました。

「私、寝ちゃってた?」

「うん。まだ寝てても大丈夫だよ」

「あれ、ここどこ? 大きい紙飛行機で飛んできたの?」

 どうやら先程の夢の話をしているようです。

 そんなサーバルちゃんが愛おしくて、思わず微笑みがこぼれました。

「ううん。ボクがおんぶしてきたんだよ」

「そうなんだ……あ、ごめんね。疲れたよね?」

「全然そんなことないよ」

 サーバルちゃんは「でも……」と少し考えるように俯いて……

 突然顔を上げました。

「じゃあ次は私がおんぶする! たくさん寝たから元気いっぱいだよ!」

「えぇ!? そんなことしなくて大丈夫だよ!」

「いいからいいから!」

 そう言うとサーバルちゃんはボクに背中を向けました。

「ほら、のってのって!」

 せっかく休んでもらえたのに、また疲れさせてしまうのにも抵抗がありましたが、こうなったサーバルちゃんは少しだけ頑固です。

「じゃあちょっとだけね。もうすぐ夜になるし、余り遠くまでは行かなくて良いからね」

「うん! 分かってるよ!」

 ラッキーさんに鞄に入ってもらい、忘れ物がない事も確認します。

 サーバルちゃんの背中に乗って、前へと腕を回したところで、ふと、嫌な予感がしました。

 頭の中に、凄い勢いで走り回るいつものサーバルちゃんの様子が思い浮かびます。

「サーバルちゃん。ゆっくり。ゆっくりね?」

「大丈夫! 元気いっぱいだから!」

 背負われているため顔は見えませんが、やる気に満ち溢れているサーバルちゃんの表情が目に浮かびます。

 徐々に血の気が引いていくのを感じます。

「そ、そうじゃなくて……!」

 ボクの言葉を待たずにサーバルちゃんの身体が一度深く沈みこみ。

「行っくよー!!」

 力強く大地を蹴りました。

 見たことの無いスピードで、つい先程まで居た木陰が後ろへと遠ざかっていきます。

「さ、サーバルちゃん! 待って!」

「みゃみゃみゃみゃみゃ!!!」

「速いよ! こわいよ!」

 ボクは帽子が飛ばされないように片腕で抑えながら、もう片方の手でサーバルちゃんにしがみつくので精一杯でした。

「えー? 風の音で聞こえないよ!」

「おろしてーーー!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寝不足サーバルちゃん メーキモ @meitei_2007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ