モノ輪廻

長田茜

美味しく生きていきましょう

少し遠い未来の話をしよう。今この世界は、「物」に支配されています。とはいっても、きちんと食べていれば大丈夫なんですが。

「製品名正確性使用製造元保護法」。

きっと、君の世界では想像もつかないのかな。

でも聞いて欲しい。30年前の、俺たちに。




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美味しく生きていきましょう

😅😅😅😅😅😅😅😅😅😅👌😅😅😅



キャスター「次のニュースです。TwitterやYouTube若者達の素行が目立っています。街中では食べ物を粗末に扱うことが問題視されており…」





……今俺が食べているこのラーメン。


海苔は多少しなび、まだ少し冷たいメンマ。可もなく不可もない味の醤油ベースのスープに、コンビニで180円くらいで買えるであろうチャーシュー。

固くもなく柔らかくもない麺。


田嶋「……やべぇ」


莉音「…は?」


おっと、声に出てしまっていたのか…!


田嶋「このラーメンだよ!!すべてに置いて可もなく不可もない!これだよ!このラーメンソムリエ田嶋幸太!この味を求めてた!」


莉音「おい、恥ずかしいからちょっと黙ってくんね?…しかも店長らしき人怖そうだし」


確かに数年前から食に関して厳しくなってきている。近々ではどこの店に行っても写真の撮影は厳禁。食べたら即帰ることなどが義務付けられている。

それは恐らく、一部YouTuberやTwitter民の影響だ。 もともとエスカレートしていたYouTuberの行動やTwitter民のいいね稼ぎ。それが常軌を逸しはじめた。食べ物を粗末に扱う人達が多すぎるのだ。

警察も動き出すレベルだとか…なんとか。


要するに、俺のような純粋に食を楽しんでいる人間からすれば甚だ迷惑な話だって事。


パシャッ。


店長が鋭い顔でこちらを見た。


田嶋「おい莉音…! またツイッター何かのために…」


莉音「だってさ、このラーメン画面映えしそうなんだもん♪」


ズカズカと店長がコチラに歩いてくる。


店長「君、写真撮ったね今」


莉音「…えぇ、撮りましたけど?」


撮りましたけど?じゃねぇよ!!

こっちのラーメンライフまで侵されちまうだろうが…!!


田嶋「あっ…!違うんですよぉ!コイツ、パシャッていうのが口癖っつーかなんつーか…なぁ?」


莉音「……画像あげよ」


水無月ィィ!!


店長「……君たち帰っていいよ」


莉音「は?何で帰んなきゃいけねーんだよ!!」


田嶋「たちって…何で俺まで含まれてんすか!?」



ドンッッ



店長「君たち、帰った方がいいよ。」





木製のテーブルに突き立てられたのは、包丁だった。





田嶋「あぁぁーー!!もう!!お前のせいでせっかくの可もなく不可もなく拉麺食べ損ねただろうが!!」


莉音「いいじゃんいいじゃんまた行けばさ?てか、あの店長頭おかしくね?」


田嶋「…いやあのようすからして絶対出禁だろ…」


水無月莉音。俺とは小中と腐れ縁。そろそろみんなが高校受験に向けて動き出している中、こいつだけは…何もしていない。というのも…


莉音「てか私さ、最近夢に向けて動画あげ出したのよ!見てみてこれ!初のメントスコーラ実験でさぁ…!」


そう、こいつの夢はYouTuber。まさに今問題視されている物事の渦中の存在。


田嶋「お前さ、本気でYouTuberになる気なの?今食いもんに対してかなり厳しくなってるこの世界でさ、YouTuberなんて食い物使ってナンボなとこあんじゃんか。」


莉音「バレなきゃ大丈夫っしょー。警察が本気で動く動くって言ってて実際動いてないじゃん!」


田嶋「まぁ…そうだけどよぉ」


莉音「ま、今日もこれから家帰って動画取るから!今度はコーラを煮詰めてどんだけ砂糖が入ってるかっていう検証動画?みたいな」


田嶋「…逮捕されても知らないからな」


莉音「でーじょーぶでーじょーぶ!そもそもありもしない警察に怯えてどうすんのよ…!じゃまたね、動画絶対見ろよ!!」


田嶋「はいはい…分かりやしたよ」


そのまま俺は莉音と別れた。スマホを見るとまだ昼間の1時半だった。


田嶋「…謝り行こ」


さきほどの拉麺屋。実は幼い頃に、今は亡き母と一緒に行ったことがある。

久々に食べたあの味は、懐かしくて、切なかった。前に訪れた時は店長はもっと気さくで、何より笑ってた。


思い出の味は、命の味。


きちんと謝ってもう一度笑ってもらおう。

空が突き抜けて青い日だった。



店の前に着くと、「本日閉店」の文字が。


田嶋「まだお昼時じゃねーのかよ…!」


念のためにドアを引くも、鍵がかかっていてビクともしない。


…日を改めて来るか。

そう思い店に背を向け歩き出す。


しかし、店長の喋り声が耳に飛び込んできた。 店の横と家との間の狭い裏路地。良くかくれんぼで隠れた場所。

店長と、黒いスーツの男が話している。耳をすませば話し声が聞こえてくる。


店長「……ってぇとつまり……って事なのかい?」


黒服「えぇ…はい…はい…学生達ですか…はい」


どうやら話題は…俺たち…!?もう閉まってんだから学生達って俺たちしかいねぇだろ…!!


少し日の向きが変わったため、路地に日が差し込んできた。店長たちが日陰に入るためにこっちに近づいてくる。


さっきよりもはっきりと聞こえる。


店長「そいつぁ嬉しいねぇ…いよいよって訳ですかい」


黒服「えぇ…こちらも本腰を入れて動き出しまして」


店長「俺たちもいい加減嫌気がさしててなぁ…今日来た学生2人なんかもね、パシャパシャ写真なんか撮りやがって…」


店長「殺したくなっちゃいますよ。」


!?今…店長はなんて言ったんだ…!?殺したく…!? しかも話の流れからあの黒服…


黒服「…ご安心ください。食べ物だけでは無く、様々なものを本来の用途で扱わないもの…」


黒服「我々警察が必ず見つけ出し…」


黒服「必要とあらば殺します。」



そんな事したら…!YouTuberはもちろん…一般人にも被害が及んじまうぞ!?

しかも警察が!?そんなのありかよ…!



フッと頭の中を声が横切る。



莉音の今日の企画…なんて言ってた…!?


「コーラを煮詰めて…」


コーラは飲むもの…本来の用途にそぐわない!!


田嶋「クソッ!!」


莉音が動画を公開するのが先か、警察がこの法案を発表するのが先か!!


ともかくコレ…何かとんでもねぇ事になってきたんじゃねぇのか!!!?

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モノ輪廻 長田茜 @Kou0527ta

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