PPP暗黒プロレス・魔王<フルル>覚醒

桐生夢月

第1話


木床に円形に集まって座るメンバーたちの表情はプリンセスのただならぬ気配を察したのか神妙だった。

「私たち、このままでいいのかしら」

重い口を開いてプリンセスから出たのはそんな言葉だった。

「おいおい、いきなりなに言い出すんだよ」

「いったいどうしたんだプリンセス」

予想しなかった言葉にイワビーとコウテイが真意を伺う。

「ジャパリパークにはマーゲイみたいなすごい特技を持つフレンズが沢山いるわ、このまま踊って歌うだけのアイドルはすぐに時代遅れになる」

「考えすぎだろー」

楽観主義者のイワビーが諭す。

「じゃあ、プリンセスは歌と踊り以外で何をしようと思ってるんだ?」

「そうね、私たちには足りないものがあるわ」

「足りないもの、ですか?」

コウテイとジェーンが顔を見合わせる。

「それはね、力強さよ!アイドルは可愛さを振りまいてればいいって訳じゃない、凛々しさと威厳を兼ね備えていなければダメなの!とくにフルル、あなたはね!」

「え、フルル~?」

ペパプきっての天然アイドルはやはりとぼけた様子で首を傾げていた。

「私たちはこれから力強さを前面に押し出し、観客を熱狂させるためのパフォーマンス『プロレス』を練習するわよ!」



幾日かの練習を経て、ぺパプのプロレスイベント開催日が訪れた、場所は因縁の『みずべちほー』だ。

ステージ上の特設リングは例によってハカセたちの指示の下制作されたものである。

既にステージの周囲にはぺパプの登場を今かと待ちわびているフレンズで溢れている。

そんな中、空中から二人のフレンズがリング前方に設置された解説席へ降り立った。

「まったく、うるさいのは苦手なのです」

「まったくなのです、しかし、わたしたちもプロレスというものを見てみたいのです」

図書館の知識の泉にしてジャパリパークの長、ワシミミズクとアフリカオオコノハズクだ。

プリンセスにプロレスに関して入れ知恵したのもこのふたりである。

ハカセとジョシュが着席したことにより役者は整った、その横に座るマーゲイも一ファンとして爛々と目を輝かせている。

ステージライトが駆動してリングの中央に並ぶペンギンアイドルユニットの姿を照らした。

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。今回は新しいパフォーマンスを用意したの、きっと楽しんでもらえると思うわ」

プロレスは説明よりもフィーリングだ、挨拶も早々にコウテイとジェーン、レフェリーであるプリンセスをリングに残し、イワビー、フルルは降段する。

「さぁ、度肝を抜いてやるわ……!マーゲイ、ゴングを!」

リング上のジェーンは普段の柔和な印象とは異なり険しい視線を相対するコウテイに送っていた、ただならぬ雰囲気を察するフレンズたち、静寂を破りマーゲイがゴングを響かせた。


「いきます、はああああああああああ!!」


ゴングと共にジェーンがコウテイとの距離を詰める、そこからくり出されたのは……ビンタ!

「うぐッ……!」

頬を打たれ後退するコウテイ。

客席は勿論、解説席の三人も唖然としていた、目の前で起きた光景に理解が追いついていない。

「な、なんなのですかあれは!?」

「わからないのです、ジェーンがいきなりビンタを放ったのです」

リングは動き出したら止まらない、コウテイがお返しとばかりにラリアットを見舞うとジェーンは非常に大袈裟にマットに倒れる。

すると次第に観客から声が漏れ始める。

「まだ、まだです……!」

ジェーンがゆっくりと立ち上がる。

今度は彼女がラリアットを繰り出す、がコウテイはそれを見切りサイドスウェー、ジェーンは勢いのままロープにぶつかり反張して再びコウテイのいる方向へ。

そこに待ち受けていたのはコウテイのラリアットだった。

再びマットに伏したジェーン、今回はプリンセスのカウントが入る。

「ワン、ツー、スリー!ウィナー、コウテイ!!」

プリンセスが腕を交差させると共にマーゲイがゴングを打ち鳴らす、試合終了だ。

観客のフレンズたちから歓声が上がる、反応は上々だ。

「これがプロレスなのですか、なんだか野生を感じるのです」

「妙にクセになるのです」

観客の熱が冷めやらぬうち対戦は次のカードへ、イワビーとフルルの番だ。

「さぁ、続けて第二回戦もいくわよ」

マーゲイがゴングを鳴らす、と同時にリングの空気が一変する。

「よぉしフルル、いっちょ揉んでやるz――――」

イワビーが言い終えるより前にフフルが放ったドロップキックが腹部に直撃していた。

「ぐはッ……おい、フルル……打ち合わせと」

「ねぇイワビー、もう始まってるんだよ~」

なんだか、普段の抑揚のないフルル声がとても恐ろしく感じる。

「へっ、本気ってわけかよ、なら遠慮しねぇぜ!おらぁッ!」

イワビーは口元をぬぐってから勢いよくラリアットを仕掛けた、しかしフルルを射程に入れて放ったはずの攻撃は空を切る。

「も~おそいよ~」

その声はイワビーの背後から聞こえてきたものだった、イワビーは振り返ろうとしたが既に腰を掴まれて拘束されていることに気が付く。

「お、おいっ、フルルなにする気だ!やめろぉ!」

イワビーのその声は観客席までは届かなかった。フルルに持ち上げられたイワビーの視界が反転する。

「みんなみててね~」

フルルはそのままイワビーの頭部をマットへと突き刺した。


「ブ……ブレーンバスターーー!!」


解説席のマーゲイが声をあげると共に観客席は湧き上がった、カウント不要でゴングが打ち鳴らされる。



リング上には気が気でないコウテイと何を考えているのか全く表情が読めないフルルが対峙していた。

「さぁ、最高に盛り上がってきたわね、それじゃあ決勝戦!コウテイ対フルル始めるわよっ!」

イワビーのとき同様、フルルは速攻のドロップキックを放つ、誰もがイワビーの二の舞を想像した、しかし、コウテイはドロップキックを放ったフルルの身体を受け止めそのまま持ち上げると背中からマットへ叩き落とした。

コウテイのパワーボムだ。

見事なカウンターを決めたコウテイの瞳が光をたたえている。

「これは、野生解放なのです」

解説席のハカセが思わずマイクを取った。

「もうびっくりしたよー、突然本気出すからー」

「それはこっちの台詞だぞフルル、でもお客さんは喜んでくれたみたいで何よりだ」

マットに仰向けになったまま手を伸ばすフルル、コウテイもそれに応じ手を差し出した、激闘を繰り広げた両者は握手で讃え合い試合が終幕した。

誰もがそう思った。


「つかまえたぁー」


コウテイの全身に鳥肌が立ち背筋が凍りついた、今すぐ逃げろと動物的本能が訴えてきたが時すでに遅し、瞬間、背後にまわったフルルに腰をホールドされる。

そのまま後方に反り投げられて後頭部をマットに叩き付けられる。

非道なフルルのジャーマンスープレックスに会場は戦慄した。

「う、うぐっ……」

奇襲を受けても尚コウテイはどうにか立ち上がろうと試みる。

「へぇ、まだ立つ気なんだ、そういうのマゾっていうんだよね~」

フルルはいつの間にかコーナーポストの上に登っていた。

まさかこの期に及んで追撃を加えようというのか。

「空はー飛べないけどー」

PPPぺパプの代表曲である『大空ドリーマー』を口ずさむフルルの両腕から虹色の粒子が漏れ出していた。

「野生……解放……」

その姿を眺めながらコウテイは絶句した。

「夢のー翼があるー」

反転しながら体を宙に解き放つフルル。

「強くなったな、フルル……」

広げられた両翼が太陽を遮るのを眺めながらコウテイは微笑んだ。

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